外資誘致狙い法人税率を2014年から20%に引き下げへ−投資環境について政府傘下機関の副社長に聞く−

(フィンランド)

欧州ロシアCIS課

2013年07月29日

政府は3月、現在24.5%の法人税率を2014年1月1日から20%に引き下げる計画を発表した。外国企業を積極的に誘致することで成長産業を構築し、雇用を創出するのが目的だ。雇用経済省傘下の投資誘致機関インベスト・イン・フィンランドのティモ・アンティカイネン副社長に6月27日、東京でフィンランドの現在の投資環境と投資優遇制度について聞いた。

<経済の停滞で成長産業育成が急務>
政府は3月21日、2014〜2017年の財政計画を発表し、その中で、現在24.5%の法人税率を2014年1月1日から20%に引き下げることを明らかにした。

この決定の背景には、フィンランド経済が欧州債務危機の長期化に伴う輸出の不振や民間設備投資の冷え込みにより、2012年の実質GDP成長率がマイナス0.2%に落ち込むなど停滞している状況がある。また、通信機器大手ノキアの経営不振や国外への生産移管の結果、若年層を中心に雇用情勢が悪化しており、2012年の失業率(年平均)は7.7%、若年層(5〜24歳)に限ると19.0%に達し、5人に1人が失業している。

フィンランドにとって、成長産業の育成は急務だ。競争力のある外国企業の誘致は短期間で目標を実現するための有効手段であり、法人税率の引き下げはその決意の表れとみることができる〔注:日本企業がフィンランドに投資する場合、20%の税率だと、日本のタックスヘイブン対策税制の対象となることから、フィンランドに設立する法人は同税制の適用除外となるよう、実体のある事業活動を行う必要がある(ジェトロJ−FILE「タックスヘイブン対策税制」を参照)〕。

政府は投資誘致をさまざまな側面から強化しており、その一環として雇用経済省が100%出資する投資誘致機関インベスト・イン・フィンランドをフィンランド企業の国外活動を支援する貿易振興機関フィンプロ(FINPRO)と統合し、より効率の良い活動を目指している。

<ロシア市場へのアクセス、IT人材の多さが魅力>
インベスト・イン・フィンランドのアンティカイネン副社長によると、投資立地上のフィンランドの優位性の1つは、地理的な位置だという。フィンランドはEUの東の端、ロシアと境界を接し、ロシア市場へのゲートウエーとなる。空路では、日本や韓国など東アジア諸国にとっては欧州で最も近い国だ。さらに、温暖化に伴う北極航路の実用化(2010年10月15日記事参照)に伴い、海路でのアジアからの窓口ともなり得る。

優位性の2つ目は、携帯電話産業の発展で培われたワイヤレス技術。北欧のシリコンバレーと呼べるほど、能力のある技術者が多数存在する。フィンランドには欧州諸国からIT分野での直接投資が多く、その金額は欧州最大級となっている。

3つ目は低い法人税率だ。前述のとおり、フィンランドは2014年1月から法人税率を現行の24.5%から20%に引き下げるため、現在、議会で審議中だ。これは、西欧諸国の中でもかなり低い税率となる。また、フィンランドの人件費は中・東欧やバルト3国よりは高いものの、他の北欧諸国より2〜3割低い水準となっている。

<データセンターやIT産業などの誘致に注力>
政府は投資誘致に力を入れる分野を幾つか挙げている。その中でも特に力を入れているのが以下に紹介する業種だ〔インベスト・イン・フィンランドの産業のページ(英語)参照〕。

(1)データセンター
主要産業の1つである製紙業の電力ニーズに応え、安く確実に発電・供給する体制を整えてきたため、電力網が発達し、電力料金は安く、供給は安定しているという強みがある。さらに、欧州各国やロシアとの高速データ網が整備されていることや土地価格の安さ、英語に堪能な熟練IT技術者が多数存在することなどにより、データセンター設置には理想的な環境となっている。既に米国ネットサービス大手がデータセンターを設置済みだ。

(2)IT産業
ノキアの興隆に伴って育った各地のクラスターに、IT人材と技術が集積している。米国のシリコンバレーに匹敵する技術力がありながら、人件費は相対的に安い。米国のIT専門調査会社ガートナーの調査では、フィンランドのIT技術者の人件費を100とするとシリコンバレーは170だという。

(3)eヘルスケア
個人が持ち歩ける大きさで健康をモニターする医療機器(ヘルスメーターや万歩計など)と医療機関を通信回線で接続し、個人向け健康管理サービスを行うことを「コネクテッド・ヘルス」と呼ぶが、この分野の産業が急成長している。強みは携帯電話産業が培った高いモバイル技術があることで、eヘルスケア企業のサービスや製品開発に有利だ。

(4)クリーンエネルギー(風力、バイオガス、木質燃料発電)
政府は2020年までに現在200メガワット(MW)の風力発電量を1,900MWに拡大する計画で、今後さらに1,000基の風力発電機が必要となる。クリーンエネルギーによる発電に対して、1メガワット時(MWh)当たり83.5ユーロで買い取るフィード・イン・タリフ(固定価格買い取り)制度を実施しているが、風力発電については2015年まで1MWh当たり105.3ユーロで買い取ることになっている。

(5)グリーンビルディング
建物を新築もしくは改装する場合、厳しい省エネルギー基準を満たす必要がある。今後20年間に約50万件の新しい集合住宅が建設される予定だ。既存の建物の改修も必要となることから、建物のエネルギーを効率化できる新技術やソリューションを持つ企業の投資が求められている。

(6)鉱業
多くの鉱脈があり、それらはフィンランド地質調査所(Geological Survey of Finland:GTK)のデータベースで管理され、情報を得ることができる。政府は「グリーン鉱業プログラム」を策定し、持続可能な鉱業を推進しており、それを可能とする外国のオペレーターを歓迎している。

(7)観光
観光客数はこのところ急増しており、特にロシア・CIS諸国からの観光客が目立つ。こうした観光客に対応するため、ホテルやレストラン部門での投資が求められている。

(8)ゲーム産業
携帯電話用ゲームを中心にゲーム産業が急成長している。フィンランドのゲーム関連企業団体ネオゲームによると、2011年に1億500万ユーロだったゲーム業界の売上高が2012年には2億5,000万ユーロに急増した。そして、2020年までには14億9,000万ユーロに拡大するとみている。2011〜2012年の同業界への投資額は8,130万ドルで、その中には携帯電話向けモバイルゲーム「アングリーバード」を開発したロビオ・エンターテインメント、「運命のクランバトル」を開発したスーパーセルなどへの投資が含まれている。インベスト・イン・フィンランドはさらなるゲーム産業の育成を目指し、取り組みを強化している。

フィンランドは教育水準が高く、世界有数のイノベーション競争力と評価されている。例えば、技術関連の公共政策推進を目的とする米国の非営利団体ITIFによる調査(2011年)では、イノベーション競争力で世界2位、人口1,000人当たりの科学技術研究者数で世界1位、研究開発(R&D)費のGDP比で世界2位となっており、R&D拠点をフィンランドに設置する企業も多い。米国のコンピュータ半導体大手インテルは2012年にタンペレとエスポーの2ヵ所に、韓国のサムスン電子も2013年6月にエスポーにR&Dセンターを開設している。

<投資インセンティブは助成金が中心>
政府による投資優遇策は、企業による投資額の一部を助成金というかたちで負担する形態が中心だ。他国にみられるような「税の減免」制度は原則として行っていない。これは税の公平性を重視しているからで、どのような条件で事業をしても、法人税率は変わらない。助成のレベルや内容は、投資する地域、企業の規模(中小企業か大企業かなど)、業種によって異なる。

投資の助成レベルは、大きく3つの地域に分かれている(図参照)。地域1は北部、2は中部、3は南部で、気候が厳しい過疎の地域1(北部)が最も手厚い助成を受けられる。

主な投資インセンティブは、以下のとおり〔インベスト・イン・フィンランドの外国企業への投資インセンティブ資料(英文、PDF)参照〕。

○ELYによる投資助成金
経済開発・交通・環境整備センター(ELY)は国の雇用経済、環境分野などの地方出先機関を統合した組織で、全国に15ヵ所ある(フィンランドは2010年1月に全国に5つあった県を廃止し、中央省庁の地方出先機関の機能とそれまで県が行ってきた行政サービスを担当するELYを設置した)。ELYによる投資助成金は、地域、企業の規模(中小企業を優遇)に応じ、投資額に応じた助成を行う(表参照)。大企業であっても、地域経済への貢献度が認められれば助成を受けることが可能(金額には上限あり)。ELYはこのほか、経営相談、人材トレーニング支援、企業登録支援といったビジネス支援サービスも行っている。公的な助成金は原則として、フィンランドで設立された企業であれば利用が可能で、フィンランド資本か外資かは問われない。ビジネス支援については、外国人投資家も利用可能だ。

○フィンベラによる貸し付けと保証
フィンベラ(Finnvera)は国有の融資企業で、企業規模や業種にかかわらず融資や各種保証(特に輸出保証)を受けることができる。

○EU基金による支援
EUの構造基金などによる支援金が、ELYを通じて利用できる。EUの支援金は主に中小企業やスタートアップ企業を対象としている。

技術庁(Tekes)によるR&D、イノベーション支援
Tekesは、革新的な製品開発、プロジェクトに対して低利の貸し付けや補助金を提供している。外国企業であっても、フィンランド国内でR&D活動を行っていれば利用可能。2013年秋からは、フィンランド国内で設立されたばかりの企業に対する直接的な投資事業も開始する。

○フィンランド産業基金による資本投入
国有の投資会社であるフィンランド産業基金が、成長や国際化の途上にある企業に対して投資している。M&Aの資金を提供することもある。

○R&D推進のための税制優遇
R&D推進の観点から、R&D費について50%を上限として助成を行う(表参照)。フィンランド国内に設置された企業でなくても利用可能。さらに、2013〜2015年の間、有限会社と協同組合形態の企業に限定して、R&Dに従事する人員の人件費に相当する金額(最低1万5,000ユーロ、上限40万ユーロ)をその企業の売上高から控除して課税するとしている。

これらのほか自治体レベルの支援もあり、タンペレやオウルなどでは起業のための無料オフィスなどを提供している。

なお、インベストメント・イン・フィンランドは投資を検討する外国企業に対して、情報収集、投資機会の分析、投資ロケーションのマネジメント、ネットワーキング(人脈形成)支援、入国に関する諸手続きの手伝い、企業設立に向けた支援、などのサービスを無償で提供している。

フィンランドの投資助成地域
投資額・R&D費への助成率(上限)

(岩井晴美)

(フィンランド)

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