RCEP交渉開始を控え、地域経済統合の重要性を議論−国際シンポ「日インドネシア関係と東アジア経済統合」−

(インドネシア)

アジア大洋州課

2013年03月25日

ジェトロは、地域経済統合をテーマとした国際シンポジウムを開催した。専門家や企業関係者により、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を中心とした地域経済統合の効果や影響、その恩恵を得るための日インドネシア協力の在り方などを議論した。特にインドネシアの国際生産ネットワークへの参入、インドネシア企業の生産性向上の必要性などを指摘する声が相次いだ。

<両国は地域経済統合のリード役へ>
ジェトロとインドネシア戦略国際研究所(CSIS)は3月4日、ジャカルタ市内で国際シンポジウム「日インドネシア関係と東アジア経済統合」を開催した。東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、アジア開発銀行研究所(ADBI)との共催。本シンポジウムは東アジアのRCEP交渉を間近に控え、地域経済統合の重要性や、ASEANの中核国の1つであるインドネシアと日本の両国経済関係の発展に地域経済統合を活用していく方策、などを議論するのが目的。インドネシア政府・企業関係者、日系企業、大学・シンクタンク、各国大使館など幅広い分野から200人余りが参加した。

基調講演に立った石毛博行ジェトロ理事長は、インドネシアがアジアの輸出拠点として大きな可能性を秘めており、その可能性を引き出すためにRCEPが大きな役割を果たすこと、ASEANコネクティビティー・マスタープランに基づいたハードおよびソフトインフラ、経済回廊の構築もインドネシアの輸出拠点化に貢献すること、両国はさまざまな課題に直面しているが、両国が補完し合って課題を克服できること、などを指摘した。その上で、両国が地域経済統合をリードする役割を果たすべきだと訴えた。

<RCEPは域内国が恩恵を受ける理想的な構想>
地域経済統合による影響や効果をテーマとしたセッションIでは、3人の専門家が講演した。最初のスピーカーとして、ERIAのインタル・シニア研究員は「ASEAN経済共同体の現状〜パフォーマンスと課題〜」というテーマで講演し、ASEANでは域内関税の撤廃はほとんど終了しているが、非関税障壁は残っていること、通関手続きの円滑化が産業界の最大の関心事項であること、サービスの自由化、インフラ開発などではまだ改善の余地が大きいこと、などを指摘した。さらに、全ての域内加盟国が自由貿易協定(FTA)からより多く恩恵を享受するためには、もっと広範囲かつ深く地域統合を発展させるべきで、この観点からRCEPは理想的な構想といえる、との見方を示した。

続いて、ADBIのガネシャン研究部長はアジア広域FTAの経済効果について講演し、地域経済統合からインドネシアを含めたASEAN各国が利益を享受するには5つの課題があり、それらの解決には各国の政策的関与が必要だと指摘した。5つの課題とは次のとおり。a.RCEPに積極的に参加すること、b.EU・韓国FTAなど優れたFTAを手本とし、今後の2国間FTAやRCEPのひな型として利用すること、c.構造改革を具体化させるための手段としてFTAを利用すること、d.FTAの活用を促すこと、e.生産ネットワークへの中小企業の参入を促すこと。

3番目のスピーカー、CSISのアチェ・シニアフェローは「東アジアにおけるFTAの現状とインドネシア経済への波及効果」というテーマで講演し、FTAの効果を最大限に発揮させるためには、国内改革が必要不可欠だと指摘した。具体的には、国内の操業コストを引き下げたり、資金へのアクセス(調達)を容易にしたりするような改革が必要だと述べた。

また、FTAのメリットを受けるためにはインドネシア企業の競争力を強化する必要があり、そのために技術革新の能力向上が不可欠として、現状のGDPに占める研究開発費の少なさは危機的状況と警鐘を鳴らした。

<インドネシア製品の日本市場参入の支援を>
セッションIIでは、日本とインドネシアの企業関係者がそれぞれの立場から日インドネシア関係の現状や課題について講演したほか、インドネシア商業省が政府の立場から両国関係への期待などを語った。

最初のスピーカー、インドネシアトヨタの野波雅裕社長は、トヨタグループのインドネシアでのビジネス強化策として、インドネシア市場のニーズに合致したモデル開発、輸出の拡大、部品の現地調達強化、人材育成に取り組む方針を表明した。また、インドネシアの自動車産業の発展には、港湾・道路・大量輸送システムなどのインフラ開発、2次・3次部品メーカーへの支援拡大、労務制度の改善が不可欠と指摘した。

続いて、インドネシア食品・飲料協会のハリー副会長は、食品・飲料産業は海外市場では関税障壁に加え、非関税障壁にも直面していると述べた。日本でも添加物問題で輸入を拒否されることがあるが、それは主に輸出側の知識不足に負うところが大きい、との見方を示した。その上で日インドネシア経済連携協定(EPA)の協力事業などを通じて、インドネシア製品が日本市場の基準をクリアし、参入を果たすことを期待すると表明した。

最後に、商業省国際貿易協力局のイマン総局長は、日本とインドネシアは長期にわたるパートナーであることを強調した上で、日インドネシアEPAは見直しの時期を迎えており、その中でRCEPも論点の1つになるだろう、と指摘した。今後はRCEP交渉を前提とした新たな日インドネシアの関係構築が必要になり、インドネシアとしては官民挙げた取り組みで、さまざまな分野の生産性を向上させなければならない、と語った。

<国際的な生産ネットワークがインドネシアの課題>
シンポジウム最後のプログラムのパネル討論は「日インドネシア関係の展望と東アジア経済統合への貢献」をテーマに、ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センターの佐藤百合センター長がモデレーターとなり、日インドネシアの2国間関係のチャンスや課題、地域経済統合を踏まえた両国関係の方向性などについて4人のパネリストが議論した。

まず、インドネシア商工会議所(KADIN)のソニー日インドネシア経済委員長は、インドネシアが産業構造の大変革期にあり、一次産品の輸出国から産業立国へのシフトを果たそうとしていること、両国は2国間関係を超え、ASEANのイニシアチブを支援するような連携を目指すべきことなどを指摘した。

ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JCC)の水野正幸理事長は、日インドネシア間のさらなる貿易投資の拡大のためには、官民連携による支援が非常に重要だと指摘した。その具体例として、首都圏投資促進特別地域(MPA:Metropolitan Priority Area)構想を挙げ、インフラ整備への民間企業の参入を促進するための環境整備支援の取り組みなどを紹介した。

ジェトロ・ジャカルタ事務所の富吉賢一所長は、外資を呼び込むには規制ではなく、促進策を前面に出すべきで、現状では促進策が不十分との見方を示した。また、インドネシアが即効性のある経済発展を望むならば、国際的な生産ネットワークに参入すべきで、そのポテンシャルは十分にあると指摘した。

CSIS経済部のヨセ部長は、インドネシアの産業界、特に中小企業は国際化が必要で、中小企業の能力強化には日本の役割が期待されると述べた。また、インドネシア企業は地域経済統合を利用していかなくてはならないが、FTA利用率はまだ低く、輸出企業の能力強化が必要不可欠だ、と主張した。

これらのパネル討議を含めたシンポジウム全体の議論を踏まえ、モデレーターの佐藤センター長は、日インドネシア関係のキーワードとして、インドネシアの輸出拠点化や中小企業支援、環境配慮、国際生産ネットワーク参入などにおける日本の活用などが指摘できると総括した。

(若松勇)

(インドネシア・アジア)

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