日本産食品の検査期間を短縮の意向−食品安全庁とアントワープ港湾局担当者−

(ベルギー)

ブリュッセル事務所

2013年08月05日

ジェトロは7月9日、アントワープ港湾局東アジア・マーケティング担当のゴージン・リウ氏、貿易円滑化部門のバート・バン・モル氏、ニコラス・ピーターズ氏に、アントワープ港の特徴、税関での手続き、日本産食品の検査フロー、検査手法および検査にかかるコストなどについてインタビューした。東日本大震災以降、アントワープ港に輸入された日本産食品については、ベルギー連邦食品安全庁(AFSCA)による放射線検査では、セシウムの基準値を超えた食品は検出されていないという。また、AFSCA担当者は、日本産食品の検査期間の短縮(改善)の意向を示した。

<日本産食品の取扱量は欧州最大>
アントワープ港湾局は、海上貨物輸送量でオランダのロッテルダム港に次ぐ欧州2位の規模を誇る。また、日本産食品の輸入量では欧州最大だ。

大きな特徴の1つに立地条件が挙げられる。アントワープ都市圏の半径500キロ以内には欧州の6割の購買力が集中しており(「バナナゾーン」と呼ばれる)、他の欧州の港湾に比べ、消費市場へのアクセスが良い。

また、内陸水路を用いて数百万トンの貨物を内陸部に輸送することのできる唯一の海港であることも特徴の1つとなっている。アントワープ市街までの80キロを内陸水路で輸送できることで、トラック輸送を大幅に削減できる。

2012年の海上貨物輸送量は、全体で1億8,400万トンに達した。海上貨物輸送量を種類別にみると、コンテナ、液体貨物、ドライ貨物、混載貨物(RoRo船を含む、注1)に分かれる。このうちコンテナが56%程度占め、1億300万トンに達した。

同港では、貨物の積み替えだけではなく、保管、再梱包(こんぽう)、最終仕向け地への発送、流通まで幅広いサービスを展開している。また、大規模な貨物保管能力を有し、屋根付き倉庫(560万平方メートル)、サイロ貯蔵(68万立方メートル)、液体貯蔵(630万立方メートル)などの施設を構える。また、冷蔵、冷凍食品向けには、20度〜マイナス25度まで対応できる倉庫(200万立方メートル)が整備されている。

アントワープ港には、多くの化学企業および石油化学企業が進出し、世界の化学メーカートップ10社のうち7社がアントワープ港を拠点に選んでいる。

また、水蒸気分解装置4台を備え、欧州最大の石油化学品の生産地となっている。エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学品の2012年の生産高は479万3,000トンに上り、中でもエチレンの生産高は218万トンと、欧州生産能力の9.2%に相当する。

<セシウムの基準値を超えた食品はなし>
ピーターズ氏によると、震災以降、アントワープ港の大型の放射線検査機で基準値超えを知らせるアラームを発した貨物は3件のみ(いずれも2011年)。その直後、当該3件について、AFSCAが詳細な検査を実施したが、セシウムの基準値を超える食品は出てこなかった。バン・モル氏が6月末にAFSCA担当者にヒアリングを実施したところ、同担当者は、日本政府が設定した食品中の放射性物質の規定基準が厳しいことから、輸入時に問題が発生していないとし、日本政府の設定基準を評価しているという。

<AFSCAによる検査期間は最長で7日間>
アントワープ港に着いた日本産輸入食品は、以下のフローで流通する。まず、放射線検査の対象とするかどうかを判定するため、アントワープ港に到着する前に、動物由来食品については共通獣医入国許可書(CVED、注2)、非動物由来食品や飼料については共通入国証明書(CED、注3)、それぞれの輸出証明書のチェックが実施される。放射線検査は輸出証明書ベースで、5%を対象としている(例:貨物につき、輸出証明書が20枚あった場合、そのうちの1枚がサンプリング検査の対象となる)。

(1)放射線サンプリング検査対象
到着後、サンプリング抽出された5%の食品の輸入申請者(Declarant)は、検査のためAFSCAと予約を取り、所定場所(アントワープ港内の4〜5ヵ所に設置)で検査を実施する。放射線検査は、放射線検査機関の原子力研究センター(SCK−CEN)で実施される。検査期間は、SCK−CENでの検査を含めても、通常で5日程度、最長で7日間かかる。検査した結果、基準値を超えていなければ、市場に流通させることができる。基準値を超えていれば、廃棄または日本に返品される。

(2)放射線検査サンプリング検査対象外
到着後、輸出証明書の詳細なチェックを実施し、問題がなければ、そのまま市場へ流通させることができる。証明書において問題があれば、廃棄あるいは返品される。

ジェトロ・ブリュッセル事務所は、日本からの輸入食品は食品検査や税関手続きのため、同港で2週間停留するという話を当地の輸入事業者から聞いていたため、その理由を確認した。

AFSCA担当者によると、食品検査に必要な期間は最大7日間であり、食品検査以外の税関手続きにおいても最大2日間で完了するとのこと。遅延の要因として、AFSCA内でのコミュニケーション問題が考えられるとした。具体的には、7日以内に検査結果が出ているにもかかわらず、AFSCAから輸入申請者に対する検査終了の連絡が遅れていることなどが要因に挙げられるとのこと。

AFSCA担当者は、今後、日本食品についてはアントワープ港に到着後、最大1週間半で市場に流通できるよう最大限の努力をするとの改善の意向を示した。

<検査にかかる費用は標準で234ユーロ>
上記のフローのうち、放射線サンプリング検査が発生する食品は、表1の検査コスト(標準)がかかる。サンプリング抽出に30分以上の時間がかかった場合などは、さらにコストがかかる仕組みとなっている。

表1食品検査にかかる費用(サンプル抽出された場合)

サンプリング抽出されなかった食品(輸出証明書のうち95%)についても、AFSCAに対する事務処理費用(40ユーロ)が課される(表2参照)。EU規則が無効にならない限り、同費用は発生する。

表2食品検査にかかる費用(サンプル抽出されなかった場合)

また、ベルギーの日本食品の輸入事業者によると、実際には、上記のコスト以外にも負担が発生しているという。輸入業者は、製品が日本から積み出される時点では、到着時にサンプリング検査の対象となるかどうか分からないため、サンプリング検査で製品が抜き取られても、所定の量を確保できるよう、5%分の食品を上乗せして輸入しているという。この上乗せ分の引き取りが事業者の負担になっている(例:20本の日本酒の取引に当たり、5%のサンプリング検査の対象になる可能性を考慮し、20本の5%に当たる1本を追加し輸入している)。

アントワープ港湾局のバン・モル氏は、食品の安全性を確保することは重要だが、日本食品についてはアントワープ港では基準値を超えた食品事例がないことから、現行のEU規則の緩和に賛同するとの姿勢を示した。

(注1)Roll−On/Roll−Off shipの略。フェリーのように車両が出入りするランプを備え、トレーラーなどの車両を収納する車両甲板を持つ貨物船。
(注2)文書検査、同一性検査、物質検査などの規定されている獣医学的検査を実施した結果、当該食品の貨物が輸入のための条件を満たしていることを証明する書類。条件を満たしていれば、獣医官が当該貨物に対して証明書を発行する。
(注3)輸出事業者が飼料や非動物由来食品が必要事項を満たしていることを証明する書類。輸出事業者は食品の内容、原産国、積荷された国、輸送手段などを記載し、税関担当者は内容を確認して必要があれば中身を確かめ、問題がなければ証明書を発行する。

(小林華鶴)

(ベルギー)

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