外国人旅行者が3年で13%増の887万人に−格安の滞在費が売りに−
欧州ロシアCIS課
2013年05月28日
経済成長が低迷し長期化する中、外国人旅行者の数は滞在費の安さなどを背景に、3年連続でブルガリアの人口(736万人)を上回る勢いで増加しており、2012年は887万人に達した。観光産業は、その収入が今やGDPの10%以上を占めるまでに発展しており、政府は重要な産業の1つと位置付けている。道路などインフラ整備がさらに進めば旅行者の一層の増加が見込まれる。
<3年連続増加でリーマン・ショック前の水準を超す>
統計局の最新データによると、外国人旅行者数は2009年の787万人から2012年には約13%増の887万人へと3年連続で増加し、リーマン・ショック(2008年9月)の影響による落ち込みから大幅に回復している(図参照)。また、欧州債務危機などの影響による経済成長の低迷が長期化する中、観光産業は堅調な伸びを示している。2012年の7月には黒海沿岸のリゾート地ブルガスでイスラエル人観光客を狙った自爆テロ事件(8人死亡)が発生し、一時的に観光客が減少したが、通年では前年比2%増を達成した。
2012年の外国人旅行者を国別にみると、EU加盟国からの旅行者が60%を占める。特に、ルーマニアからは147万人、ギリシャからは109万人と近隣諸国からの旅行者が多い。EU域外からは、トルコの98万人、ロシア(黒海沿岸のリゾート地にマンションを所有する人が多い)の61万人が目立つ。イスラエルからは約10万人の旅行者が訪れている。日本からは、毎年6月上旬にカザンラクの町(スタラ・ザゴラ県)で開催される「バラ祭り」への訪問を中心に、2009年の約8,500人から緩やかな増加傾向にあり、2011年には1万人を超え、2012年は1万1,000人が来訪した。
また、外国人旅行者を目的別にみると、全体の52%(約460万人)は観光客で、ビジネス関係は12%(約106万人)、残りの36%はトランジット(通過)などだった。
2013年の夏季観光シーズンも4月下旬から始まっており、第1陣となるオーストリアの年金生活者の団体1,500人が黒海沿岸のサニービーチ(ネセバルの町の北)に到着した。また、4月27日には、ポーランドから200人の団体旅行者がチャーター便でアルベナ(バルチクの町から12キロ)に到着するなど、観光シーズンの滑り出しは好調だ。
<滞在費の安さや気候の良さが最大の魅力>
外国人観光客の増加の背景には、滞在費や物価の安さがある。また、団体のパック旅行の付加価値税(VAT)が標準税率20%より低い9%と優遇されていることや、黒海沿岸は地中海性気候の影響で気候が良好であることなどの要因もある。観光関連業界は、ユネスコの世界遺産(リラの修道院、ボヤナ教会など)巡り、エコツアー、ワインツアー、ゴルフツアー(トラキアン・クリフス・ゴルフマリーナなど国際試合が可能なゴルフ場もある)、歯科治療ツアー(治療費が安い)などの企画を実現している。また、ドイツなど欧州主要国で観光客誘致キャンペーンも実施した。2013年は中東や中国でのキャンペーンに注力している。観光客が減り始める8月下旬からは、ホテルは宿泊料を20〜30%割引して集客を図るので、これが目当ての観光客も多い。
前述の観光客第1陣のオーストリア人(平均年齢70歳)の場合、5つ星ホテルに1週間滞在で750ユーロだ。旅行代理店が2年間で1万5,000人の年金生活者の受け入れを受注している。また、ポーランドの団体観光客の場合は、アルベナでの平均滞在日数は10日だ。2012年はアルベナだけで約9,000人(前年比15%増)のポーランド人を受け入れており、2013年は前年比10%増を旅行代理店は見込んでいる。
米国のニュースサイト「ハフィントン・ポスト」(4月24日)によると、欧州の格安旅行先ランキングで、首都ソフィアが第1位となった。3つ星ホテルに滞在し、交通費や飲食費など込みで、出費は1日当たり50ドルだ。格安航空会社(LLC)のイージージェット(eastJet)やウィズエアー(Wizz Air)も発着している。
<観光収入は対内直接投資額より多い>
観光は宿泊、交通、飲食、娯楽、土産物など他の産業への経済波及効果が高く、失業者を吸収する面でも重要な産業の1つと政府は位置付けている。ブルガリア観光会議所のトンチェフ会頭によると、観光収入は2011年は32億ユーロ(うち外国人旅行者が27億ユーロ)と、対内直接投資(FDI)額(2011年は約13億ユーロ、2012年は15億ユーロ)よりはるかに多い。
課題は高速道路・国道などの道路インフラ、名所旧跡に付随する休憩所などの施設整備で、これらの改善が進めば旅行者はさらに増加する可能性が大きい。
日本からは、大手旅行代理店などがチャーター往復直行便でブルガリア・ルーマニアの旅を提供している。また、ブルガリアの現地でも、日本人が経営する旅行企画会社がオーダーメードの旅行を組んで提供しており、日本人観光客の増加も期待される。
(豊田昇)
(ブルガリア)
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