ルスノク新内閣が発足、下院の信任獲得は困難な見通し

(チェコ)

プラハ事務所

2013年07月12日

ゼマン大統領は7月10日、新閣僚を任命し、経済学者であるイジー・ルスノク首相を中心とする、いわゆるテクノクラート内閣が発足した。ただし、下院の信任獲得は困難とみられており、短命が予想される内閣の発足に、経済界は不満を表明している。

<大統領経済顧問のルスノク氏を新首相に指名>
ペトル・ネチャス前首相は、その右腕だったナジョバー首相府官房長が公職権乱用と贈賄の容疑で逮捕されたことを受け、6月17日に辞任した。これにより、2010年の総選挙後発足した、市民民主党(ODS)、TOP09、LIDEM〔公共問題(VV)から分離して独立した新党〕の3党からなる右派・中道内閣は総辞職した。ナジョバー官房長は、軍情報局に首相夫人を含む複数の一般人を監視させたとされている。また、2012年の税制改革政府案の下院投票の際、法案に反対の姿勢をとっていた元ODS下院議員3人に対して、議員職辞任と引き換えに国営企業のポストが与えられたとして、この3人の元議員が収賄の疑いで逮捕されているが、この贈収賄に官房長も関与したと疑われている。

2010年の総選挙ではチェコ社会民主党(CSSD)が第1党となったが、チェコ・モラビア共産党(KSCM)と合わせた左派勢力の議席数が右派勢力を下回ったため、第2党のODSを中心とした右派・中道内閣が成立した。これ以後、与党議員の離党、VVの分裂およびこれに伴うVV本体の野党への移行などにより、与党議員数は大幅に減少した。しかし、依然として下院の定数200議席中101議席と、過半数を維持している。このことから与党は、ネチャス前首相退陣後も引き続き政権を担当することが筋だとして、ODSのニェムツォバー下院議長を次期首相に推薦することで合意していた。

しかし、元CSSD党首のゼマン大統領は専門家からなる実務型内閣が妥当との考えから、与党の意思に反して、大統領経済顧問のルスノク元産業貿易相を次期首相に指名した(表参照)。

ルスノク内閣の顔ぶれ

<下院は与野党とも内閣信任に反対の姿勢>
新内閣は、大統領による任命から30日以内に下院の信任を得なければならないとされている。議席の過半数を占める与党3党は「ルスノク内閣は下院の構成を無視し、大統領がその側近と関係者から独断で組閣させたもので、専門家としてもマイナーリーグの内閣だ」と批判し、信任しないとの意向を表明している。その上、野党CSSDは下院の解散・総選挙の実施を求める立場上、CSSD党員を含むものであっても(注)、一時的な内閣の成立は支持しないと宣言していることから、ルスノク内閣が信任を得る可能性は極めて小さいとみられている。

一方、ルスノク首相は下院の信任を得るチャンスはあるとして、ヤン・フィシェル財務相とともに、交通インフラ、科学技術部門への積極的な投資により、チェコ経済の回復を図っていきたいと意欲を表明した。また、2014年度予算草案の成立、最低賃金の引き上げなどを当面の課題に挙げている。

<経済界も新内閣に期待せず>
しかし、国内企業の大半は、新内閣には根本的な経済改革は期待できないとして、悲観的な見方をしている。産業連盟とチェコ国立銀行が国内大企業118社を対象に実施した調査の結果、国内の経済状況における最大のマイナス要因は、混沌とした政治状況と考えられていることが明らかになった。また、今回発足した内閣に関しても回答者は、一時的な内閣は長期的な投資誘致には不適当だと指摘し、さらに2014年1月から暫定予算となった場合、さらなる投資減少が予想されると危惧している。

新内閣の下院信任投票は、8月8日に予定されている。信任されなかった場合、大統領は首相を再度指名することになる(最初に指名した人物と同一も可能)。憲法はこの2度目の指名に関して期限を定めていない。このため、ルスノク内閣が、下院の信任を得ないまま、2014年の総選挙まで政権の座に居続けることも理論上は可能となる。

大統領が2度目に指名した首相の内閣が、再び下院の信任獲得に失敗した場合には、首相指名権は下院議長に移行する。

(注)ルスノク首相は2010年までCSSD党員で、ベネショバー法相、コホウト外相、コニーチェック労働相の3人も、入閣前までCSSD党員だったが、CSSD幹部の要請に従い、今回の入閣を機に党員資格を一時停止している。

(中川圭子)

(チェコ)

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