付加価値税を18%に引き上げ、歳出も削減−増税・緊縮路線に国民の不満が高まる−
テルアビブ事務所
2013年06月21日
財務省は、5月21日に国会を通過した国家予算案に基づき、付加価値税(VAT)の税率を1ポイント引き上げ、18%とした(6月2日施行)。この引き上げに伴い、2013年1月に初入閣したラピッド財務相に対して、物価高騰への不満が蓄積していた国民の批判が集中している。各省庁予算の一律カットなどの歳出削減も同時に行われており、イスラエル経済への影響が懸念される。
<財政赤字対策で、VAT税率は最高水準に>
今回のVAT引き上げの背景には、政府が1月に発表した390億シェケル(1シェケル=約27円)の財政赤字がある。政府は2012年7月にもVAT税率を1ポイント引き上げて17%としたが、消費が伸び悩んだため、歳入の増加には寄与しなかった。特に、毎年連休の続く10月は、従来は消費が活発化する時期だが、消費活動の低迷で消費者物価指数(CPI)が0.2ポイント減(前月比)と下落した。輸出額の5割以上を占める米国とEU諸国向けが、2012年にそれぞれ9.6%減、8.8%減(いずれも前年比)になるなど、輸出の不振も歳入が伸びないもう1つの理由になっている。
国内の発電用燃料の4割を占める天然ガスについて、自国ガス田が枯渇し始めたことに加え、隣国エジプトからの天然ガス輸入が停止したことに伴い、発電用燃料の輸入が急増した。そのため、歳出が拡大し、財政赤字の一因となった。
2012年の燃料の輸入額は輸入総額の2割強に当たる160億9,030万ドルで、前年比18%増となった。イスラエル中央銀行は、天然ガスに比べて高い燃料油の輸入により電気料金が値上がりしたことも、経済を減速させた要素の1つであると指摘した。
過去のVAT税率をみると、これまでの最高税率は18%で、過去2回この数値に達している(図参照)。1度目は旧ソ連からのユダヤ人移民を大量に受け入れた1991年、2度目はインティファーダ(イスラエル・パレスチナ間の大規模な衝突)期の2002年だ。その後2008年までの間、VATが段階的に15.5%までに引き下げられた。リーマン・ショック翌年の2009年に16.5%に引き上げられた後、2010年に16%に引き下げられたが、財政赤字の拡大などに伴って2012年に17%、そして今回18%に引き上げられた。
<国民の期待を裏切った新財務相の国家予算案>
財務相のヤイル・ラピッド氏は、2012年10月の総選挙で新党「イェシュ・アティド」を率いて立候補。予算歳出の削減を主張する当時のネタニヤフ政権を非難し、国民の注目を集めた。選挙の結果、イェシュ・アティドは、ネタニヤフ氏が率いるリクード・イスラエルベイテイヌの統一会派に続く第2党となる議席数を獲得。ラピッド氏は財務相として連立与党に入閣した経緯がある。
しかし新政権発足の直後、ラピッド財務相は「財政赤字は想像以上に深刻な状況にある」とコメントし、国家予算案では各省庁予算を一律カットするとともに、VATや法人税の税率引き上げなどを発表した。
予算案の発表を受けて、VAT税率の引き上げなどに反対する大規模なデモが5月11日、イスラエル各地で一斉に行われた。国民の批判は主にラピッド財務相に向けられており、デモの翌週に現地紙「ハアレツ」が行ったアンケート調査で、国民の6割近くが「ラピッド財務相の方針に不満を持っている」と回答した。
一方、今回のVAT税率引き上げを盛り込んだ国家予算案について、イスラエル中央銀行のフィッシャー総裁は高く評価しており、「長期的な視点でイスラエル経済を安定させ、国民をサポートする予算だ」と発言。イスラエル経済が今後活力を取り戻すため、一時的に国民に増税などへの忍耐が必要であるとの認識を示した。
(高木啓)
(イスラエル)
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