2012年通年では1997年以来の貿易黒字

(メキシコ)

メキシコ事務所

2013年05月13日

2012年の貿易は、輸出が前年比6.2%増の3,709億1,470万ドル、輸入が5.7%増の3,707億5,160万ドルとなった。輸出の伸びが輸入の増加を上回り、貿易収支は1億6,310万ドルの黒字と、通年では1997年以来の貿易黒字となった。

<輸出:原油は減少も自動車産業を中心に好調>
品目別に輸出をみると、原油は前年比4.8%減、輸出全体への寄与度はマイナス0.7ポイントとなった(表1参照)。これは主に輸出量の減少によるもの。2011年のメキシコ産原油の平均輸出価格は1バレル当たり101.81ドルで、前年の101.21ドルとほぼ同じだった。輸出量は1日当たり平均125万5,833バレルで、6.1%減少した。

表1メキシコの主要品目別輸出入

輸出全体の約8割を占める製造業(工業製品・同部品)は前年比8.4%増の3,019億9,270万ドルとなり、過去最高の水準を更新した。内訳をみると、自動車・同部品の輸出が11.6%増と前年に引き続き好調、電気・電子機器も5.3%増となった。自動車・同部品が輸出総額に占める比率は23.8%で、製造業(工業製品・同部品)輸出に占める比率も29.3%に達した。自動車、自動車部品の双方が大きく増加し、輸出全体を2.6ポイント引き上げた。自動車・同部品は貿易収支でみても442億3,300万ドルの大幅な黒字となった。

電気・電子機器の輸出では、原油、自動車と並ぶメキシコの3大輸出品目の1つであるカラーテレビが前年比8.2%減少した。主力のフラットパネル型も6.4%減となった。米国市場での小売価格の下落傾向が続き、輸出量は増加するも金額が大きく落ち込んでいる。フラットパネル型テレビの平均輸出価格は、2012 年に北米市場を中心に12.6%下落した。携帯電話の輸出は前年比38.7%の急減、輸出数量でも24.9%減となった。

他方、コンピュータ・同ユニットの輸出額は前年比11.7%伸びた。数量ベースでも倍増した。コンピュータ分野は、2000年代は生産コストや裾野産業の成熟レベルで勝る中国やマレーシアとの競合により苦戦を強いられ、生産も減少傾向にあったが、ジェイビルサーキット、フォックスコン、フレクトロニクスなどの電子機器受託生産サービス(EMS)企業のほか、ヒューレット・パッカード、レノボなどがパソコンや関連機器の組み立てをメキシコで行うようになるなど、状況が変化してきている。

<アジア向けが好調>
輸出を主要国・地域別にみると、輸出全体の約8割を占める米国向けは前年比4.9%増加した(表2参照)。カラーテレビは9.4%減少したが、自動車・同部品が13.5%増と堅調だった。原油は11.5%減少した。カナダ向けは携帯電話が42.3%減、カラーテレビが20.4%減となったが、自動車・同部品をはじめ複数の品目でバランス良く伸び、全体では2.3%増となった。

表2メキシコの主要国・地域別輸出入

南米諸国への輸出は米国向け以上に増加した。2012年の南米最大の輸出先は再びコロンビアを抜いたブラジルとなり、自動車・同部品、化学、機械、電気機器、原油などの輸出が牽引して、全体で前年比15.7%増となった。コロンビアへは、乗用車は2012年並みもトラクターが34.4%減と足を引っ張った。原油が倍増した結果、全体では0.7%減となった。チリ、ペルー、ベネズエラなど、ほかの南米諸国向け輸出も堅調だったが、アルゼンチン向けは貨物自動車、自動車部品、携帯電話などが減少し、全体では1.3%減となった。

EU諸国への輸出は前年比15.7%増となった。スペイン向けは原油(54.7%増)や自動車部品(エンジン関連70.3%増)などが好調で47.0%増加し、3年連続で欧州最大の輸出先となった。フランス向けは78.1%増となった。通信機器・部品などが大幅に伸びた。英国向けは20.6%増で、金が67.9%増となった。オランダ、イタリア向けはいずれも減少した。

日本、中国、インドなどアジアへの輸出は前年比19.4%増だった。アジア最大、全世界でみても4位の輸出先である中国向けは、原油が71.5%減となった影響で、全体では4.1%減となった。一方で通信機器・部品などは大きく伸ばしている。韓国向けは鉛鉱のほか通信機器・部品も増え、13.5%増。台湾向けはアルミニウムや鉄などのスクラップが急減し、20.6%減となった。

輸出総額に占める対米輸出の比率は 2012年に77.6%となり、2000年以降で2011年に続き80%を切った。対照的に中南米・カリブ向けの比率は2000年の4.0%から2012年には7.7%に拡大した。北米自由貿易協定(NAFTA)発効以降、対米輸出製造拠点として発展してきたメキシコだが、近年は中南米を含む米州全域に向けた輸出製造拠点に発展しつつある。

<輸入:製造業向け中間財、資本財が増加>
輸入を財別にみると、全体の7割5分を占める中間財の輸入が前年比5.3%増加した。メキシコは部品・原材料を輸入し、組立加工した製品を輸出する組立加工立国であるため、製造業輸出の増加は、製造業向けの部品・原材料の輸入を増加させる。

消費財は4.8%増だった。ガソリン輸入は、前年比0.3%減少した。機械などの資本財輸入は、自動車産業を中心に設備投資が進んだことから10.1%の増加となった。輸入全体の85%を占める工業製品・同部品の内訳をみると、自動車・同部品が好調な生産活動に牽引されて13.5%増と大きく伸びた。ただし、輸出の伸びの方が大きかったため、同品目の貿易黒字は9.8%拡大した。電気・電子機器は2.3%の伸びにとどまった。

<アジア諸国の存在感が高まる>
主要国・地域別に輸入をみると、最大の輸入相手国の米国からは1,851億980万ドルで前年比6.2%増加した。対米輸入シェアは49.9%で前年の49.7%よりやや増えた。自動車エンジン・同部品などが伸びた。近年、輸入相手国としての存在感を増している中国からは電子・電気部品などを中心に全体で9.0%増え、シェアは15.4%だった。韓国からは自動車・同部品は伸びたが、集積回路やディスプレーモジュールなどが減少し、2.4%減だった。メキシコの輸入相手国としてアジア諸国の存在感は大きく、2位の中国、3位の日本、5位の韓国を合計するとシェアは23.7%に達した。 EU諸国 からは乗用車、エンジン、通信機器・同部品などを中心に8.4%増加した。ブラジルからの輸入はエンジンやエンジン部品、ブルドーザーなどが増加したが、乗用車の輸入は 14.1%減となり、全体で1.5%減だった。

メキシコとのFTAが発効済みの44ヵ国との貿易(2012年)に占める構成比としては、輸出が91.3%、輸入が71.0%、往復貿易で81.3%となった。通商関係で懸念されるのは、ブラジル、アルゼンチンとの自動車協定(ACE55号付属書)の改定だ。ブラジルとは、2012年3月19日から3年間、自動車の無関税輸出に上限枠が設定された。アルゼンチンとは、2012年6月26日から12月17日まで適用を停止した後、翌18日からブラジルと同様に3年間、自動車の無関税輸出に上限枠が設定された。2012年と2013年の第1四半期の自動車輸出台数を比較すると、ブラジル向けは62.9%減の3万7,948台、アルゼンチン向けは47.7%減の1万312台だった。

<日本からの自動車部品調達増える>
メキシコ側統計によると、2012年のメキシコの対日輸出は前年比16.0%増の26億1,420万ドル、輸入は7.0%増の176億5,520万ドル(表3参照)。日本側統計をドルベースでみると、日本の対メキシコ輸入は10.7%増の43億9,980万ドル、対メキシコ輸出は3.2%増の105億6,900万ドルとなっている(表4参照)。両者の大きな差は、米国など第三国経由の貿易を計上するか否かによる。輸出統計は仕向け地主義を採るため、相手国を直接仕向け地とした貿易額のみが計上される。他方、輸入統計は原産地主義を採るため、相手国で生産されたものであれば、米国など第三国経由の貿易でも相手国からの輸入に計上される。両国間の貿易実態をより正確に把握するためには、両国の輸入統計を用いることが必要だ。双方の輸入統計を合計した2012年の往復貿易額は、5.6%増の220億5,500万ドルに達した。

表3メキシコの対日主要品目別輸出入

日本側輸入統計で対メキシコ輸入を品目別にみると、鉱物生産品ではモリブデン鉱が前年比34.3%減だったが、蛍石は8.7%増、亜鉛鉱が33.7%増と拡大した。蛍石は主に冷媒として用いられるフッ素化合物の原料で、希少資源の1つ。メキシコは世界有数の蛍石の産地だ。銀の輸入は29.6%減の3億450万ドルとなった。

表4日本の対メキシコ主要品目別輸出入

工業製品では、医療機器(外科用機器)が前年比20.1%増と前年に引き続き好調に推移したほか、音声・画像データ通信機器の輸入が55.6%増と大きく伸びた。

農水産食料品は前年比8.2%増だった。日本の対メキシコ農水産品輸入の4割強を占める食肉は15.1%増加した。豚肉が10.0%増、牛肉が35.1%増だった。冷凍牛タンの輸入も好調(5.8%増)だった。メキシコは日本にとって、豚肉で4位、牛肉で4位、冷凍牛タンもカナダを抜き4位の輸入相手国となった。

メキシコからの果実・ナッツ輸入は前年比17.7%増加した。メロンの輸入は減少したが、アボカド、マンゴー、ライムの輸入が好調だった。メキシコは日本の最大のアボカド輸入相手国であり、輸入の9割弱がメキシコ産だ。マンゴーやメロン、ライムについてもメキシコは重要な対日供給国だ。マンゴーで29.7%、メロンで67.3%、ライムで 98.9%の輸入シェアを占め、いずれも最大の輸入相手国となっている。

野菜類の輸入も前年比33.3%増と前年に引き続き好調だった。カボチャ、アスパラガスがそれぞれ35.3%、41.1%増加したが、冷凍ブロッコリーは10.4%減少した。メキシコは日本にとってアスパラガスで1位(シェア47.1%)、カボチャもニュージーランドを抜いて1位(49.2%)の輸入相手国となった。

水産物では、クロマグロの輸入が前年比64.5%減となったほか、イワシ(冷凍)も55.3%減となった。一方、エビ(冷凍)の輸入は30.0%増と好調だった。ウニの輸入は微減。メキシコは日本のクロマグロの最大の輸入相手国で、生鮮で26.8%、冷凍で40.7%のシェアだ。

加工品ではテキーラやビール、オレンジジュースの輸入が多い。テキーラ・メスカルの輸入は前年比23.0%増の1,600万ドル(数量は1,858キロリットル)と引き続き好調。冷凍オレンジ果汁は10.2%減の1,280万ドル、数量では3,306キロリットルだった。メキシコは 2012 年に日本にとってブラジル、イスラエルに次ぐ 3 位の輸入相手国となっている。

一方、メキシコの対日輸入は前年比7.0%増の176億5,520万ドルとなった。品目別にみると、乗用車は18.7%減となるも、自動車部品が7.9%増と順調に伸びた。メキシコの自動車生産台数は 2012 年に過去最高の288万台に達し、日本からの部品調達も増加した。

乗用車の輸入は、過去最高を記録した2007年と比較すると42.6%の減少だった。2012年のメキシコ国内自動車販売台数(大型バス・トラックを除く)が2007年比で10.2%減と依然低迷していること、円高が日本車の輸入に不利に働いていることなどが要因だろう。

日本メキシコ経済連携協定(EPA)発効後、日本の対メキシコ自動車輸出は2007年まで順調に拡大してきたが、2008年以降は円高の進行などが影響して低迷している。2012年の円の対ペソ平均為替相場(TTS)は1ペソ7.08円で、2007年平均(11.80円)と比べると依然40%円高だ。メキシコの完成車の一般関税率は2012年1月1日以降20%となっている。日本製の場合、EPA 効果で関税は0%になるものの、40%を超える円高を考慮すると、EPAの関税削減効果よりも円高のマイナス効果の方が大きいといえる。他方、2013年4月の月間平均では9.04円(2007年比23.4%安)まで円安が進行しており、この傾向が続く場合、日本からの乗用車輸入に影響するか注目される。

(中島伸浩)

(メキシコ)

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