恒久的施設がない場合の「二重課税」に要注意−外国契約者税の問題点−
ハノイ事務所
2013年09月25日
外国契約者税に関する新たなガイドラインCircular 60/2012/TT−BTC(2012年4月12日公布)に伴い、ベトナム税務当局から従来にはなかった指摘を受けるようになったと、現地日系企業から不安の声が聞かれる。恒久的な施設がない場合の課税リスクなど、外国契約者税の問題点について報告する。
<物品販売に付随するサービスの定義を変更>
外国契約者税は、ベトナム国内に法人を有さない個人や外国組織が、ベトナムの個人または法人などとの契約に基づく経済活動で得た利益に対して課せられる税で、これについては2008年12月31日付のCircular 134/2008/TT−BTC(以下、Circular 134)が公布された後、2012年4月12日付でCircular 60/2012/TT−BTC(以下、Circular 60)が公布され、現時点で最新のガイドラインとなっている。
Circular 60の公布に伴い、外国契約者となる日本法人に大きな影響を与えているのが、課税対象取引の「物品販売に付随するサービス〔On the spot(みなし)輸出入取引/関税込み仕向け地持ち込み渡し(DDP)、ターミナル持ち込み渡し(DAT)、仕向け地持ち込み渡し(DAP)条件を含む〕」だ。
もともとのCircular 134では商品の引き渡しに関して「物品販売に付随するサービス」とのみ定められており、具体的なサービス内容にまで触れられていなかったが、Circular 60で「(On the spot輸出入取引/DDP、DAT、DAP条件を含む)」が追加された。それにより、インコタームズ(国際商業の標準的な取引条件)のDDP、DAT、DAP条件で輸出販売する日本法人に対して、Circular 60の公布以降、契約書記載の金額(輸入申告価格)に「みなし法人税」の1%を源泉徴収されるケースが増えている。
<Circular 60における法人税の問題点>
Circular 60では、上記のような商品の引き渡しについて、(1)ベトナム国内で行う形式、(2)導入・試用・保証・修繕・交替などのサービスをベトナムで付け加えて商品を提供する形式、がある
(1)、(2)で提供される商品の場合、法人税の課税範囲は「サービス提供が商品提供契約の価値に含まれるかどうかを問わず、法人税の課税対象となる外国契約者および外国下請け契約者の所得は全ての商品およびサービスの価値」と定められている。
つまり法人税の場合、外国契約者とベトナム法人が締結した契約書において商品価格とサービス価格を明確に分けたとしても、商品とサービスから生じる所得全体に対して課税されてしまうことになる。そのため、輸入時に関税と付加価値税(VAT)を支払っているにもかかわらず、外国契約者税によって所得全体に課税されるため、外国契約者にとってはコストが増えることになる。
<居住地国との「二重課税」の状態>
外国契約者にとって、所得に対して居住地国で法人税を課された上に、ベトナムでも外国契約者税で法人税を課されるのは「二重課税」の状態だといえる。
居住地国が日本の場合、法人税とベトナムでの外国契約者税の二重課税の問題は「日越租税協定」により日越間の課税権の調整によって解決されることになっている(ただしVATは対象外)。
そのため、仮にベトナムでの外国契約者税の課税が正当だとされても、日本で外国税額控除制度を利用すれば、外国契約者税の課税分を控除することができる。
<実務上は協定よりガイドライン優先>
そもそも、日越租税協定では「日本法人の事業活動から生じる所得」について、ベトナムに恒久的施設を有していない場合には、ベトナムで課税することができないことを規定(第7条)している(注)。つまり今回のようなケースでは、日本法人は恒久的施設を有しないため、ベトナムにおいて外国契約者税を課されるべきではないと考えられる。
一方で、Circular 60では条文上、恒久的施設がなくても外国契約者税を課されてしまう。第1条で「外国契約者がベトナムに恒久的施設を有しているか否かにかかわらず課されるもの」と定められているからだ。
ベトナム側の国内規定は日越租税協定により制限されるはずだが、実務上はCircular 60が優先され、外国契約者税が課税されているのが現状だ。
そのため、ベトナム国内に恒久的施設を有しない日本法人が外国契約者税を課税されたとしても、「日越租税協定の規定に従った課税」ではないことから、日本は同課税分を日本で控除する義務はないと判断することになる。
<非課税対象の取引形態に変更の動き>
こうしたことから、インコタームズをDDPなどから工場渡し(EXW)に変更する日本企業が増え始めている。納品先近くにあるベトナム法人の物流会社が所有する保税倉庫を借りて、そこで商品の引き渡しを行うことになる。
変更の理由としては、EXWはCircular 60の課税対象取引に含まれていないこと、現行の商取引に近く、企業間の関係に与える影響が一番小さいこと、が挙げられる。
なお「保税」倉庫を使う理由は、納入先が輸出加工企業(EPE)であるケースが大半であることが影響している。EPEの場合、輸入関税およびVATが免税になっていることから、外国契約者は保税倉庫を利用することになる。
<変更後も残るさまざまなリスク>
日本法人がベトナム法人の保税倉庫を借りて商品の引き渡しを行う場合、日越租税協定に基づき、ベトナム法人が日本法人の在庫保有代理人として恒久的施設に認定されるリスクがある。つまり、ベトナム国内で所得が発生すれば、ベトナムに課税権が生じる。
ただし、商品の引き渡しや在庫管理はベトナム法人の物流会社が行うため、日本法人はベトナム国内でサービスを行っていないことから、ベトナム国内で所得は発生しないことになり、外国契約者税を課税されることはないと考えるのが妥当だ。
もっとも、EXWに変更すれば課税されない、とは言い難い。各地の税務当局がどのように解釈するか不明瞭なため、例えば保税倉庫で商品を保管し、納品先の要望に応じて商品を出荷する行為に、外国契約者が何らかの「サービス」を提供していると判断された場合、外国契約者税を課税される可能性はあり得る。
今回のような場合、確実に課税されないのは外国契約者税の非課税取引であるインコタームズのFOBかCIFに変更することだ。
ただし保税倉庫取引と異なり、ベトナム国内で売り先の責任として適時適切に買い主に商品を納入することができなくなり、ビジネスに影響が出ることは避けられない。
今回の問題を含め、外国契約者税の詳細はジェトロ調査レポート「外国契約者税の概要と日越租税協定との関係」で解説しているので、併せて参照願いたい。
(注)利子、配当、使用料などの所得については、恒久的施設がベトナム国内になくても、ベトナムでの課税権は別途認められている。
(定田充司)
(ベトナム)
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