情報を集め、環境変化に対応を−セミナー「アジアの最適立地を探る」(2)−

(アジア)

調査企画課

2013年04月18日

ジェトロ・シンガポール事務所の駐在員が「集積と分散」をキーワードにアジアの投資動向について現地報告をした上で、実際にアジア市場に挑む中小企業の取り組みを紹介した。連載の後編。

<海外拠点は集約化の一方で分散も>
セミナーの第2部では、初めにジェトロ・シンガポール事務所の椎野幸平次長が「アジアにおける日系企業の動向〜アジアの最適投資地を探る〜」と題し、企業拠点の集積・分散、アジア諸国の産業集積、シンガポールの地域統括拠点の3点について以下のように報告をした。

ASEANを中心に、アジア大洋州域内で約30件の自由貿易協定(FTA)が発効し、ASEAN原加盟国(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、シンガポール)内では99%の品目が無税になるなど、関税水準が大きく低下した。その結果、各地に生産拠点を配置するのではなく、生産性の高い地域に拠点を集約化していく動きが出てきている。同時に、東日本大震災やタイ洪水でサプライチェーンが寸断された経験を踏まえたリスク管理や、急騰する従業員賃金への対応のため、海外拠点を移管する分散の力も働いている。

<各国で産業集積が進む>
アジア主要国の産業集積についてみると、インドネシアでは、タイのバンコクに次ぐ自動車産業の集積が進んでいるほか、紙おむつなどの消費財メーカーの進出も目立っている。その一方、工業団地の用地不足や顕著な賃金上昇という課題がある。

ベトナムでは、北部にエレクトロニクス関連企業の集積が進んでいる。中でも韓国のサムスン電子が北部バクニン省に設立した工場でスマートフォンの生産を始めたことにより、ベトナムの輸出増、輸出構造の多様化につながっている。

フィリピンでもエレクトロニクス分野で企業進出が相次いでいる。同国が注目される背景には、a.アキノ政権誕生による政治的安定、b.相対的にみて安価な賃金水準、c.生産年齢人口における若手層の比率が高く労働争議も少ないことがある。

タイについては、近年の最低賃金の大幅上昇や人手不足を背景に、同国を中心にカンボジアやラオスなど周辺国との間でのサプライチェーンが構築され始めている。

ミャンマーは、既存の工業団地が満杯の状態で、ヤンゴン市街地から東南約23キロの場所に予定されているティラワ工業団地も完成までに時間がかかる。加えて、バンコクとの物流ネットワークが弱い点や、新外国投資法の内容に曖昧さが残る点などが課題だ。

<シンガポールがビジネスのハブ拠点に>
その他、近年、日本の大手企業を中心にシンガポールに地域統括拠点を設置する動きが出ている。「販売・マーケティング」「人事・労務管理・人材育成」「金融・財務・為替」の3つが地域統括拠点の中心的な機能で、中でも「金融・財務・為替」のコストメリットが高い。シンガポールにはヒトや情報が集まってきており、ASEANのビジネス上のハブ拠点になっている。

<新たな成長を求めアジアへ進出>
次いで、「東海地域からアジアへの進出企業事例の紹介」として、積極的に海外展開に取り組んでいる2社が、自社の経験を基にアジアへ進出した経緯などを話した。

まず、キョウワ(本社:岐阜県関市、機械装置製造)の臼田龍司専務取締役は、海外進出の動機として、少子高齢化による日本国内需要の低迷やエンドユーザーのグローバル化を挙げた。その上で、進出先をベトナムに決定した理由について、(1)モノづくりの成熟度は低かったが、モノづくりに対する同社の教育を素直に受け入れてくれる国民性だったこと、(2)本社で雇用しているベトナム人技術者との信頼関係が構築できていたこと、が決め手となったと説明した。また、立地をホーチミン市に近い工業団地に決定したのは、同社が求めるレベルの技術者が都市部に近い勤務地を好むという現地事情を考慮したからだ、と述べた。

一方、現状での事業運営上の課題として、ベトナム企業の技術・管理レベルが低いことにより、適切な材料の入手が困難なこと、現地での継続雇用が難しいことなどを挙げた。最後に海外事業成功の秘訣(ひけつ)として「海外ではさまざまな事態が発生するが、成功するまでやり続ける強固な決意が必要」とアドバイスした。

続いて今井航空機器工業(本社:岐阜県各務原市、航空機部品製造)の今井哲夫代表取締役が、同社の海外展開について以下のように説明した。

20年前にシンガポール経済開発庁が開催したビジネスマッチングへの参加が契機となり、海外ビジネス展開に向けた検討を開始した。その後、工程の下請け企業から部品サプライヤーへの事業転換、親会社からのコストダウン要請への対応のため、マレーシア、タイおよびベトナムに海外拠点を設立した。マレーシアに進出したのは、同国に航空機産業の集積があり、英語で意思疎通が可能だったからだ。航空機部品の表面処理・塗装を行っているマレーシアの工場では、米国のボーイングから認定を取得しており、今後の航空機分野での受注拡大に期待している。

<海外ビジネスに伴うリスクにも配慮を>
続くパネルディスカッションでは、プレゼンテーションを行った5人をパネリストとして迎え、ジェトロ名古屋事務所の戸塚隆友所長がモデレーターになり、議論が行われた。議論のポイントは以下のとおり。

○アジア地域に進出する際に留意すべきリスク
・速いペースで賃金水準が上昇している。
・ジェトロの「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012年度)」からは、従業員に関係する項目が経営上の問題点として多数挙がっている。
・インフラ整備の遅れや工業団地の用地不足がボトルネックになっている。

○海外進出を進めるに当たり活用した支援機関・コンサルティング会社
・情報源としてジェトロ、各国の投資誘致機関、現地商工会議所、銀行などを活用した。
・国によっては現地のコンサルティング会社を活用すると手続きが円滑に進む場合があり、良いコネクションを持つコンサルティング会社を見つけることが大切。
・事務所設立にはコンサルティング会社を活用したが、サプライヤーの発掘は自ら政府関係者や他社の紹介で1社ずつ開拓していった。

○進出先を決定する際にどの程度現地の対日感情を考慮したか
・対日感情の良しあしは決定要因ではなかった。
・対日感情があまり良くない国では、十分にコミュニケーションを取るようにしている。

最後に、平塚大祐ジェトロ理事が「投資のボトルネック、パートナー選びの重要性が議論された。進出日系企業に影響が出るような政策変更の動きがある時には、ジェトロは大使館や商工会議所と協力して、現地政府に不透明な政策を改めるよう働き掛けている。ジェトロはアジアを中心とした新興国へ進出する企業に対し、支援専門家を派遣するなどのサポートを行っており、是非ジェトロを活用して海外進出を成功させてほしい」と述べて、セミナーを締めくくった。

(斉藤学)

(アジア)

進出目的によって異なる立地先−セミナー「アジアの最適立地を探る」(1)−

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