アジア太平洋経済統合に高い関心−シカゴでシンポジウム−
シカゴ事務所
2013年05月31日
ジェトロは5月15日、シカゴでアジア太平洋地域の経済統合に関するシンポジウムを開催した。シカゴでのシンポジウム開催は2年ぶり3回目。シカゴ日米協会のエドワード・グラント前理事長をモデレーターに、アジア太平洋を中心とした広域的な経済統合に向けた取り組みの進展や現状、課題と展望について議論した。中西部の外交・通商・経済・ビジネス関係者約220人が参加した。
<「経済統合は平和と安定もたらす」>
ジェトロは5月15日、前日14日にワシントンで開催された「アジア太平洋の経済統合と日米の役割」に引き続き、シカゴで「アジア太平洋広域経済圏セミナー・アジア太平洋の経済統合と日米の役割」を開催した。中西部でのアジア太平洋経済統合に関するセミナーが少ない中で、220人もの参加者を集めるなど、関心の高さをうかがわせた。
冒頭、シカゴ日米協会の名誉会長を務めるアドレイ・スティーブンソン元連邦上院議員は、日本の環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉参加が、日中韓自由貿易協定(FTA)や日EU経済連携協定(EPA)などのTPP非参加国との自由貿易協定を促進するのみならず、米・EUFTA(TTIP)やASEAN共同体設立の動きを加速するであろうと述べた。また、「先進国および途上国は世界経済のために資金と貿易のグローバルガバナンスの実現に向けた努力を相互に継続すべきであり、停滞するWTOやIMFの再編・強化も必要だ。地域経済統合は世界に平和と安定をもたらす」と強調した。
在シカゴ日本国総領事館の吉田雅治総領事は、2013年3月に安倍晋三首相がTPP交渉参加を正式表明したことを紹介し、アジア太平洋地域の貿易と投資を拡大し、加盟国間で相互に大きな利益を得るために、日本がTPP交渉に向けて真剣に準備を進めていることを強調した。また、地域経済統合が世界的に加速する中で、アジア太平洋地域や世界の自由貿易を推進するために、日本が主導的な役割を果たしていくことが重要と述べた。
続いて、イリノイ州経済開発局のダニエル・ゴフ次官は、日本とイリノイ州は親密な関係にあり、日本からの投資による雇用創出や、日本向け農産物輸出で恩恵を受けていると紹介した上で、アジアの経済統合への期待を示した。
ジェトロの石毛博行理事長は基調講演で、グローバルサプライチェーンが拡大する21世紀型の貿易投資の自由化競争を促進するためには、4つのメガFTA〔TPP、日EU・EPA、TTIP、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)〕の推進が不可欠と指摘した上で、この実現に向けて日米が果たす役割の重要性を述べた。加えて、4つの経済統合が調和の取れた競争となるよう、米国、EU、日本、中国を中心に、グローバル貿易投資のルール作りに潜在的な責任を負う主要経済大国の貿易担当相や政府高官などから構成される定期的な情報・意見交換を行う会合の開催を提案した。
地元イリノイ州の半導体関連素材メーカーのキャボット・マイクロエレクトロニクスのウィリアム・ノグロウス会長は、同社売上高の約8割を占める東アジアの経済統合が重要だとの認識を披露。また、経済産業省、三重県、ジェトロの支援を受けてアジアの研究開発拠点を三重県に建設した事例を挙げ、知的財産の保護制度などがしっかりしている日本がアジアの成長センターとしての役割を担うことへの期待を表明した。
<ASEAN、中国、日本の専門家が活発な議論>
パネルディスカッションでは、シカゴ日米協会のエドワード・グラント前理事長をモデレーターとして、ASEAN、中国、日本の専門家が、TPPなど高度な経済統合の進展が中国の経済統合政策に与える影響について議論した。
前広州総領事を務めた中国通の吉田雅治・在シカゴ日本国総領事は「中国の経済のグローバル化・地域統合化は既定路線だ。中国が自由貿易の範囲を拡大することは、自国の経済成長と中国で活動する外資企業の双方に大きなメリットになる。中国国内の戦術的な議論でTPPなのかRCEPなのかということもあろうが、中国にとって高度な経済連携への参加は大きなメリットなので積極的に参加すべきだ」と述べた。
また、張建平・中国国家発展改革委員会(NDRC)のマクロ経済研究院対外経済研究所主任は、「TPPは新しい世代の経済連携であり、従来の貿易・投資を主たる議題とした経済連携に加え、環境、政府調達、競争政策などさまざまな議題を取り上げるため、中国にとっては参加は時期尚早だろう。これまで中国は、急激な改革ではなく、段階を踏んで改革を進めていくという姿勢を徹底してきた。通商交渉も中国は徐々に一歩一歩進めていきたいと考えるだろう」と述べた。
シンガポール国際問題研究所(SIIA)のハンク・リム上席研究員は、「中国にとっては、TPPは米国主導の交渉プロセスと映っている。米国が2013年10月までにTPP交渉を終えたいと考えており、交渉の余地が乏しい点を問題視している。中国にとっては、プロセスと結果の両方が重要であって、結果だけを受け入れることは難しい。中国は実現可能性の高い経済連携であるRCEPや日中韓自由貿易協定(FTA)を推進していくだろう。これらの経済連携と高度な経済連携であるTPPとが今後収束していくだろうが、これには時間がかかるだろう」と述べた。
閉会のあいさつで、ニーブ・キング・シカゴ外交評議会副会長が、大半の米国人が欧州よりアジアを重視する傾向が強まっており、その中でも日本との協力関係が最も重要と強調した。
<APECテーブルトップ展示会で交流>
シカゴでは、ビジネス関係者とAPECメンバー国・地域の代表が交流する機会は少ない。今回のシンポジウムでは、開会前、休憩時間や閉会後の時間帯を利用して、APECメンバー国・地域が一堂に会するテーブルトップ展示を行い、ビジネス関係者との交流を行った。今回のシンポジウムには日本を含めて13ヵ国・地域の展示が行われ、さらに総領事が4人、12ヵ国・地域の貿易振興機関のシカゴ事務所から参加者が集うなど国際色にあふれ、普段シカゴでは触れることのない各国・地域の代表と交流する貴重な機会となった。
(古城大亮、川内拓行)
(米国)
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