政府、外資出資制限の緩和方針を表明−ネガティブリストを2013年内に改定へ−

(インドネシア)

ジャカルタ事務所

2013年11月18日

政府は、投資の禁止・規制業種、外国企業による出資制限比率を定めたネガティブリストについて、2013年内に改定が完了する見込みだと表明した。改定案は現在、外資参入を禁止している分野を開放し、出資制限分野も緩和するという内容。今後、各関係省庁が産業界と最終調整を行った上で、大統領令として出す予定だ。外国投資を促進すると評価の声がある一方、外資独占が加速する恐れがあるとして警戒する声も上がっている。

<空港・港湾運営は100%開放に>
政府は、民間企業が参入できない分野、条件付きで開放されている分野、外国企業による出資上限比率を業種ごとに規定した大統領令2010年36号(以下、2010年ネガティブリスト)について、改定案の一部を公表した。ハッタ経済調整相は11月6日、経済調整相府が主催し、ムハイミン労働移住相、マヘンドラ投資調整庁(BKPM)長官、バンバン財務副大臣、ワナンディ・インドネシア経営者協会(APINDO)会長らが参加した調整会議の後に記者会見し、「今回の3年ぶりの改定では、規制強化よりも外資開放、規制緩和を重視する」とコメントした。足元の不透明なグローバル経済の状況下、2014年に総選挙を控え、インドネシアの投資環境に関する不透明感が高まっており、外国企業の投資家が静観を保っているため、国外直接投資の呼び水としたい意向だ。

公表された改定案では、これまで外国企業が事業参入できなかった閉鎖分野のうち、複数について開放するとしている。空港・港湾運営については、外資出資を100%可能とする(表1参照)。陸上貨物・旅客ターミナル運営と映画配給は外資出資上限を49%とするほか、広告業ではASEANからの出資を条件として51%を上限とする。マヘンドラBKPM長官によると、空港・港湾運営についてはこれまで、国営空港管理会社アンカサプラ(Angkasa Pura)、国営港湾運営会社ペリンド(Pelindo)が行ってきたが、バリ北部やジョグジャカルタをはじめとしたPPP(官民連携)による新空港事業が失速しているのは、外資閉鎖分野であることも一因と説明した。外資開放により、PPP事業が進展することを期待する一方、資産や施設の所有権は国内企業に残るとした。

次に、外国企業による出資上限制限を一部緩和する分野については、通信(固定49%、移動65%を65%に統一)、製薬(75%から85%へ)、エコツーリズム(49%から70%へ、注)などを公表した。現行出資上限が67%となっている医療分野(病院)でも、外資出資制限の緩和を検討しているが、「一般病院ではなく、特別病院を想定している」(マヘンドラ長官)とし、具体的な内容は公表しなかった。他方で、外資規制を強化する分野については、これまでの報道で、高度な技術を必要としない家電分野、資源分野などで規制強化する意向を示しているとされていたものの、公表されなかった。

表1大統領令2010年36号(2010年ネガティブリスト)と改定案(外資出資上限)

<地元紙には警戒の声も>
ワナンディAPINDO会長は「外国企業の参入は、途上国であるインドネシアにとって利益がある。国内企業にとっての脅威として捉えるものではない」とし、外資開放、規制緩和の政府案について高い評価をしている。他方、外資開放、規制緩和に関して、警戒する声も一部に出ている。現地紙最大手の「コンパス(KOMPAS)」(11月7日)は、「外資独占の加速化」という1面見出しで、ネガティブリストの改定案を紹介している。経済改革センター(Center of Reform on Economic:CORE)のヘンドリー・ディレクターは「改定案は包括的戦略が不足しており、政府は投資呼び込みのみを考えている」と批判し、「外資開放、規制緩和により経済成長を達成するだけではなく、政策の目指すべき方向性を示すべきだ。全ての関係者に利益があるものでなければならない」とした上で、適切なインセンティブや経済活動が集中するジャワ島以外の誘致も考慮した上での改定が必要とコメントした。

同紙では、現時点で金融セクターは少なくとも12銀行が外資系銀行であるほか、石油ガス分野では70%が、銅・金分野では85%が外資によるものと指摘している(表2参照)。また、通信大手4社でも外資出資比率が35%から66.5%と高く、輸出主要品目であるパーム油の栽培面積890万ヘクタールのうち、40%は外資系企業が運営しているという。

表2外資企業の進出が著しい分野

ハッタ経済調整相は、公表された改定案は確定されたものではなく、今後、大統領へ進捗状況を報告するとともにビジネス界との協議を終了させ、2013年内には改定令を出したいとしている。BKPMのマヘンドラ長官はジェトロに対して、足元のグローバル経済などを考慮し、政府は急激もしくは加速的な成長を求めるのではなく、持続可能な経済成長を目指したいと話した。また、国内産業の競争力強化、投資環境の向上を達成するため、インドネシアを魅力的な市場として捉えるだけではなく、生産・輸出拠点として活用する付加価値産業を外国から呼び込みたいとコメントしている。

(注)自然環境や歴史文化を対象とし、それらを体験し、学ぶとともに、対象となる地域の自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ観光のあり方(環境省)。

(藤江秀樹)

(インドネシア)

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