公的機関の支払い遅延防止へ−EUが加盟国に国内法制定を義務付け−

＜公的機関は原則、請求書受領から30日以内に支払う義務＞
EU法の下での指令は、加盟国間の法令の調和を目指すものだ。一定の事項の国内法化を加盟国に義務付け、実際に適用されるのは、原則として指令ではなく、指令を受けて制定された加盟国の国内法となる。2011年3月に発効した支払い遅延防止指令（2011／7／EU）は、3月16日に国内法化期限を迎えた。

指令では加盟国に、公的機関が企業と商業取引を行う場合、公的機関に請求書受領から（請求書受領が物品・サービスの供与前であれば、物品・サービスの供与を受けてから）30日以内を支払期間と定めるよう求めている〔指令4条3項（a）〕。この支払期間は契約によって左右されない〔同項（b）〕。このため、公的機関は契約で、例えば請求書受領後100日後までに支払うといったかたちで、より長い期間を支払期間とすることはできない。

ただし、ヘルスケアを提供する公的機関などについては、加盟国は支払期間を最大60日とすることが認められている（4項）。同規定は2018年3月以降見直すことになっている。また、契約の特性上正当な場合であって、契約で明示されていれば、支払期間を60日とすることも認められている（6項）。とはいえ、いかなる場合でも60日以上の期間を設定することは認められていない。

支払期間を超えても支払わなかった場合、公的機関の取引相手である企業は、超えた期間について法定支払遅延利息を請求できる（4条1項）。法廷支払遅延利息は、欧州中央銀行（ECB）の利率など基準利率に少なくとも8％を加えた利率となる。現在のECBの主要リファイナンス・オペ金利（政策金利）は0.75％なので（2013年3月8日記事参照）、現在は少なくとも8.75％の利息を請求できることになる。

なお、ここでいう公的機関には、国や地方自治体に加え、法定の公的機関も含まれる（2条2号および指令2004／17／EC第2条1項または指令2004／18／EC第1条9項）。

＜南欧を中心とした支払い遅延が大きな問題に＞
同指令の背景には、一部加盟国で公的機関による支払い遅延が引き続き問題となっている現状がある。支払い遅延の問題に対しては、既に2000年の指令（2000／35／EC）があった。しかし同指令では、支払期日の設定は各国に委ねられており、必ずしも支払い遅延問題は改善されなかった。

特にリーマン・ショック以降、加盟国の財政赤字問題が深刻化したことから、公的機関の支払い遅延問題を改善する必要性が高まった。この問題は、特に中小企業に大きな影響を与えていると考えられた。そこで、欧州委員会は2009年4月に指令を提案した。その後、欧州債務危機で各国の債務状況がさらに悪化し、ますます改善の必要性は高まっていた。

毎年、民間企業が行う調査「欧州支払いインデックス」2012年版（PDF）によると、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルでは納期からの支払いが、契約による履行期日と支払い遅延を含め、120日を超えている。欧州議会の質疑（2012年8月）でも、2011年のイタリアの公的機関の支払期間は平均180日、支払い遅延は90日と指摘されていた。

そこで新しい指令では、前述のとおり、支払期間の最低基準を導入するとともに、支払いが遅れた場合の利息を引き上げることで、企業の債権回収を容易にするように図った。併せて、欧州委の主導により加盟各国と新規加盟予定のクロアチアで2012年から2014年にかけて、指令によって生じた権利を企業、特に中小企業に広く知らせるため、セミナーなどのキャンペーン活動を行っている。なお、指令では債権者に有利なかたちで国内法を規定することが認められており（12条3項）、国によっては支払期間がより短く設定されていたり、利息がより高く設定されている場合もある。

欧州委のタヤーニ副委員長（企業・産業担当）は指令の国内法化期限を迎えたことを受け、「（特に中小企業に）損害をもたらす支払い遅延の文化は終わらせなければならない。今こそ加盟国は支払い遅延指令を国内法化し、この困難な時期に中小企業に必要な支援を与え、彼らが雇用創出で主要な役割を果たす手助けをするときだ」と述べた。

なお、日本では支払い遅延防止法により国、地方自治体の支払い遅延が規制されている。

（牧野直史）

（EU）