輸入乗用車に4月13日からセーフガードを発動−対策を急ぐ自動車輸入・販売企業−

(ロシア・CIS、ウクライナ)

モスクワ事務所

2013年04月02日

政府は3月14日、輸入乗用車に対し現行輸入関税率(10%)に加え、新たに特別関税を課すと発表した。排気量が1000cc超1500cc以下のものは6.46%、1500cc超2200cc以下のものは12.95%の特別関税を、現行の輸入関税率に付加する。同措置は公布30日後の4月13日から実施され、3年間の期間限定の措置としている。

<セーフガード発動に対し関係者は懸念を表明>
本措置はウクライナ政府省庁間国際貿易委員会が2012年4月に決定したものが公布されたもの。ウクライナ自動車メーカー3社からの要請を受け、2008〜2010年の輸入車増による国産車メーカーの活動状況を調査の上、導入された。輸入車の増大に伴い国産自動車は市場から排除され、国内生産体制が弱体化し、国内生産台数は急激に落ち込んだとし、WTOの貿易救済措置である緊急措置(セーフガード)を発動したと説明した。

これを受け、全ウクライナ自動車輸入・ディーラー協会は3月14日、特別関税の導入は(乗用車の)価格上昇、ひいては販売減につながると反対した。「ウクライナ政府は富裕者への増税を実施しないで、貧者への課税を強化している。オリガルヒ(新興財閥)が1000〜2200ccの(小・中型)車を買うとは思えない」と反発した。本措置に対抗すべくあらゆる手立てを尽くすとし、特別関税導入前の輸入を奨励するとともに、特別関税の対象車種が輸入されなくなる可能性を示唆した。

また、在ウクライナ欧州代表部は3月19日に声明を発表し、ウクライナ政府に本措置の撤回を求めた。声明では、本措置は新たな貿易障壁に相当し、欧州の自動車業界に多大な影響を与えると懸念を示すとともに、本措置の導入は法的正当性に欠けており、EU側が求めている措置導入の具体的根拠の説明がないまま決定されたことは遺憾だとした。

このほか、輸入業者も本決定につき一様に困惑し、取り扱い車種の見直し、変更などを急ぎ検討している。シトロエン・ウクライナのロイク・シブラク所長は「1000cc未満の小型車とディーゼル車を積極的に販売したい」とし、またニッサン・ウクライナのアンドレイ・ネステレンコ社長も「ディーゼル車を重視するとともに特別関税対象外の車種のラインアップを検討したい」と述べた。しかし、新たな車種の取りそろえには準備期間を要し、特別関税導入前に対応できるかどうかは未定だ。

<自動車市場の大半は輸入車>
ウクライナの自動車市場では輸入車が圧倒的な比率を占める。2012年の乗用車(新車)販売台数は前年比14.5%増の23万7,602台。新規登録ベースでみた輸入車は20万4,957台で、輸入総額は32億4,700万ドルだった。ロシアからの輸入車が4割近くを占め、次いでドイツ、日本、中国、韓国などが続く。一方、国内生産台数は前年比28.6%減の6万9,685台だった。このような状況から、ウクライナの国産自動車メーカーは本措置により増産の見通しが出てきたと歓迎している。

他方、自動車市場の回復はすぐには進まないとの見方もある。2013年2月12日に開催された自動車販売促進ラウンドテーブルの席上、物流や自動車販売などに従事するビディ・グループのアルチョム・トカチェンコ第1副社長は「自動車販売はウクライナ経済の状態に連動する。ウクライナのGDPが今後継続的に2〜3.5%増で推移すれば自動車販売台数も右肩上がりになるが、現実は難しい」とし、「経済危機前(2008年)のレベル(約66万台)の市場規模に戻るには10〜15年が必要」との認識を示した。

今回の特別関税導入がウクライナ自動車販売市場にどのような影響を与えるのかについては、関係者ばかりでなく、ウクライナ経済にとっても切実な問題だ。在ウクライナ日系自動車メーカー関係者の中には、自動車産業の将来像が示されず(外資向けに)何ら投資インセンティブの説明がない中で、国内産業保護を目的とする特別関税を導入する意図をいぶかる声も上がっている。

(水谷修)

(ウクライナ)

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