中国経由での北朝鮮販売を探る第三国・地域企業も−国境の丹東市で中朝展示会が開催−

(北朝鮮、中国)

大連事務所

2013年10月29日

中国と北朝鮮の経済的、文化的連携の強化を図るための展示会「第2回中朝経済貿易文化観光博覧会」が10月10〜14日、中国の遼寧省丹東市で開催された。参加企業数は約500社で、北朝鮮の企業は貿易関係の企業を中心に約100社が出展した。そのほか、一般消費者向け商品を展示した台湾ブースやパキスタン、ミャンマーなどの物産販売ブースが目立った。即売のみならず、北朝鮮への間接的販路の開拓も視野に入れた出展のようだ。

<来場者数が大幅に増加>
開催都市の丹東市は中朝国境における中国側最大の都市で、同市は中国と北朝鮮の経済交流の中国側窓口といえる(注1)。丹東の研究機関関係者によると、中朝2国間貿易の75%以上は丹東を経由して行われているという。

同展示会の主催者は中国国際貿易促進委員会遼寧省委員会、遼寧省人民対外友好協会、丹東市政府で、2012年の第1回に続いて2回目。会期中は丹東の市内中に同博覧会の垂れ幕やのぼりが設置され、市民にも大々的にアピールされており、来場者数は前回の約6,000人から約1万人へと大幅に増加した。

出展企業は北朝鮮企業が103社で、前回の86社よりも増えている。また展示会に合わせ、政府関係者、企業関係者、文化交流人員などで構成される約500人規模のミッションが北朝鮮から派遣された。中国企業および第三国・地域の企業は約400社に上った。中国、北朝鮮ともに貿易関係の企業が多く、品目でみると、中国企業は機械および部品などの工業関連製品、北朝鮮は鉱物、機械、衣類、食品などを取り扱う企業が目立った。中国企業の多くは丹東市を筆頭に、瀋陽市や大連市など、遼寧省の企業が中心で、2国間に焦点を絞った展示会ながら、ローカル色の強い展示会ともいえる。

<中朝の社会、文化交流も促進>
展示会名に「文化観光」と入っているように、このイベントは中朝の社会、文化面での交流を促進する役割も担っており、特に丹東市の一般市民が北朝鮮に親しみを感じるのに一定の貢献をしているといえる。会場では北朝鮮の加工食品や美容関連商品などを販売するブースも多く、特に健康食品や単価の安い菓子などが中国人来場者の人気を集めていた。さらに、会期中に展示会場近くの体育館で、北朝鮮の著名な歌劇団である国立民族芸術団による歌謡曲や舞踊が披露される場も設けられた。一部地域での観光資源開発に力を入れている北朝鮮側としても、こうしたイベントをきっかけに、中国人観光客をさらに呼び込みたいとの思惑があるようだ。

そのほか、同展示会は丹東市で最大規模のイベントであることから、中国の一般企業が食品や日用品を中心に、丹東市民への即売目的で出展しているブースも数多くみられた。

<貿易・投資の実行には懐疑的な声も>
同展示会の最終日となる10月14日には、中朝貿易投資プロジェクト調印式が行われた。報道によると、同展示会期間中の中朝企業による投資・貿易意向件数は93件で、金額は16億ドルに達した。うち、投資が5億1,000万ドル(前回:4億1,000万ドル)、貿易が10億9,000万ドル(8億5,000万ドル)で、前回に比べ合計して3億4,000万ドル増えた(注2)。分野は機械、自動車、服飾加工、食品、水産、不動産など多岐にわたる。

ただし、これらはあくまでも「意向」にすぎず、実行されるかどうかについては懐疑的な見方もある。韓国の「朝鮮日報」(日本語電子版10月13日)は北京の消息筋の話として、前年調印された意向書についてほとんど実行に移されていないとの見方を紹介している。丹東市の隣接地で、中朝が共同で開発するとしている黄金坪(注3)についても、実質的な進展がみられていないとの声が多い。中朝の経済協力については、引き続き冷静に分析する必要があるだろう。

<北朝鮮に販路を持つ中国企業の発掘に期待>
同展示会には、第三国・地域の企業の出展も数多くみられた。最も目立っていたのは台湾で、会場内では台湾の貿易振興機関である台湾貿易センター(TAITRA)が台湾製品を紹介する「台湾精品館」を設置、パソコンやスマートフォンなどの家電製品、自転車や血圧計などを陳列し、来場者にPRしていた。さらに、会場入り口付近では、台湾美食文化フェアと称し、台湾の軽食を提供する屋台が20軒ほど立ち並び、人気を集めていた。

そのほか、パキスタンやミャンマーの特産品を取り扱うブースも数多く並び、パキスタン人やミャンマー人がじゅうたん、翡翠(ひすい)などを中心に即売していた。ヒアリングしたところ、彼らのほとんどは丹東市以外の中国の都市(北京市、上海市、雲南省昆明市など)に住んでいるという。即売品を購入するのは中国人がほとんどで、北朝鮮の人が現場で買うことはほぼないようだ。

ただし、一部の第三国・地域からの出展者は、人口約2,400万人とされる北朝鮮への間接的販売にも期待しているようだ。貿易やハンドキャリー(手荷物)のかたちで、北朝鮮に商品を持ち込むルートを持つ中国人ビジネス関係者との取引可能性を探るために出展しているとみられる。実際、パキスタン、ミャンマーなどのブース関係者からも「北朝鮮に販路を持つ中国人バイヤーが買っていく可能性に期待している」といったコメントが聞かれている。確かに丹東市の人口は約250万人で、市中心部に限ると約80万人と少ない。可処分所得(2012年、都市部)も1万9,625元(約31万4,000円、1元=約16円)と大連市(2万7,539元)の7割程度で、消費市場としては魅力に欠ける。しかし、北朝鮮への販路を持つ関係者が多い点は丹東市の魅力だ。北朝鮮の経済次第では今後、丹東企業をはじめとする中国企業経由での間接的な北朝鮮への販路開拓の取り組みが、これまで以上に盛んになるかもしれない。

(注1)中国(丹東市)と北朝鮮(新義州市)が鴨緑江を挟んで向かい合う位置関係にある。
(注2)貿易額、投資額ともに各会期直後のデータに基づく。
(注3)黄金坪は鴨緑江河口の中州にある北朝鮮領の島で、2011年12月に北朝鮮は同島を正式に「経済区」として指定している。中朝両国は2010年に同島を共同開発、共同管理することで合意しており、2012年から本格的に開発が始まった。

(岡野陽二)

(中国・北朝鮮)

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