欧州理事会、成長と雇用のための貿易の重要性を確認−日米とのFTA交渉の推進にも言及−

(EU)

ブリュッセル事務所

2013年02月13日

2月7〜8日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)では、徹夜作業となった次期中期予算枠組みの交渉以外に、「雇用・成長協定」パッケージの1つに組み込まれている「貿易の潜在力の活用」と対外関係についても協議した。欧州委員会のバローゾ委員長は特に、「日米との自由貿易協定(FTA)交渉が欧州経済のみならず、国際経済を転換するものになるだろう」と会議後の記者会見で説明した。

<貿易活用の中期的効果を2%の成長押し上げ、200万人の雇用創出と試算>
2月7〜8日の欧州理事会では、次期中期予算枠組み以外に、貿易と対外関係に関する協議がなされた。持続可能な成長と雇用がEUの主要な優先課題となっており、この点で、財とサービスの貿易や投資が大いに貢献するとしている。野心的な貿易課題への取り組みは中期的にEUの成長を2%押し上げ、200万人の雇用を創出すると試算している。EUは貿易を最大限活用するために、競争力やサービス貿易を促進し、欧州の産業基盤とグローバルなバリューチェーンにおける欧州の地域を強化する正しい国内政策の枠組みを発展させなければならないと指摘する。

成長と雇用創出のエンジンとして、貿易をより良く活用するために、欧州理事会は相互主義と相互利益の精神の下で、自らの利益を主張しながら、自由で公平かつオープンな貿易を促進するEUの決意を確認した。また、EUの貿易課題にはEUの基準や国際規制の収れんを促進することも含まれる。EUはルールに基づく強い多角的貿易体制に引き続き取り組む。非関税障壁を含む保護主義に対抗し、より良い市場アクセスを保証し、適切な投資環境を促し、知的財産権を強化・促進し、公共調達市場を開放することが特に重要だとしている。

<バローゾ委員長が日米とのFTA推進に言及>
総括では、あらゆる努力を主要パートナーとの協定の追求に捧げ、成長と雇用という点で最も利益をもたらす交渉を優先すべきだとしている。その上で欧州理事会は、特に日米とのFTA締結に向けた作業を進めていくことに言及している。日米とのFTAは「貿易の潜在力の活用」として、「成長・雇用協定」のパッケージの1つに既に盛り込まれている(2012年10月23日記事参照)。欧州委が欧州理事会に先駆け準備した報告書(PDF)でも、米国、日本など最も利益をもたらす交渉を優先することの重要性を指摘していた。

米国については、雇用と成長に関するEU・米国高級作業部会の報告書とその勧告に期待を示すとともに、欧州理事会は欧州委員会に対して、アイルランドのEU議長国中にこれらの勧告を遅滞なくフォローするよう要請した。協定の内容については、EU・米国間の大幅な規制の収れんをもたらす方法に特に注意を払った包括的な協定への支持を確認した。

日本については、来るべき日本との定期首脳会議でのFTA交渉の立ち上げに期待感を示した。日本とのFTA交渉については、2012年11月に交渉権限を欧州委に付与することを既に決定している(2012年11月30日記事参照)

バローゾ委員長は欧州理事会終了後の記者会見で、「EU・米国高級作業部会が(EU米間の)自由貿易協定に関する交渉開始の勧告を間もなく行うことを望んでいる」と述べるとともに、「日本とも間もなく交渉を開始する。これら2ヵ国のパートナーとの貿易課題の広がりは、欧州経済のみならず、国際経済を転換するものになるだろう」と強調した。これらの貿易協定は市場を統合し、障壁を取り除くことで、関税を超えた広範な影響を及ぼす協定になるとしている。

欧州理事会の議長総括(PDF)ではそのほか、カナダとの交渉が間もなく合意することを期待するとしたほか、中国との広範で野心的な課題に留意するとともに、投資協定交渉の早期開始を約束していることを確認した。また、インドとのFTA交渉には一層の努力が必要なことや、シンガポールとのFTA交渉妥結に続いて、他のASEAN諸国との貿易関係を強化すること、遅くとも2013年第4四半期までの市場アクセスオファーの交換に向けた作業についてのEUと南米南部共同市場(メルコスール)の約束を歓迎した。

<南地中海の民主化移行国への支援を、FTAを含めた関係強化とともに確認>
欧州理事会はまた、リトアニアのビリニュスで予定されている2013年11月の東方パートナーシップ首脳会議までに、モルドバとグルジア、アルメニアとの包括的なFTAを含む連合協定の交渉終了の見通しを示すことを要請した。ウクライナについては、2012年12月の理事会決議を完全に満たした上で、協定に署名することを確認した。さらに、モロッコとの包括的なFTA交渉の開始と、チュニジア、エジプト、ヨルダンとの交渉開始に向けた迅速な進展を要請した。アフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国に対しては、経済連携協定(EPA)の合意を通じた新たな関係の構築を要請した。

また、対外関係については、「アラブの春」以降の南地中海諸国との包括的なFTAを含めた関係の一層の強化と、特に民主化移行国への協力支援を確認した。欧州理事会はEU閣僚理事会に対し、当該地域の政治的・経済的移行を支援するEUの政策と措置の効果を評価・分析し、2013年6月までに報告書を提出するよう求めた。

なお、バローゾ委員長は日米とのFTA以外に、南地中海諸国へのコミットメントの強化を今回最優先課題に挙げており、当該地域の民主化への移行を継続的に支援していくことについて、会議後の記者会見で言及した。

さらに、欧州理事会はシリアの状況について遺憾の意を表明するとともに、マリについて、領土の保全とマリ政府当局を回復させるための、特にフランスの支援を受けたマリ軍による断固とした行動を歓迎した。欧州理事会はまた、EUがアフリカ主導のマリ国際支援ミッションを速やかに展開させるための財政およびロジスティクス上の支援を行う約束を確認した。

(田中晋)

(EU)

ビジネス短信 5119f2aecf850