2012年の実質GDP成長率は1.4%に減速−欧米経済の低迷による輸出減が影響−

(香港)

香港事務所

2013年03月08日

香港政府は2月27日、2012年の実質GDP成長率を1.4%と発表した。欧米経済の低迷による輸出の減少などが主因となって、2011年の4.9%からさらに減速した。2013年については、欧米の景気回復は見込みにくいものの、中国を含めたアジアのファンダメンタルズは良好であるとして、成長率予測を1.5〜3.5%としている。また2013年のインフレ率について、2012年の4.1%を上回る4.5%と予測している。

<2013年は緩やかに改善の見込み>
2012年は、欧米のファンダメンタルズの弱さがアジア各国・地域の貿易にも悪影響を与えた。この悪影響はとりわけ2012年第1四半期に顕著に表れ、同期における香港の財の輸出(実質ベース)は前年同期比5.2%減となった。もっとも、第2四半期以降は徐々に回復し、中国経済が成長の勢いを取り戻した第4四半期には6.1%増となった(第1四半期:5.2%減→第2四半期:0.2%減→第3四半期:4.0%増→第4四半期:6.1%増)。この結果、四半期ごとの実質GDP成長率も、小幅ではあるものの回復の動きをみせた(0.8%→1.0%→1.4%→2.5%)。

2012年の貿易以外の実質GDPの内訳をみると、個人消費の伸びが低下し、前年比4.0%増(2011年は9.0%増)となった。失業率の低さ(3.3%)と実質賃金の上昇が一定の下支え的な役割を果たし、耐久消費財は好調だった。

固定資産投資は、建物・建築への投資(民間・政府部門)や機械設備投資が引き続き好調だったことから、ほぼ横ばい(前年比1.1ポイント減)の9.1%増となった。

政府は2013年の成長率予測を1.5〜3.5%としており、2012年の成長率予測(同年2月時点)の1〜3%から引き上げている。米国経済の回復ペースの遅さに加え、欧州の景気後退や日本の債務負担の重さなどのマイナス要素はあるものの、アジアのファンダメンタルズは良好であるほか、中国経済が2012年第4四半期から成長の勢いを回復したことから、香港の貿易ひいては経済は緩やかに改善するとの見通しによるものだ。なお、同じ2月27日に発表された2013年度(2013年4月〜2014年3月)予算案では、前年度予算と同様に市民・企業の負担軽減策を盛り込んでいる。ただし、その規模はGDPの底上げ効果が1.5%あるとした前年度予算の半分未満にとどまっている。

<2013年のインフレ率はやや高めを予測>
2012年のインフレ率は、食品や日用品などの輸入品価格の伸びが低下したことや経済減速の影響もあって低下傾向にあり、通年で4.1%(2011年は5.3%)となった。一方、品目別の内訳をみると、食品や住宅価格は6%弱の高い伸びとなった。

2013年のインフレ率は、上昇圧力があることから4.5%になると政府は予測する。金融緩和の実施や、日用品などの価格上昇リスクの存在といった国際的な要因に加えて、最低賃金の上方改定や不動産賃料が高止まりする見込みといった香港域内の要因が、インフレ率を押し上げる要因となっている。

<不動産取引の抑制策を一層強化>
インフレ率の上昇は市民の生活を直撃するため、政府はその対策に追われることになる。住宅を含む不動産に関しては、政府はこれまで住宅の短期転売などの取引への課税強化や、不動産融資規制の強化措置を講じてきた(2012年11月19日記事参照)。その中でも、集合住宅価格が2012年に25%上昇し、2013年1月にも2%上昇したほか、商業用不動産も同様の動きをみせた。

このため、政府および香港金融管理局は2月22日、新たな不動産取引抑制策を発表した(翌23日から施行)。

まず、不動産取引一般に課せられる印紙税の税率を2倍とする。これにより印紙税の最高税率は、これまでの4.25%から8.5%となる。従来の不動産取引への課税強化は住宅に限定したものだったが、今回の措置ではオフィスや店舗などの商業用不動産の取引も対象となる。ただし、香港市民が初めて住宅を購入する場合などについては、印紙税の税率は従前のものが適用される。

次に、商業用不動産に対する融資割合(注)の上限を50%から40%に引き下げるほか、駐車場については融資期間の上限を30年から15年に引き下げる(他の商業用不動産の融資期間の上限は30年に据え置き)。

曾俊華(ジョン・ツァン)財政長官は政府公式ブログ(2月24日)で、「非常時には非常時の措置を取る。市民が複数の住宅を所有する場合も課税強化の対象とする。必要に応じて新たな措置を講じることをためらわない」と述べている。また今回の措置の対象外となる、住宅を初めて購入しようとする市民との関係でも、現在の低金利環境(住宅ローンの金利は2%台)はいつまでも続かないため、住宅購入に当たっては債務返済能力があるか十分に検討する必要があると呼び掛けた。

なお商業用不動産のテナントにとって、今回の措置によって仮に商業用不動産の価格がある程度下落する場合には賃料の負担も減少する可能性もある一方で、商業用不動産の価格が高止まりしたままの場合には増加した印紙税分の負担が賃料に転嫁されることになりかねない。在香港日系企業への影響については、今後注視していく必要がある。

(注)購入不動産の価格に占める融資額の割合。

(白井宏幸)

(香港)

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