医療分野への投資に最低資本金などの足かせ

(ベトナム)

ハノイ事務所

2013年08月01日

ベトナムで外資100%の入院施設のある病院を設立することは制度上可能だが、資本金だけでも最低2,000万ドルが必要となるため、外資100%の病院で投資ライセンスを取得できたケースはほとんどない。また、外国人が医療行為証明書を取得するのは非常に難しいといわれている。取得要件として、ベトナム語に堪能であることが求められるからだ。

<総合病院の設立には最低2,000万ドルの資本金>
医療機関の設立に関する規制は、2011年11月14日付通達41/2011/TT−BYT(以下、通達41)で定められている。病院の場合、主な設立条件として、(1)規模(最低30台の患者用ベッド)、(2)建設要件(ベトナム建築基準365:2007および保健省の決定32〜35/2005/QD−BYTの順守)、(3)医療設備(十分な医療器具・装置や緊急輸送車両を有していること)、(4)組織(内科、外科、産婦人科、小児科のうち最低2部門を有していること)、(5)人材(医師は勤務病院の診療科のうち、医療行為証明書を最低1つ有していること。最低54ヵ月間の医療行為の経験を有していること)、などが挙げられる。

また医療機関の設立には、保健省から運営許可証を取得する必要があり、(1)申請書、(2)投資許可証のコピー、(3)医療行為証明書のコピー、(4)医療器具の申告書、(5)設立条件を満たすことの証明書、(6)救急移送サービス契約のコピー、(7)設立機関で行う医療行為の計画書、などの書類が求められる。

最後にベトナムのWTOサービス分野公約(PDF)によると、外資が医療分野で活動する企業を設立するに当たり、最低資本金(表1参照)を設定している。制度上、外資100%の病院を設立することは可能だが、資本金が最低でも2,000万ドル必要なので、外資100%の病院で投資許可を取得できたケースはほとんどないのが実情だ。

表1医療施設設立の最低資本金

<認可案件の大多数は最低資本金20万ドル以下のクリニック>
外国投資庁(FIA)によると、医療・社会支援分野における対ベトナム直接投資(FDI)の新規認可は、これまでの累計で83件、13億220万ドルとなっている(2013年4月20日時点)。新規認可全体に占める同分野の件数・金額の割合はそれぞれ0.56%、0.60%にとどまっている。

FDIの認可累計上位4ヵ国・地域(日本、韓国、台湾、シンガポール)の認可実績は表2のとおりで、大多数の案件は資本金が200万ドル未満、すなわち専科治療所での認可となっている。診療科目は歯科や眼科が中心で、南部への進出が多い。投資額を抑えつつ、相対的に所得水準が高い南部の医療ニーズを取り込むのが狙いとみられる。

一方、資本金2,000万ドル以上かつ外資100%として唯一、韓国の企業が2005年に総合病院設立の投資許可を取得しているが、案件の進捗状況は確認できない。

大型の投資案件では、ホアラム・シャングリラ病院が最大規模だ(投資総額:3件・約5億ドル)。シャングリラ・ヘルスケア・インベストメント(シンガポール)と地場企業のホアラム・サービス(ベトナム)の合弁案件で、ホーチミン市ビンタン区において病院施設のほか、看護師学校・住居施設・商業施設などを併設した大規模な都市開発プロジェクトだ。

なお、日本のFDIについては、歯科クリニックや検体検査機関による投資のみで、病院や総合診療室への投資実績はない。

表2ベトナムへのFDI上位4ヵ国の資本金額・件数の内訳(新規案件ベース)

<ベトナム語に堪能でないと医療行為は不可>
外国人がベトナムで医療行為を行う際、医療行為証明書を取得する必要がある。通達41に基づき、(1)免許申請書、(2)専門学位のコピー、(3)医療行為の経歴証明書、(4)ベトナム語が堪能であることの証明書のコピー(堪能でない場合は通訳の常駐が必要)、(5)労働許可証のコピー、などの書類が求められる。

こうしたことから、外国人が医療行為証明書を取得するのは非常に難しいといわれている。ベトナム語に堪能であることが最大のネックで、仮に通訳を利用する場合は通訳に対しても医療知識が求められるが、このような人材は圧倒的に不足しているという。

また2012年7月に、中国人医師がハノイ市で患者を死亡させる医療事故を起こした。この中国人医師は医療行為証明書を取得していないにもかかわらず、ベトナム人を診察していた違法行為が問題視されており、今後外国人医師に対する規制が強化される可能性がある。

ベトナムで医療機器の輸入・販売を行う場合は、(1)輸入規制(輸入許可証の要否、ラベル規制、臨床試験の要否)、(2)販売規制(医療機器の広告規制)、などに留意する必要がある。

外国人向けの病院はごくわずかで、手術や入院治療ができない病院も多い。そのため、治療が困難な場合には国外に転院して治療を受ける外国人が少なくない。また大規模な病院でさえ1台のベッドを複数のベトナム人患者で使う状況もあるため、ハノイ医科大学付属病院のように、外国人向けの医療機関にベトナムの富裕層が通い詰めるケースは、今後他の病院でも起こり得るだろう。こうしたことから、日本の医療機関の患者に対する手厚い対応や日本人医師の高い能力および日本製の最新医療機器が、在ベトナムの外国人やベトナム人富裕層にとってますます必要になるとみられる。

(藤森義人、定田充司)

(ベトナム)

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