財政赤字はGDP比4.7%に膨らむ−2013年予算「見直し案」が可決−
欧州ロシアCIS課
2013年07月17日
2013年予算の見直し法案が7月5日の議会で可決された。当初予算と比較して、歳入は9.6%減の8,734億ディナール(約75億9,000万ユーロ、1ユーロ=約115ディナール)、歳出は3.2%削減の1兆517億ディナールで、財政赤字は47%増の1,783億ディナールとなった。思い切った歳出削減を図れなかったため、財政赤字が大幅に膨らんだ。ダチッチ政権としては、EU加盟交渉の早期開始を目指す中で、財政、ビジネス環境の改善、国有企業の民営化などに注力する意向だ。
<財政赤字はGDP比4.7%に増加>
2013年第1四半期のGDPは、前年同期比2.1%増と統計局が発表(7月1日)し、長引く景気後退局面から抜け出たと報じられたが、見直し予算の歳入増には結び付かなかった。歳出削減は353億ディナールと小幅で、各省庁の経費や国有企業への補助金の削減が中心となる。その結果、見直し予算の財政赤字は、当初予算(2012年12月21日記事参照)で設定したGDP比3.3%から4.7%に大幅に膨らんだ。政府は見直し予算の策定に当たって2013年の実質GDP成長率を2%、インフレ率は5.5%と、当初予算と同じ数値に設定した。予算対策の柱は、増税なしの歳出削減、公的部門とビジネス環境の構造改革だと、ディンキッチ財務・経済相は7月1日の議会で強調している。
IMFはセルビアとの緊急融資の協議(5月25日)で、政府に対して省庁の経費削減、公務員給与(月平均350ユーロ)や年金(220ユーロ)の10%削減、国有企業への補助金停止と民営化、付加価値税(VAT)税率の引き上げ、年金の支給開始年齢の引き上げなどを要請しているが、合意には至っていない。ディンキッチ財務・経済相は、IMFの緊急融資は必要だが融資条件が厳し過ぎ、特に公務員給与と年金の削減は受け入れられないと表明している(7月9日)。IMFは、これらの改革が進まなければ2013年末の財政赤字はGDP比で8%に達するとみている。
<財政赤字の主因は国有企業の赤字>
2012年7月に発足したダチッチ(セルビア社会党党首)連立内閣は、国民の支持を維持するため、2013年当初予算をかなり楽観的に組んだことも財政赤字増大の一因だが、最大の原因は国有企業の民営化の遅れにある。
リストラ中の国有企業は179社(従業員計約5万4,000人)あり、その赤字は合計で毎年7億5,000万ユーロに上ると、ディンキッチ財務・経済相は6月20日に表明した。うち27社は買い手がつかなかったため、2013年末までに清算手続きに入り、その後資産の整理売却となる。また、売却可能な66社については2013年末までに売却を進め、残りの企業は2014年6月末までに決着をつける意向だ。しかし、連立政権の弱みで、民営化に反対する連立相手との協議難航も予想される。巨額の累積債務を抱えている国有企業は、電力公社EPS(約10億ユーロ)、医薬品製造のガレニカ(1億ユーロ強)、国有航空JAT(2,870万ユーロ)、国有テレビRTS(174万ユーロ)など多数ある。財政赤字や公的債務の削減のため、これら国有企業の民営化が急務となっている。
厳しい財政運営を強いられている政府は、IMFとの次回(秋)の融資協議に期待をかけるが、現状では合意の見通しは暗い。しかし、戦略的パートナーシップ協定を締結しているロシアからは、セルビアの逼迫する国家財政を支援する目的で4月に調印された5億ドルの融資のうち、3億ドル分が7月9日に実施された。融資は年利3.5%で、据え置き期間2年、融資期間10年の契約だ。また、世界銀行もセルビアの民営化計画など包括的な構造改革の支援として2013年と2014年にそれぞれ2億ドルの融資を検討していると、世銀のセルビア担当のブレフォート・マネジャーが6月27日に明らかにした。民営化の成否が、2013年見直し予算のカギを握る。
(豊田昇)
(セルビア)
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