8月1日から最低賃金引き上げ−企業への影響は限定的か−
プラハ事務所
2013年08月01日
ルスノク内閣は7月16日、最低賃金に関する政令を改正した。8月1日から最低賃金が月額で8,000コルナ(約4万円、1コルナ=約5円)から8,500コルナに、1時間当たりでは48.10コルナから50.60コルナに引き上げられる。産業界は、この程度なら企業経営に与える影響は小さいとして、引き上げを容認している。
<約6年半ぶりの引き上げ>
最低賃金は、企業と正社員、契約社員、あるいは雇用契約の期限付き・なしにかかわらず、雇用関係にある全ての被雇用者に適用される。月額最低賃金は、週当たりの労働時間40時間を基準としたもので、労働時間がこれと異なる場合には、時間当たりの最低賃金を基準に調整される。
最低賃金制度は1991年に導入され、過去16回改正された。前回改正は2007年1月(7,955コルナから8,000コルナに引き上げ)で、今回の引き上げは約6年半ぶりとなる(表1参照)。
<労組側の妥協で産業界も容認>
最低賃金の引き上げは、6月17日に総辞職した前右派・中道内閣(2013年7月12日記事参照)が既に実施を予定しており、金額も8,500コルナとすることで基本的に合意していた。前内閣とボヘミア・モラビア労働組合連合(各労働組合の全国統合組織)、産業連盟(雇用者団体)の3者による話し合いの中で、労組側は「2007年以降、平均賃金は20%上昇した」として、当初9,000コルナへの引き上げを要求していた。これに対して、産業連盟は「最低賃金引き上げ決定は、これに先立つ産業、経済の成長があって初めて行われるべきだ」と難色を示していた。特に深刻な景気悪化に直面している建設業界は強く反対し、産業連盟傘下の建設会社連盟は「建設業界では、2012年に比べ大幅に業績が悪化している。労組の要求は受け入れられない」との声明を発表した。これを受けて労組はゼマン大統領とも話し合いを行い、その結果、8,500コルナで妥協することを決定、内閣、産業連盟の了承を得た。
産業連盟のイトカ・ヘイドゥコバー雇用部長は7月17日、「この程度の引き上げに対しては、企業は既に準備ができている。企業にとってより深刻な問題は、需要の減少、原料価格や電気料金の高騰などで、最低賃金が8,500コルナ程度である限り、あまり問題ではない」と述べた。また、一部の右派議員や経済学者の「最低賃金引き上げは失業率増大につながる」との危惧に対し、ボヘミア・モラビア労働組合連合のヤロスラフ・ザバジル代表は「最低賃金と同程度の給与受給者は、実際には全被雇用者の2%程度にすぎない。過去の労組、および労働・社会福祉省の調査でも、最低賃金引き上げが失業率増大の要因となったと説明できるようなデータはなかった」と反論している。
<EU内では低めの水準>
7月16日の政令改正後の記者会見で、フランチシェック・コニーチェック労働・社会福祉相は最低賃金の機能について、「最低限の単純作業しか必要とされない労働に対しても最低限の報酬を保証することで、労働者が労働市場に参入して通常の生活を送ることを可能にするもの」と説明、その必要性を強調した。
しかし、最低賃金は労働市場の柔軟化を阻み、失業率を高めるものとして、導入していない国もある。EU統計局(ユーロスタット)によると、2012年7月現在、EU28ヵ国のうち最低賃金制度を導入していない国は7ヵ国(スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ドイツ、オーストリア、イタリア、キプロス)。
最低賃金を定めている国の中では、チェコの最低賃金は引き上げ後でも、低い方から数えると、ルーマニア、ブルガリア、バルト3国に次いで6番目となっている(表2参照)。
(中川圭子)
(チェコ)
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