輸入者による外国貿易地域の活用が増加−港湾局担当者と日通支店長に聞く−

(米国)

ロサンゼルス事務所

2013年04月10日

米国では外国貿易地域(FTZ)を活用して輸出入にかかるコストの削減を図る企業が増加している。従来は米国に拠点を持たない外国企業による活用が多かったが、米国で輸入業務を行う日系企業への恩恵も大きいという。FTZの活用について2月20日、ロサンゼルス港湾局担当者と日本通運の中川真人ロサンゼルス支店長らに話を聞いた。

<関税や特定の手数料が免除>
輸出入のコストを抑える手段として、米国で1934年に法制化されたFTZは、通関規制や関税に対する優遇措置が与えられる地域を指す。そこでは、関税の優遇・猶予・免除を受けられるとともに、製品の保管、取り扱い、展示、製造、廃棄が可能だ。FTZは国内にあっても、関税面では米国外と見なされ、関税や特定の手数料が免除される。例えば、同じ品目分類番号(HSコード)で第三国に再輸出する場合は、その製品本体および部品を輸入した際にかかる関税の支払いが生じない。FTZには米国の港や空港周辺の倉庫・工場などが指定される。

FTZは1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効し、カナダ、メキシコから米国への燃料や野菜、木材といった一次産品のほかに乗用車、通信機器、電気製品といった工業製品の輸入増加に伴い、広範囲で活用されるようになった。また、2000年以降は世界的な貿易構造の転換を迎え、製造業において最適地での水平分業が一般的になり、米国も製品分野によっては輸出拠点として活用されるようになった。こうした動きを受けて、在米の輸出入業者にとってFTZの活用はコスト低減の手段として受け入れられている。

<FTZは高額製品で恩恵が大>
2011年時点で、FTZは一般用途区、サブゾーンを合わせると全米で269地域ある。一般用途区は倉庫機能を目的とした保管、集配、転送の倉庫として使用されるほか、サブゾーンでは製造、修理、加工、廃棄、組み立て、ラベル再貼り付けと、これに付随する保管が認められている。

FTZでの取引は、自動車や電気製品など高額製品での恩恵が大きい。それら製品に関する米国の輸出入の増加とともに、FTZでの貨物取扱額は2000年以降急速に伸びており、2008年にピークの693億ドルに達した。2009年は景気後退を受け、大幅な減少がみられたが、2011年には641億ドルに回復した(図参照)。ロサンゼルス地域でFTZを管轄するロサンゼルス港湾局の森本政司氏はFTZ利用の増加の背景について、「FTZの承認作業期間が以前より大幅に短縮されたことで、設備投資がしやすくなり輸入者のコスト削減手段としての機会が大きい」「従来は米国へ輸出する外国企業が使用していることが多かったが、近年では米国内の輸入者による活用が増えてきており、輸入業者が自らFTZの申請を行い、倉庫を設置するケースが増えている」と語った。また、今後のFTZの動きとして「メキシコでの自動車産業の動きが活発になれば、ロサンゼルス近郊のFTZの活用は、第三国から部品などを米国に輸入・加工し、メキシコに再輸出するような輸入者に大きな利益となる」という。

2000〜2011年のFTGでの貨物取扱額

<日系企業にとって物流コスト削減の有力手段>
輸出入仲介業者の日本通運は、FTZを1990年代から活用しており、豊富な経験を持つ。同社の中川ロサンゼルス支店長ほか実務担当者にFTZの認可取得の経緯や活用について聞いた。

同社では一般用途区のFTZとして6万平方フィート(約5,600平方メートル)分の倉庫を稼働させている。FTZ認可の取得にはセキュリティー、在庫管理、情報記録の確認といった段階的な審査が行われる。結果的に、認可取得までに2年を要しており、特にFTZ で働く外国籍人材のバックグラウンドの確認に最も時間を費やした。この理由は、米国人であれば貿易に関する不正処理などの履歴や過去の雇用者記録が米国内にあるが、採用した人材が外国籍の場合はその記録の確認に時間がかかるためだ。しかし、一度FTZを取得すると無期限の使用が可能となる。FTZ認可の保持には毎年2〜3回の監査が入るが、記録管理をしっかりしておけばペナルティーもない。上記の処理は電子化されており、それに伴う人員も少なくてすむ。

FTZは、高額製品で頻繁に荷物の出し入れがある製品にかかる通関事務などをまとめることができる点に、最も恩恵がある。自前のFTZを持たない輸入者がFTZ倉庫を利用する場合、使用料金は他の倉庫に比べて比較的高めに設定されているが、輸入通関事務を週ごと(ウイークリーエントリー)で1回にまとめることで事務手数料と税関使用料を大幅に低減できる。例えば、週に3回の入荷を1回にまとめて申請するといった手段が取れる。このようなビジネススキームに合う製品、例えば電気製品や通信機器、医療機器などの高額製品、自動車や楽器など複数の部品からなる製品でFTZを活用する恩恵は大きいという。

米国では、アジアで生産していた部品などの生産が米国に戻る「生産回帰」の現象が起きている。また製品の中で高度な技術を要する部分は今後も米国内で製造する状況が考えられる。FTZの有効的な活用は長期にわたる物流コスト削減の1つの手段といえる。

(Sachie Vermeiren)

(米国)

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