有限会社の最低資本金引き下げを閣議決定−3万5,000ユーロから1万ユーロに−
ウィーン事務所
2013年06月14日
政府は有限会社の最低資本金を3万5,000ユーロから1万ユーロに引き下げると、5月21日に閣議決定した。2013年7月1日から施行される見通し。産業界は、これにより企業競争力が向上、ビジネス拠点としてのオーストリアの魅力を高めると歓迎する一方、資金調達方法の多様化など企業活動の活性化のための改革が必要と指摘している。
<7月1日から施行の見通し>
ラインホルト・ミッターレーナー経済・家族・青少年相とベアトリクス・カール法相は、経済活性化策の1つとして取り組んでいた有限会社(GmbH)法の改正について、「本日の閣議で、最低資本金を3万5,000ユーロから1万ユーロに引き下げると決定した」と5月21日に声明を出した。議会での審議を経て、7月1日から施行される見通しだ。
ミッターレーナー経済・家族・青少年相は「今回の改正によって起業することの魅力が新たに認識され、また従来にない発想やアイデアによるビジネスモデルの実現が促されることから、起業家は起業のための資金の工面ではなく、イノベーションの創出に注力できる」と述べている。
起業に必要な最低資本金は、EU加盟各国の平均が約8,000ユーロで、オーストリアの3万5,000ユーロはEU域内でも非常に高い水準にある。改正後も依然として平均を上回るものの、経済・家族・青少年省としては、一気に最低資本金を3分の1以下とすることで起業における資金的なハードルを下げ、ビジネス拠点としての魅力を高めることで企業の国外移転を防ぎたいところだ。最低資本金の引き下げに伴い、年間最低法人税額が1,750ユーロから500ユーロになり、有限会社設立手続きに際しての公証人・弁護士費用が半減される。政府の見通しによると、今回の改正により有限会社の設立件数が年間1,000社増えるという。
有限会社法の改正は5年以上前に検討が開始されたが、労働者の利益を代表する労働組合連合(OeGB)や労働会議所(AK)が反対していた。3万5,000ユーロの資本金は企業の信用性を確保し、損失を出した際の補償としても重要な基準であり、これを一気に引き下げると、企業が負うべきリスクを従業員や消費者に押し付けることになる、というのがその理由だ。
国内の企業を代表する立場にある連邦産業院(WKO)は、経済界の長年の要求だった最低資本金の引き下げが「オーストリア企業の国際競争力を高めるもの」と歓迎している。
<補完的な資金調達に関する法整備が急務>
一方、オーストリアのビジネス環境改善のため、早急に改革が求められているものもある。日本の青年会議所に相当するWKOのユンゲビルトシャフト(JW)のロート代表は、その一例として、「クラウドファンディング」による資金調達を可能とする法的な整備を挙げている。クラウドファンディングとは、インターネットを通じて多数の投資家から少額の資金を集める資金調達方法で、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家(ビジネスエンジェル、注)などによる融資とともに、銀行融資をはじめとする従来の資金調達手法を補完するものだ。ロート代表によると、経済の低迷や金融機関の自己資本規制などにより銀行が融資に慎重なため、若い起業家が抱える最大の問題は資金調達だという。そのため、クラウドファンディングをうまく利用できれば、オーストリア経済の成長と雇用創出に貢献するが、この補完的な資金調達手法による出資については法整備が遅れているため、利用率は米国やEU平均を大きく下回っていると、ロート代表は指摘している。
議会では、クラウドファンディングの導入について集中審議されたものの、法整備に至るまでにはまだ時間がかかりそうだ。
(注)エンジェル投資家とは、創業間もない企業に対して、個人で資金を提供する投資家。欧州では、ビジネスエンジェルと呼ばれることが多い。
(鷲澤純)
(オーストリア)
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