各種入国ビザの最近の動向と注意点を紹介−「企業ビザ・コンプライアンス」セミナー−

(米国)

ロサンゼルス事務所

2013年06月03日

ジェトロは4月26日、ロサンゼルスに拠点を持つ冨田法律事務所(Tomita Law Office)の冨田有吾弁護士および野口法律事務所(Noguchi Law Office)の野口幸子弁護士を講師とした「企業ビザ・コンプライアンス」セミナーを開催した。B1ビザ(出張ビザ)、E1/E2ビザ(貿易/投資ビザ)、H−1Bビザ(専門職ビザ)、J1ビザ(職業訓練ビザ)、L1ビザ(駐在員転勤ビザ)のそれぞれについてトピックスやコンプライアンスについて報告する。

<B1ビザの注意点は報酬の出所>
B1ビザは短期商用ビザと呼ばれる出張ビザで、最も取得しやすいビザの1つだ。また、出張だけでなく、研修・作業などを目的としても取得可能で、入国審査1回の滞在では電子渡航認証システム(ESTA)よりも審査において問題となるリスクが低いといわれている。注意点としては、1回の滞在で最長6ヵ月の滞在が認められるが、社員の所属はあくまで日本であるため、報酬(給料)も日本側から支払われなければならない。給料の出所については、常に注意を払って管理する必要がある。

<E1/E2ビザではオーナーシップを細かく調査>
E1ビザ(貿易ビザ)は日米間の貿易取引を主とする事業に関わる人(三国間貿易を除く)に対して発給され、E2ビザ(投資ビザ)は米国に対して相当額の投資をした人に発給されるビザだが、定義は複雑化してきている。

E1ビザにおける注意点は、日米間の貿易がその企業の海外との貿易の50%以上を占める必要性があることだ。50%未満になると、新規のビザ発行ができなくなるので注意が必要だ。50%未満になる可能性が高くなったら、次のビザ取得の方法を早めに考えておく必要がある。

E2ビザで注意すべきことは、単体の決算報告書の提出義務とオーナーシップが挙げられる。実際に業務を行っている会社(単体)がビザ発給の対象会社であるため、その親会社の持ち株会社(実体がない場合)や実質的なリスクがあるビジネス投資がない関連会社などの社員へのビザ申請が許可されにくくなっている傾向がみられる。また、オーナーシップについても、従来よりも細かくトレーシング(追跡調査)が行われていて、会社は日本国籍でも、オーナーである会社ないしは個人が外国籍だったりすると申請が許可されないケースがある。ただし、日本国内上場会社は別だ。

同様に、合弁会社などについても注意が必要で、出資比率が50%対50%の合弁会社でも業務コントロール元が日本でない場合は、Eビザが許可されないケースもある。いずれにせよ、Eビザの対象は米国内で雇用を生み、経済効果を発生させる日本企業の従業員という必要がある。

<H−1Bビザのスポンサーは通知義務や最低支給額に注意>
H−1Bビザは移民法が規定した専門職に発行されるビザで、4年制大学卒業や大学卒業と同等と見なされる学位評価が必要となるビザだ。発行枠数に対して応募数が大きく超過しているビザであり、取得難易度は高い。2013年は6万5,000の枠が4月1日から受け付け開始されたが、わずか5日間で募集は終了し、抽選で割り当てを決めることになった。背景には、インド系ITプログラマーの取得希望が多く、過去には1社5,000人分の申請をしたITコンサルタント系の会社もあった。今後、移民法改正案が米国議会で通過すれば、H−1Bビザの年間枠数は昨今のニーズ増大に対応するかたちで、3倍程度(18万件)まで増枠される。

また、企業が本ビザのスポンサーとなる場合、従業員への開示義務があり、労働条件申請書(Labor Condition Application:LCA)の掲示や、一般公開ファイル(Public Access File:PAF)の作成、および従業員解雇時の移民局への通知などが義務付けられている。同時に、金銭的義務として、統計で決まった職種・地域別の最低賃金である平均給与(Prevailing Wage)と、現在、会社で適用されている同職種への最低賃金である実質給与(Actual Wage)のどちらか高い方を最低でも支給する義務があり、給与額も高額になるケースも出てくる。また、待機時間の給与支給(ブランク間の給与)なども義務付けられている。このビザを持つ従業員には、米国人と同等の企業待遇が必要といえる。

<J1ビザの違法使用が問題に>
J1ビザは国務省管轄の職業訓練ビザで、交換留学生や職業訓練のための研修生などに発行される。

一定条件の下、米国内で合法的に就労研修することが可能なビザであり、従来は比較的取得が簡易なビザとして知られていたが、2011年8月にチョコレート製品メーカーのハーシーが工場作業で300人以上の若い外国人留学生を、J1ビザを使って法定外の低賃金、悪環境で雇用、生活させたというJ1ビザ違法使用問題が、従業員のストライキで表面化した。国務省に監査要請が来て、米議会でも問題となった。

もともと、J1ビザは数百に上る認可団体が審査を行っていたが、ハーシーの事件以降、ずさんな審査過程が明らかになったため、認可団体の取り締まり、場合によっては認可剥奪などの結果に至る団体も発生し、審査の強化が図られることとなった。

最近の審査では、英会話力の審査(無料ウェブテレビ電話のスカイプなどで英語力をチェック)、既にJ1ビザの従業員を雇用している会社への立ち入り監査(人材派遣禁止)、および申請手続き・申請書の改正などが行われている。

<L1ビザは期間変更に伴うミスマッチあり>
L1ビザは、日本企業の社員が転勤で米国関連会社に駐在員として派遣される場合に利用される転勤ビザだ。管理職用と専門職用で2種類のビザがあり、管理職は最長7年(更新時期:3年、2年、2年)、専門職は最長5年(更新時期:3年、2年)の滞在が可能となる。

注意点として、2012年2月に国務省がL1ビザスタンプ(入国許可)の有効期間を3年から5年に変更したが、I−94とI−129S(注)の滞在許可は引き続き3年のままとなっている。今後、この期間は変更となる可能性があり、現時点では変更直後のため問題が表面化していないが、I−94およびブランケット資格の滞在許可期間とL1ビザスタンプの入国許可期間がミスマッチになる可能性がある。よって当面は、従来どおりの3年間の滞在資格を最長として、自己責任による滞在期間管理を従業員に課すのが最も安全な運営方法と考えられる。

(注)I−129Sは「ブランケット資格」と呼ばれる、大企業がもともと持っているL1ビザ枠数の範囲で使う際に申請する包括嘆願書。

(中川健太郎)

(米国)

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