議会予算局が「炭素税導入による影響」を報告−政権の気候変動対策案が議論を促すか−
ニューヨーク事務所
2013年07月11日
議会予算局(CBO)は「炭素税による経済と環境への影響」と題した報告書を5月22日に発表した。炭素税導入の可能性は現時点では低いとみられているが、財政赤字削減の手段や税制改革の一部として議会で検討する動きがある。オバマ大統領が6月25日に発表した気候変動対策案を、炭素税提案の引き金とみる議員もいる。
<財政赤字削減や税制改革としての炭素税>
CBOは「炭素税による経済と環境への影響(PDF)」と題した報告書の中で、炭素税の導入によって連邦の歳入は10年間で1兆2,000億ドル増え、米国の二酸化炭素(CO2)の排出量は8%減ると試算している。
炭素税とは、化石燃料の炭素含有量に応じて使用者に課す税金のこと。化石燃料の需要を抑制し、CO2の排出量を抑えることを目的としている。
炭素税導入の支持者は、気候変動への取り組みと歳入増加を同時に行う効果的な手段だと主張する。ワシントンの産業専門家によると、特に民主党では、財政赤字の削減に向けて歳入増加が必要なため、単に環境政策としてではなく租税政策として党内で炭素税導入の支持を広めようとする議員もいる。
一方、共和党は炭素税に強く反対している。気候変動対策を重視するオバマ政権でさえ、現時点で炭素税を提案するつもりはない、と明言している。
こうした中、ワシントンでは、炭素税を財政赤字削減の手段や包括的な税制改革の一部、長期的な課題と捉えて議論が進みつつあり、今回の報告書はその一環として作成された。報告書は下院エネルギー・商業委員会の有力メンバーであるヘンリー・ワックスマン議員(民主党)が要請した。
<税収の使途によって炭素税の影響は軽減>
報告書によると、炭素税によってサービスや製品、特に化石燃料に頼る発電のコストや交通サービスなどの価格は上昇する。そのため、税収の使途を考慮しなければ炭素税の導入は経済に悪影響を与える。また、炭素税が米国民に与える影響は均等ではなく、物価変動の影響を受けやすい低所得世帯やCO2排出量の多い産業に従事する労働者、化石燃料を主要な発電源とする地域の住民に、より重くなるとしている。
ただし、議会が税収をどのように使うかによって経済への影響は変わる、と報告書は説明する。例として、財政赤字の削減や、前述のような不均等な負担を強いられる人々への補償などに充てることを挙げる。また報告書は、「炭素税はCO2の排出削減を促すため、結果的に温室効果ガスによる気候変動によって環境と経済が被る損害が減少する」と指摘する。最近米国では、気候変動が環境に加えて経済面にも悪影響を与えるとの主張が目立つようになった。報告書は、炭素税の導入が経済への悪影響の緩和に貢献するとの見方を示すことで、こうした主張と相通じる内容になっている(注)。
CBOは炭素税の導入について具体的な提案をしていないものの、ワシントンの産業専門家によると、議会が今後、包括的な税制改革について議論する際、報告書を考慮する可能性は高いという。
例えば上院財政委員会の委員長を務めるマックス・ボーカス議員(民主党)は5月23日、炭素税は包括的な税制改革の一部として審議の対象になると発言している。また、同委員会で民主、共和両党が合同で4月に発表したインフラ、エネルギー、天然資源に関する税制改革に関する提言書では、今後の法案の候補として炭素税を盛り込んでいる。
<気候変動対策案が炭素税提案の引き金にも>
オバマ大統領は6月25日、気候変動対策案を発表した(2013年7月1日記事参照)。シェルドン・ホワイトハウス上院議員(民主党)はエネルギー関連メディア「プラッツ」のインタビュー(6月23日)で炭素税について、「現在、議会での政治的支援を欠いているが、オバマ大統領が発表した気候変動対策における温室効果ガス規則は、炭素税提案の引き金になる可能性がある」と述べていた。
ワシントンの産業専門家も、現時点では炭素税導入の可能性は低いが、(1)財政赤字削減の手段としての炭素税導入を支持するロビー活動、(2)気候変動と経済負担を関連付けた議論、の2点が政治力学に影響を与えると予測している。
(注)ワシントンのリベラルなシンクタンク「センター・フォー・アメリカン・プログレス」は「災害支出:さらなる異常気象で上昇する連邦災害救済支出」という報告書を4月に発表している。連邦政府は2011〜13会計年度において災害救済に合計1,360億ドルを費やしており、1世帯当たり年間400ドル負担していることになるという。
(立花央子)
(米国)
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