新車登録台数は70万台を割り込み25年前の水準に−主要国の自動車生産・販売動向(2012年)−

(スペイン)

マドリード事務所

2013年02月13日

2012年の新車登録台数は70万台を下回り、ほぼ25年前の低い水準となった。冷え込みの背景には、高失業率・増税・給与の抑制による購買力の低下、企業活動の低迷、信用収縮の「三重苦」がある。政府は緊縮財政にもかかわらず、販売減少を食い止めようと新車買い替え補助金制度を復活させた。欧州債務危機の影響で自動車の生産・輸出も減少傾向にある中、賃金抑制や労働条件の弾力化を背景に、各メーカー製造拠点では新型モデル受注や投資計画が相次ぐ。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<新車買い替え補助金制度を2013年も延長>
スペイン自動車工業会(ANFAC)の1月2日の発表によると、2012年の新車登録台数(四輪駆動車を含む乗用車)は、前年比13.4%減の69万9,589台と1986年(68万9,076台)並みまで後退した。家計購買力低下の長期化による不況の深まりが浮き彫りとなった。また、産業用車両も前年比25.9%減の9万1,402台と、企業活動の低迷が反映された。

政府はこれを受け、2012年9月に約2年ぶりに復活させた新車買い替え補助金制度「高燃料効率自動車購入補助プログラム(PIVE)」を、2013年中も延長すると決定。今回は2013年1月初旬に終了した第1弾の倍額の予算(1億5,000万ユーロ)を計上し、乗用車(車齢10年以上)と小型商用車(7年以上)の廃車を条件に、一定の排出基準を満たした環境対応車〔上限価格税抜き(注1)2万5,000ユーロ〕への買い替えを行う場合、1台につき原則2,000ユーロの補助金を国と販売店が折半して支給する。

スペインでは乗用車保有台数のうち、車齢10年を超える割合が39.6%(2011年)となっており、好況期の2007年(31.5%)から増加。政府は環境対応車への買い替えによる大幅な二酸化炭素(CO2)削減効果も期待する。

同制度の復活・延長を政府に強く要請してきたANFACは「2013年も厳しい年となるが、補助金制度の継続で販売減少を食い止め、年間販売台数70万台以上に反転させることを目標とする」としている。

<不景気とグリーン税制で超小型車に人気集中>
乗用車販売を車格別にみると、前年を上回ったのは最小クラスの超小型車(前年比8.0%増)のみ。根強い人気の小型〜中型スポーツ用多目的車(SUV)は、それぞれ1.6%減、6.1%減と小幅の減少にとどまった。他方、これまで不況知らずとされてきた高価格帯の高級・大型車はついに息切れし、2〜4割減と最も大幅な下落となった。販売台数の半分近くを占める、主力の小型〜中型車クラスも1〜2割減と減少が続く。

超小型車の好調は、燃料価格の高騰や不況による低価格帯人気が背景となっているだけでなく、2008年から導入されたグリーン税制(注2)の後押し効果も大きい。同税制で、走行1キロ当たりのCO2排出量が120グラム未満の低排出車種は、車両登録税が免除される。このこともあって、2012年にスペインで販売された乗用車の53%が免税車種、つまり低排出車で占められた。また、同年に販売された乗用車の平均CO2排出量は128グラムと、過去5年間で30グラム低下した。

他方、この「エコ志向」は電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)の市場拡大にはつながっていない。現在、国内89都市に合計771ヵ所の充電スタンドが設置されているが、2012年に新車登録されたEVは437台(19.1%増)と本格的な普及には程遠い。また、これまで好調だったHVは1万77台(2.6%減)と頭打ち感が出てきた。購入補助金やさまざまな優遇措置で普及促進が図られるものの、乗用車販売台数に占めるEVとHVのシェアは合計で1.5%前後にとどまっている。

<ドイツ、日本、韓国メーカーのみがシェア拡大>
メーカー・ブランド別のシェアをみると、市場が大きく冷え込む中、過去2年間でシェアを拡大したのはフォルクスワーゲンやアウディなどのドイツ勢、トヨタや日産の日本勢、現代や起亜の韓国勢だ(表1参照)。トヨタ以外の全てに共通しているのは、小型・中型SUVが販売を牽引したという点だ。

表1主要乗用車メーカー・ブランド別販売台数・シェア(2012年)

特に日産は、2007年の発売以降ロングヒットとなっている小型クロスオーバーSUV「キャシュカイ(日本名「デュアリス」)が前年同様、人気車種上位4位(2万2,279台)に食い込んでいる。なお、2012年にはEV「リーフ」(154台)も本格投入された。

他方、トヨタはHVモデルも加わった小型車ライン、低排出セダン「アベンシス」の新モデル投入、そしてこの不況の中で前年並みを維持した「プリウス」〔EV・プラグインハイブリッド(PHV)、3,969台〕などのエコカーでシェアを守った。

なお、販売台数が前年を上回ったのは、近年急速にシェアを拡大する韓国の現代(4.6%増)と、超小型車人気を取り込んだフィアット(1.0%増)のみだった。

現代は2009年にスペインに販売子会社を設立、3年間で売上高が約70%増加した。販売拡大の背景には積極的なマーケティング展開もあるとされる。2012年の欧州サッカー連盟(UEFA)選手権大会(「ユーロ2012」)の関連では、イベント(パブリックビューイング開催)のスポンサーとなり、テレビやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて、多大な宣伝効果がもたらされたという。

<新型車受注相次ぎ2013年は生産回復の見込み>
生産台数は、欧州債務危機が直撃した国内および欧州向けの低調で前年を大きく割り込んだ。ANFACの1月29日の発表によると、2012年の自動車生産台数は197万9,103台と前年から16.6%減となった(表2参照)。

表2車種別自動車生産・輸出台数(2012年)

スペインは世界9位、欧州ではドイツに次ぐ自動車生産国だ。産業用車両だけでみれば、欧州1位の生産国で、小型車、四輪駆動車、産業用車両の生産が主力となっている。生産車の9割近くが、EUを中心に世界約130ヵ国・地域に輸出されている。2012年の輸出台数は172万9,172台(18.5%減)。金額ベースでは、上位5位までを占める対EU域内国向けが欧州債務危機でドイツ以外大幅に冷え込んだほか、6位のトルコ向けも乗用車への特別消費税引き上げ(自動車税制の変更)が響き急減した。その一方で、アルジェリア(2.5倍増)とオーストラリア(73.7%増)がそれぞれ7位、8位に上昇している。

2013年の生産台数は、欧州景気の緩やかな回復、また新型モデルの生産開始により、前年から1割ほど回復し、220万台程度になると見込まれる。

なお、スペインの各メーカー製造拠点は、リーマン・ショック以降の労使関係の柔軟化、また労働市場の改革が追い風となり、賃金抑制や労働条件の弾力化が進み、コスト競争力を増しているといわれる。2012年中には20億ユーロ近くの新型モデルの生産受注や投資計画を獲得した(添付資料参照)。

(注1)付加価値税(VAT)および車両登録税抜き。
(注2)2008年1月から、新車購入時に課税される自動車登録税が従来の排気量に応じた税率(7%または12%)から、走行距離1キロ当たりのCO2排出量に応じた税率(0〜14.75%)に変更された。税率は4つに分類(0%、4.75%、9.75%、14.75%)され、排出量120グラム未満の自動車は免税となる。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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