進出目的によって異なる立地先−セミナー「アジアの最適立地を探る」(1)−
調査企画課
2013年04月17日
ジェトロは3月25日、名古屋で「アジアの最適立地を探る」と題するセミナーを開催した。「チャイナプラスワン」の視点から進出先として関心を集めるアジア諸国のビジネス環境について講師が解説したほか、アジアに進出した企業が自社の経験を紹介した。セミナーには東海地域の企業を中心に100人以上が参加した。概要を2回に分けて報告する。
<進出先は総合的な分析を踏まえ選択を>
第1部では、ジェトロの平塚大祐理事とデンソーの北原敬之経営企画室担当部長が基調講演を行った。
平塚理事は「企業は利益の最大化を求めてビジネスを大きくしていくという行動原理で動いており、日本だけでなくアジア全体を1つの経済空間として捉えている」と述べ、日本企業の海外進出動向について以下のように解説した。
企業が立地を考える上での原理は「混雑」と「分散」という概念を使って説明できる。すなわち、労働が自由に移動できる国内においては、賃金に大きな差が生じないため大都市に産業の集中が起き、その結果、賃金上昇、工業用地不足などの「混雑」が発生する。一方、輸送費の低下が進むと「分散」の力が働き、利益拡大を考える企業が、生産拠点を賃金の高い国から低い国へ移すことにより、国家間経済格差が縮小していく。
そうした行動原理に基づき、日本企業は安価な労働力、新たな市場の確保などを求めてアジアへ進出している。2010年度の上場企業の営業利益の地域別比率を10年前と比較すると、海外の比率が高まっており、グローバル化が進展している。こうした動きに対し空洞化の議論があるが、国内市場規模が縮小している中、海外直接投資によって国内の操業撤退を回避できるとする理論的な文献も出ている。企業も1ヵ国で全ての工程を製造するのではなく、国際分業を進めるケースが増えている。例えば、輸送費の安いハードディスクでは、最終組み立てはタイの工場で行っているが、部品の調達先をみると日本、米国、中国およびアジア近隣諸国など多岐にわたっている。
ジェトロの「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012年度)」によると、インド、韓国、インドネシア、中国などでは、「現地市場開拓を輸出よりも優先する」という割合が高く、地場企業との取引が増えている。また、消費者向け販売においては、「富裕層」より「ニューリッチ・中間層」をターゲットとして考えている企業が増えており、アジア地域が成長していることを裏付けている。一方、現地市場での競争相手について、「進出日系企業」とする回答も少なくなく、進出日系企業間での競争も発生している。
アジアへの進出は、どこがベストかではなく、目的によって立地先が異なってくる。賃金水準、部品の集積度、輸送コストなどを総合的に分析して進出先を選ぶことが必要だ。
<自社に合致したビジネスモデルの構築を>
デンソーの北原経営企画室担当部長は「自動車部品メーカーの海外立地戦略」と題し、アジア市場への取り組みを以下のように紹介した。
海外進出を検討するに当たって、まずフィジビリティー調査をしっかりと行うことが必要だ。最初にどこの国に進出するかを考えるのではなく、海外進出の戦略的な位置付けを明確にした上で、何を求めて海外に出て行くのかを決めなければならない。自社の実力以上のことをすると失敗するので、自社で「できること・できないこと」を把握した上で、明確な目標を設定することが必要だ。
また、賃金水準とインフラ環境はトレードオフの関係になっており、日本のように高賃金だがインフラと産業集積が整った国はアジアにはない。海外進出のビジネスモデルを考える際、日本と同じかたちで展開するのではなく、場合によっては異なるかたちでビジネスを実施していくことが必要になる。具体的には、日本で1次下請けを行っている企業が、海外では2次下請けの機能を抱き合わせてオペレーションを行うケースもある。
進出形態について、進出先の事情によりメリット・デメリットを考慮する必要がある。特に、パートナーと合弁で事業を行う際、「資金は出すが口は出さない」パートナーが理想的だが、そうした相手を見つけるのは容易ではない。また、短期思考で一時的な利益を優先するパートナーと組んでしまうと、後々苦労することが多い。
全て自社で準備するのが難しい中小企業の場合は、既に海外進出している取引先企業のスペースを一部借りて管理業務なども当該企業が行う「軒下同居方式」の採用や、商社などの日本企業が整備する工業団地に入るのが望ましい選択肢といえる。
労務コストについては、アジア諸国の賃金上昇率は高いので、現在の水準だけで判断するのは不十分だ。加えて、ブルーカラーの賃金水準は安いがホワイトカラーの賃金が高いケースや、給与以外に福利厚生費などで多額のコストが発生するケースがあるため、全てのコストを含めて検討することが求められる。一方、労務面のトラブルについては、マネジメントの失敗によるものだけでなく、「突然社員でない人間が工場に乗り込んできて賃上げを求めて騒ぎを起こす」「政治的な要因により対日感情が悪化する」など、自助努力では防ぐことが難しい問題が発生し得ることに注意が必要だ。
海外進出には、生産の現地化に5年、人材の現地化に10年、経営の現地化に15年必要。長い道のりであることを覚悟する必要がある。
(斉藤学)
(アジア)
情報を集め、環境変化に対応を−セミナー「アジアの最適立地を探る」(2)−
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