2012年の輸出額が過去最高に、貿易赤字は35.8%縮小

(スペイン)

マドリード事務所

2013年06月19日

スペイン税関によると、2012年の貿易は輸出が前年比3.4%増の2,226億4,400万ユーロ、輸入が3.7%減の2,534億100万ユーロとなった。輸出が2年連続で過去最高を記録した一方で、内需低迷の加速で輸入が後退したことにより、貿易赤字は35.8%減の307億5,700万ユーロと、ピークの2007年の3分の1以下まで縮小した。輸出好調の背景には、コスト競争力の向上やEU域外への積極的な売り込みがあるとみられている。

<輸出:食料品が特に好調>
輸出を品目別にみると、全体の2割を占める資本財(自動車除く)が産業用機械全般(前年比9.8%増)、鉄道機器(21.1%増)の好調に支えられ、前年比0.3%の微減にとどまった(注1、表1参照)。鉄道機器の好調は、主に鉄道車両大手のCAFが過去2年間に中南米各国で受注した地下鉄などの車両と、タルゴが2010年にウズベキスタン国鉄から受注した3億ユーロ規模の高速鉄道車両の納入によるものだ。

表1スペインの品目別輸出入

食料品(構成比15.3%)は前年比9.4%の伸びを示し、自動車を初めて抜き2位の輸出品目になった。全ての地域向けで前年を上回り、特に青果や肉類が欧州・北アフリカ・中東向けを中心に13.2%増、飲料もワインがドイツやフランス、イタリアといったEU域内生産国向けの増加とフィリピン向け蒸留酒の急増で16.3%増、油脂は北アフリカ向け大豆油の急増や東アジア、北米向けオリーブ油の好調により14.4%増となった。

自動車(構成比13.7%)は、上位5位までを占めるEU域内国向けが欧州債務危機によりドイツを除き2〜3割の大幅な減少を示し、前年比8.1%減となった。近年急激に増加した6位のトルコ向けも、特別消費税の引き上げが響き急減した。スペイン自動車工業会(ANFAC)によると、2012年の輸出台数は172万9,172台(18.5%減)と、近年の200万台超の水準を大きく割り込んだ。また、生産台数も2000年以降初めて200万台を下回り、依然欧州2位の生産国ながら、世界での順位は9位から12位に後退した。

国・地域別では、EU27ヵ国向けの割合は61.1%と、前年から2.9ポイント低下した(表2参照)。主要輸出先であるユーロ圏向け(49.5%)は初めて5割を切り、最大輸出相手国のフランスの2.9%減をはじめ、南欧を中心に軒並み大幅減となったが、ドイツの好調により2.9%減で食い止められた。EU域外向けの急増(15.2%増)は、特にアジア大洋州、北アフリカ向けが2〜3割伸びたことによる。アジアでは主要輸出先の中国、日本に加え、ASEAN諸国や韓国向けが近年急増している。

表2スペインの主要国・地域別輸出入(再輸出を含む総額ベース)

<輸入:中国からの携帯電話が2年間で2倍>
輸入を品目別にみると、内需の冷え込みを反映し、鉱物・エネルギー(構成比24.4%、前年比9.8%増)を除くほぼ全ての分野で減少した(表1参照)。企業活動の低迷を背景に、設備投資が6.6%減、建設投資も11.5%減と悪化、また緊縮財政で公共事業が前年から半減したことで、資本財(構成比16.7%)と建材を中心とした中間財(3.9%)がそれぞれ前年比10.2%、13.5%減少した。

化学品(構成比15.0%)は、有機化学品が前年比16.9%の大幅増となったことで2.1%の微減にとどまった。自動車(9.2%)は年間販売台数が70万台を割り、過去25年間で最低の水準となったことにより完成車が急減(20.0%減)、また部品も欧州市場低迷による自動車減産で調達量が前年を大幅に下回り(9.6%減)、全体では13.8%減少した。

国・地域別の輸入では、EU27ヵ国の割合が前年比2.8ポイント低下で49.1%と5割を切った(表2参照)。域外で伸びた地域は、北米(構成比6.6%、前年比5.9%増)、中南米(5.5%、14.8%増)、北アフリカ(5.9%、29.3%増)のみで、いずれもエネルギーの輸入が主因。石油・精製品は従来の主要調達先であるロシア、サウジアラビアが減少し、メキシコ、コロンビア、ナイジェリアの急増や政変で落ち込んでいたリビアが回復した。また、ガスの最大輸入先であるアルジェリアも、同国とスペインをつなぐメドガス・パイプラインが2011年に稼働を始めたこともあり、ガス全体の輸入が11.3%拡大した。

アジア最大の輸入相手国の中国(構成比7.0%)は、前年比5.7%減となった。こうした中で堅調だったのは、最大輸入品目で前年比19.7%増となった携帯電話だ。韓国サムスン電子や米アップルのスマートフォン(スマホ)の急速な普及を背景に、中国からの携帯電話輸入額は過去2年間で2倍以上に上昇した。スマホやタブレット型の人気に押され、これまで最大品目だったノートパソコンは21.8%減となった。また、太陽光パネルは、2012年初頭に政府が、新規の再生可能エネルギー固定価格買い取り(FIT)制度の適用を停止したことが影響して前年比47.7%減となり、30億ユーロ近く輸入した2008年の20分の1まで縮小している。

<ユーロ圏内での輸出競争力が相対的に向上>
WTOの世界における輸出シェア統計によると、ドイツ(2012年のシェア7.7%)が過去5年間で1.7ポイント低下し、フランス(3.1%)やイタリア(2.7%)も0.9ポイント低下と欧州経済低調の影響を大きく受けている。これに対し、スペイン(1.6%)は0.2ポイント低下で踏みとどまっており、スペインの輸出はEU平均を上回る水準で伸びている。

この輸出の伸びの背景には、内需低迷による企業の輸出シフト、特に労働コスト低下による競争力向上とEU域外輸出の拡大の2つの要因があるとみられる。労働コストについては、単位労働コスト(ULC)をみると、ユーロ圏の輸出大国であるドイツ、オランダ、フランス、イタリア、ベルギーが上昇傾向であるのに対し、スペインは2009年を境に毎年低下を続け、EU統計局(ユーロスタット)の予測によると、2013年以降もこの傾向が続く見通し。

ULC低下の要因は大量解雇だけではない。むしろ、最大の要因は各企業・業界の給与抑制や生産性向上だ。改正労働市場改革法の施行を追い風に、労使関係の柔軟化が一気に進んだ2012年に、ULCは前年比3.3%減と金融危機以降最大の下落となっている。

<欧州債務危機でEU域外輸出に活路>
また欧州債務危機を背景に、新興市場を中心としたEU域外輸出が急速に伸びた。EU域外向けの割合は2007年の30.0%から2012年には38.9%に拡大し、輸出額も同期間に55.7%増えている。

政府はEUへの輸出依存からの脱却や企業の国際化を目指し、2005年から日本、米国、BRICsを含むEU域外の重点市場12ヵ国・地域(注2)を対象とした「総合市場開発計画(PIDM)」による輸出促進に取り組んでいる。これら重点市場国が輸出全体に占める割合は、2007年の15.5%から2012年は19.5%に拡大している。

(注1)スペイン税関の発表は2013年2月19日。
(注2)ブラジル、中国、ロシア、メキシコ、米国、インド、アルジェリア、モロッコ、日本、トルコ、韓国、湾岸協力会議(GCC)諸国。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

ビジネス短信 51ba85643efd0