補足年金の支給額抑制と保険料の引き上げを決定−労使双方の歩み寄りで合意−

(フランス)

パリ事務所

2013年04月12日

2013年4月1日から、日本の厚生年金に相当する「補足年金」の支給額が削減された。補足年金制度の収支改善に向けた労使間の交渉で3月14日合意した結果だ。加えて、2014年1月からは年金の保険料が引き上げられる。雇用情勢の悪化により年金財政の収支は大幅に悪化しており、2017年には年金財源の枯渇も予測されていた。今回の合意により、2017年に補足年金の年間赤字が86億ユーロから55億ユーロとなり、31億ユーロの収支改善が見込まれる。

<雇用の悪化による大幅な財政悪化>
補足年金の拠出金や支給額については、労使間の合意による団体協約に基づく。補足年金の給付・支給機関として、管理職を対象とした幹部職員退職年金制度連合会(AGIRC)と非管理職の年金を扱う補足退職年金制度連合会(ARRCO)があるが、雇用情勢の悪化のため補足年金の収支は大幅に悪化しており、2012年11月から財政改善に向けて労使の交渉が行われていた。日本の経団連に相当するフランス企業運動(MEDEF)は、改正をしなければ補足年金の財源が2017〜2020年には枯渇すると予測していた。

<31億ユーロの収支改善を見込む>
収支改善のため、MEDEFと主要労働組合は7回にわたる協議の末、年金の保険料の引き上げと支給額の抑制について労使双方が譲歩するかたちで合意した。年金制度はポイント制を採用しており、拠出した保険料に応じて獲得したポイント数により年金の受給権が得られる。年金支給額は獲得したポイント数に「1ポイント当たりの価値」を乗じて算出される。

今回、年金の保険料率(雇用主が約60%、労働者が約40%負担)を2014年1月、2015年1月に0.1ポイントずつ引き上げることで合意した。引き上げによる増収は11億ユーロとなる見込み。また、毎年4月1日に改定している年金支給額の年次改定については、2013年4月1日から3年間改定率をインフレ率より1ポイント低く抑えるとした。年金受給額の少ない層の購買力の低下を考慮し、2013年4月1日の改定率については、非管理職で獲得1ポイント当たりの引き上げ率を0.8%と管理職の引き上げ率0.5%と格差を付けることで妥協した。今回の合意により、2017年の補足年金の年間赤字が86億ユーロから55億ユーロとなり、31億ユーロの収支改善が見込まれる。

<主要労組5団体のうち3団体が同意>
合意の内容が正式に成立するためには、少なくとも主要労組5団体のうち、3団体が署名する必要がある。フランス民主主義労働同盟(CFDT)が3月21日、フランス・キリスト教労働者同盟(CFTC)、労働者の力(FO)に続き、合意書に署名する旨を発表したことにより、同合意が成立する見込みとなった。他方、管理職の団体のフランス幹部同盟・幹部総同盟(CFEーCGC)は3月25日に、合意書が「中間層を搾取するもの」と署名を拒否し、反対するとのコメントを発表した。また、共産党系の労働総同盟(CGT)も3月26日、「年金の抑制が年金者の購買力の低下につながる」と反対、「社会保険料の雇用主の負担の増加分が少なく、赤字の解消とはならない」と署名を拒否することを表明した。

今回の労使間の合意に対し、政府は「労使の責任ある態度に敬意を表す」とし、サパン労働・雇用・職業教育・労使対話相は「補足年金のシステムを救った」と評価している。

(奥山直子)

(フランス)

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