トラック走行課税「エコタックス」の施行を無期延期
パリ事務所
2013年11月07日
政府は10月29日、トラックの走行距離に応じて課税する対距離課金(エコタックス)制度の施行を無期延期すると決定した。2014年1月1日から施行予定だったが、反対運動が先鋭化する中、ジャン=マルク・エロー首相が運動の沈静化を図るため、トラックによる農産品の輸送に依存するブルターニュ地域圏議会議員と緊急会議を開催した後に発表した。関係者が制度の施行内容を再度協議、修正することにより事態の収拾を図る。
<ブルターニュ地域で反対運動が先鋭化>
エコタックス制度施行の延期は、10月29日に行われたブルターニュ地域圏議会議員との緊急会議開催後、エロー首相が発表した。同首相は「エコタックスは修正しなければならないが、交通インフラ整備の財源には必要」として、「廃止ではなく延期」を強調した。フランスを代表する農業地帯で、農産物の輸送をトラックに頼るブルターニュ地域ではエコタックス反対デモが先鋭化。首相は反対運動を展開する同地域圏の食品加工、農業、物流の事業者に対して「対立ではなく対話を」と呼び掛け、「勇気とは強情を張ることではなく、耳を傾け理解すること、解決策を模索し暴力の連鎖を回避すること」と運動の沈静化を呼び掛けた。
政府が一地方圏と国内の法規制施行について会談するのは異例の事態だが、野党の国民運動連合(UMP)議員はエコタックス制度の完全廃止を要求し緊急会議を欠席。エロー首相は、ブルターニュ地域の経済情勢の悪化を踏まえ、「エコタックス制度施行のための対話に必要な時間を取り、新たな施行の内容は国内の農業・食品加工業、ブルターニュ地域圏のための改正措置を伴うものとする」と述べ、施行までの期限を設定せずに関係者との協議の上で決定するとした。
「レ・ゼコー」紙(電子版10月29日)によると、(1)農業・漁業・畜産業の短距離輸送の免税、(2)大手流通事業者から生産者へ価格引き下げの圧力がかからないよう食品加工業者がエコタックスの課税費用を請求書に記載、(3)ブルターニュ地域圏での減税率を引き上げる、などの改正案が挙げられている。しかし、既にブルターニュ地域圏は50%免税、農業用車両や牛乳の集荷にかかる車両は除外などの特例措置が現行法で定められているため、政府の施策変更の幅は限られている。
<施行延期で厳しさを増す財政状況>
延期されている間、政府は年間11億5,000万ユーロと見込まれる税収減を余儀なくされる上、「フィガロ」紙(電子版10月30日)によると、エコタックスのために立ち上げられた共同企業体エコムーブへの毎月1,500万〜2,000万ユーロの支払いも生じる。
エコムーブはイタリアの高速道路管理会社アウストラーデ70%、フランスの電子機器タレス11%、フランス国鉄(SNCF)10%、移動体通信サービス事業者SFR6%、IT企業ステリア3%出資の共同企業体で、2011年10月に前政権と34億ユーロでエコタックス徴収のためのインフラ整備と税徴収の13年間の契約を結んでいる。契約破棄の場合8億ユーロの違約金の支払いが生じるため、政府としてはエコタックスの施行に何としてもこぎ着けたいところだ。
全国公共工事連盟(FNTP)は施行延期を認めるとしつつ、「エコタックスは2014年の交通インフラ資金源調達庁(AFITF)の20%の財源を賄うことになっている。無期延期により2014年予定の5億ユーロのインフラ整備工事を再検討しなければならず、4,000人の雇用が危険にさらされる。エコタックスに代わる資金調達を検討するため、至急ピエール・モスコビシ経済・財務相、フレデリック・キュビエ運輸・海洋・漁業担当相と会談したい」と発表した。
野党UMPのジャン=フランソワ・コペ党首は「企業、農業従事者、フランス人の怒りと心配の声を聞き、首相が延期を決断したことに安心する」と述べた。政府は10月に入り、法人税の課税、学費控除の廃止、貯蓄商品への課税強化の措置を、世論の反対により撤回・変更している。このような状況の中でのエコタックス無期延期の発表に、政府の優柔不断を批判する声も上がっており、欧州エコロジー・緑の党のド・ルジ議員は「政府の財政政策への信頼性が危機にさらされている」と述べた。
(奥山直子)
(フランス)
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