炭化水素資源の開発に向け新たな投資促進制度

(アルゼンチン)

中南米課

2013年09月26日

炭化水素資源の開発を推進するための新たな投資促進制度がスタートした。同制度では、5年間で10億ドル以上の直接投資を行う企業には、輸出で得た外貨を自由に取り扱える権利が与えられるなどの優遇措置が設けられている。

<外貨獲得などで優遇措置>
アルゼンチンは自給自足が可能な量の炭化水素資源を埋蔵しているとされるが、近年の生産設備への投資不足などから、現在一部の供給を輸入に頼っている。また、米国エネルギー省エネルギー情報局の発表(6月10日)によると、非在来型炭化水素資源の1つであるシェールガスの埋蔵量は中国に次いで世界2位と推定されており、貿易黒字・外貨準備高の確保を目指す政府にとって、炭化水素資源開発の促進が重要な課題となっている。

そんな中、7月15日に政令929/2013号で、炭化水素資源の開発を推進するための新たな投資促進制度が定められ、即日発効した。制度の対象となるのは、炭化水素資源の採掘に関して5年以内に10億ドル以上の直接投資を行う企業・企業群で、投資によって得られる優遇措置は主に以下の6点だ。

(1)投資計画開始後5年目以降、炭化水素資源産出量の20%を企業の裁量で自由に輸出できる。
(2)(1)の輸出に対し、輸出税は課税されない(注1)。
(3)輸出で獲得した外貨は、国内為替市場で現地通貨ペソに両替する必要がなく、企業が自由に取り扱える(注2)。
(4)国内の炭化水素資源需給の逼迫により、輸出を予定していた分が国内供給に回された場合、輸出によって獲得するはずだった外貨相当の収入を政府がペソ建てで保証する。
(5)(4)で得た外貨相当のペソを、国内為替市場において優先的に外貨に両替できる権利を得る。
(6)シェールガスなどの非在来型炭化水素資源の採掘を行う場合、25年の採掘許可の有効期間を10年延長できる。

同政令の公布直後に、国営石油会社YPFと米系石油会社シェブロンが、アルゼンチン西部ネウケン州バカ・ムエルタ地域のシェールガス田開発のために5年間で15億ドルの投資を行う合弁契約を締結したと発表した。この投資計画をきっかけに、本制度がスタートしたといわれている。アルゼンチンでは、外貨獲得が政府に管理され、輸入決済や海外への資金送金に困難を来すことがあるが、本制度は対象分野が限られるものの、その問題を解消する1つの方法となり得よう。

<採掘用資本財の関税率も引き下げ>
また7月17日には、政令927/2013号が公布され、「炭化水素資源投資に関する国家登録制度」(注3)に登録された企業を対象に、採掘に必要な資本財3品目の輸入にかかる関税率が、35%から14%もしくは0%に引き下げられた。具体的には、回転式の掘削機械(HSコード8430.49.20:0%)、空気清浄フィルター、集じん装置(8421.39.90:14%)、プレハブ小屋(9406.00.92:14%)の3品目で、これもYPFとシェブロンの合弁契約をきっかけに講じられた措置と考えられている。なお、この関税引き下げは、政令公布日から2014年6月30日までの時限的措置となっている。

政府は炭化水素資源開発に限らず、外貨獲得、国内産業の振興を目的として、各種の投資促進制度を設けている。例えば、再生可能エネルギーによる発電施設への投資を行う企業に対する付加価値税の減免、ソフトウエア開発を行う企業に対する所得税減免などがある。詳細は外務省傘下の投資開発商業振興局のウェブサイトにまとめられている。また、同ウェブサイトには投資プロジェクトをまとめたデータベースも設けられており、地域ごと、分野ごとにプロジェクトの検索が可能だ。

(注1)通常なら、原油には国際価格に応じて算出される課税率が適用され(2013年7月の国際価格を基準にすると50%程度)、天然ガスには国際価格に関係なく100%の輸出税が課される。原油の課税率の計算方法は経済財務省決議394/2007号および同省決議1/2013号によって定められている。
(注2)通常は、炭化水素資源の輸出に限らず、企業が輸出で得た外貨は国内為替市場でペソに両替する必要がある。
(注3)経済政策開発計画庁の下に置かれる「炭化水素資源投資に関する国家計画のための戦略的計画・調整委員会」が管轄する登録制度で、炭化水素資源の開発に当たって登録が必要になる。

(伊藤晃)

(アルゼンチン)

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