人材派遣業が解禁、製造ラインは対象外に−雇用形態の多様化を望む進出日系企業には期待外れの内容−
ホーチミン事務所
2013年07月01日
5月1日から施行された改正労働法で、人材派遣業が解禁となった。人材派遣先の対象は17業務に絞られる。今回の施行では、産業界から需要の多い一般製造業の製造ラインが派遣先の対象外となった。雇用形態の多様化を目指していた製造業にとっては期待外れで、失望感を拭い切れないようだ。また、人材派遣業は、法定資本金、預託金の払い込み義務もあり、市場参入は簡単ではないとみられる。
<派遣の対象は17業務に限定>
改正労働法の主要変更点の1つだった人材派遣業の解禁につき、その詳細規定が政令No.55/2013/ND−CP(5月12日付公布、7月15日から施行)により明確化された。政令では、人材派遣先の対象は17業務に絞られ、一般製造業の製造ラインが外されていること、かつ派遣期間が1年以内と限定されており、この政令はあくまで妊娠、労働災害、疾病など突然の労働需要の突発的な変動に対応する一時的措置として捉えている。労務問題に苦しむ日系製造業にとっては、雇用形態の選択肢拡大に期待していただけに、物足りない内容となっている。
政令No.55/2013/ND−CPの主な内容は次のとおり。
1.人材派遣の対象17業務
(1)翻訳、通訳、速記者
(2)秘書、業務アシスタント
(3)受付
(4)ツアーガイド
(5)営業支援
(6)プロジェクト支援
(7)製造システムのプログラミング
(8)通信・テレビ設備の設置
(9)建設用機械の運転、テスト、修理
(10)ビルや工場の清掃
(11)資料編集
(12)警備員
(13)コールセンターのオペレーター
(14)経理財務補助
(15)自動車修理
(16)工業デザイン、インテリアデザイン
(17)運転手
2.人材派遣の期間
最長1年。契約期間満了後は同一の派遣先では勤務不可。
3.人材派遣業のライセンス取得条件
(1)預託金20億ドン(1ドン=約0.005円)の義務付け。派遣社員に給与、社会保険、医療保険などが支払われない場合に預託金から補償できるようにするため。
(2)法定資本金は20億ドン以上。ベトナム企業との合弁の場合、外資企業は資本金と資産の合計が100億ドン以上なければならない。
4.禁止行為
(1)労働争議中、あるいはリストラ中の企業で、紛争当事者あるいはリストラ対象の労働者の代替として派遣労働者を募集・雇用すること。
(2)人材派遣会社と同一のグループ内の会社に人材を提供すること。
(3)労働派遣先の企業の同一レベルの正規従業員より低い給与・待遇で派遣従業員を扱うこと。
<預託金など義務付け、容易でない市場参入>
この政令の日系企業への影響について、今回人材派遣の受け入れが可能となった業種にとっては朗報といえよう。ただし、圧倒的に需要の多い一般製造業の製造ラインが派遣先の対象外となったことから、雇用形態の多様化を目指していた製造業にとっては期待外れで、失望感を拭いきれない結果となっている。
一方、人材会社は、従来、法規制が曖昧だったため、一部見切り発車で製造業向けにワーカーの人材派派遣を行っていたところも見受けられるが、今後は慎重に対応せざるを得なくなるだろう。参入に当たっての法定資本金、預託金の払い込み義務もあり、市場参入は簡単とは言い難いようだ。
(栗原善孝)
(ベトナム)
ビジネス短信 51cce8ebef420