政府、年金制度の改革に着手
パリ事務所
2013年06月26日
2020年での年金財政の均衡を目指して改革案を協議していた政府の諮問委員会は2013年6月14日、改革に関する報告書をジャン=マルク・エロー首相に提出した。政府はこの報告書をベースに政労使間で協議を重ね、年金改革法案を2013年9月にも閣議決定する方針だ。満額受給するための被保険者期間の延長が改革の柱になるとみられる。
<改革により70億ユーロの赤字削減>
公的年金制度の財政赤字はベビーブーマーの退職や長寿化、2008年以降の経済危機による保険料収入の減少などから、2020年に200億ユーロ(GDP比約1.0%)に膨らむと試算されている。オランド大統領は5月16日の施政方針演説で、就任2年目の重要政策課題として年金制度改革を挙げていた。
今回、政府の諮問委員会が提出した報告書には総額およそ70億ユーロの財政赤字削減策が盛り込まれた(注)。現役世代への負担増だけでなく、退職者にも負担増分全体の3割の負担を求めている。主な内容は以下のとおり。
○現行制度では満額年金を受給するため41.5年間保険料を納める必要があるが、この被保険者期間を1962年生まれから43年間に、1966年生まれからは44年間に延長する。
○特定の水準を超える給与所得については、年金保険料率を今後4年間に事業主と被雇用者との折半で毎年0.1ポイント引き上げる。
○退職者の負担増としては、年金受給額にかかる一般社会税(CSG)の税率を現行の6.6%から現役世代の税率である7.5%に引き上げる。年金受給額にかかる所得税の税額控除や物価スライド制を時限付きで見直す。
<公務員の特別制度改正案も>
他方、公務員が加入する特別制度については、年金受給額の算定ベースを改正する案が盛り込まれた。公務員の年金受給額は退職までの最後の6ヵ月の給与をベースに算定されるが、民間給与所得者は給与が最も高かった25年間の給与水準が算定ベースとなっている。報告書は制度間の格差是正という観点から公務員の受給額について算定ベースとなる給与期間の延長が望ましいとした。
労働組合の一部は公務員の年金制度改正に強く反発、同制度の改正には公務員を総動員した大規模なデモやストで対抗する方針を示している。また満額受給するための被保険者期間の延長についても、高齢労働者の失業問題が深刻化する中で「結局は(失業して保険料を払えずに)満額年金を受給できない退職者の数を増やすだけだ」と批判、被保険者期間の延長には高齢者の雇用機会を確保する「労働市場の改革が必要だ」と指摘した。
他方、日本の経団連に当たるフランス企業運動(MEDEF)は、満額受給するための被保険者期間の43年間への延長や、現行62歳の法定退職年齢の65歳への引き上げを求める一方、企業競争力の観点から保険料の引き上げに反対する姿勢を示している。
<公務員の年金制度改正には慎重>
オランド大統領は報告書の提出を受け6月16日、年金制度改正の基本路線を明らかにした。まず財源について「平均寿命の延びに従い、満額受給するための被保険者期間が長くなるのは当然だ」と説明、「法定退職年齢には手を付けない。2025年をめどに満額受給するための被保険者期間を現行の41.5年間から44年間に引き上げる案が望ましい」とした。
一方、労組の強い抵抗が予想される公務員の年金制度改正については「既に過去の年金改革で民間部門との格差は是正されている。被保険者期間も2017年に(官民で)統一される」とし、特別制度の改正には慎重な姿勢を示した。
政府は6月20〜21日の雇用問題に関わる政労使協議で年金改革に向けた議論を開始、複数の協議を経て2013年9月にも年金改革法案を閣議決定する方針。2014年からの導入を目指す。
(注)フランスの公的年金制度は1階部分の基礎的制度と2階部分の補足的制度、これに3階部分として任意加入の付加的制度がある。2階部分の補足的制度は労使代表により運営されており、赤字削減に向け2013年4月に保険料引き上げなどの改正が行われた(2013年4月12日記事参照)。なお、公務員向けには基礎的制度と補足的制度が統一された特別制度が適用されている。
(山崎あき)
(フランス)
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