安全管理体制を見直すも平常どおり活動する英企業−アルジェリア人質事件後の企業動向−

(英国、アルジェリア)

ロンドン事務所

2013年02月13日

キャメロン首相は1月31日、アルジェリアを訪問し、テロ対策をはじめとする今後の両国関係強化について、ブーテフリカ大統領、セラル首相らと会談した。アルジェリアには襲撃・人質事件の舞台となった石油大手BPのほか、エネルギー大手ブリティッシュガス、製薬大手グラクソ・スミスクライン、英蘭系日用品大手ユニリーバなどが進出している。事件後の英国企業の動向について2月4日、在アルジェリア英国大使館グラゼット貿易投資部長と、民間コンサルタントのアルジェリア・ブリティッシュ・ビジネス・カウンシル(ABBC)のオリガ・メイトランド会長に聞いた。

<首相イニシアチブにより2国間関係強化へ>
英国の現職首相によるアルジェリア訪問は、1962年に同国がフランスから独立して以来初めてで、サヘル地方でのイスラム武装勢力の脅威に対し国際的な取り組みを主導することを狙ったもの。キャメロン首相はダボス会議における演説(1月24日)で、英国が2013年6月に主催するG8でテロ対策を主要議題に取り上げると表明していた。両国首脳会談では、このほか貿易、教育、保健、文化、エネルギーなど多方面での関係強化について話し合いが行われた。

在アルジェリア英国大使館によると、2013年1月16日に発生したイスラム過激派武装グループによる襲撃・人質事件の舞台となったイナメナス・ガス処理プラントを共同開発するBPは、英国からアルジェリアへの最大の投資家で、イナメナス、インサラーの2ヵ所で大規模なガス採掘を行うなど、過去12年で50億ドルを投じている。さらに、大規模油田開発を行うブリティッシュガスのほか、グラクソ・スミスクラインがブドゥオウで抗生物質の生産拠点を操業し、ユニリーバがオランでホームケア製品を生産している。

なお、キャメロン首相の訪問には、アルジェリアとのビジネス拡大に期待する多数の企業幹部が同行しており、保健や産業、エネルギー、教育などの省庁関係者と面談した。

<事件は局所的、警備体制も通常に>
事件後の英国企業の動向について、在アルジェリア英国大使館グラゼット貿易投資部長と、民間コンサルタントABBCのオリガ・メイトランド会長に聞いた。

問:事件後の治安情勢は。

グラゼット貿易投資部長:イナメナスでの事件は局所的なもので、事件の影響がアルジェリア全土に拡大し、情勢が悪化する事態にはならないとみている。当然ながら、英国企業は安全管理体制の見直しを行うことになるが、日常ビジネスに大きな影響はないだろう。在アルジェ英国大使館でも、事件直後は警備を強化したが、局所的な事件との見方が広がる中で、早々に通常の警備体制に戻した。外務省による渡航情報では、アルジェリアは一般的に安全となっている。この情報は私が着任した2年前から大きく変わっていない。

問:事件発生後の英国企業の動向は。

グラゼット貿易投資部長:今回の事件が発生したような資源開発が行われる遠隔地と、一般的な事業活動が行われる地域とで情勢を分けて考える必要がある。リビア北部なども同様だが、資源開発現場では安全管理体制の再検討が行われている。しかし、同様のリスクが首都アルジェやアルジェリア北部、周辺国に及ぶとは考えにくい。全体像をつかむ感覚が大切で、事件が発生したイナメナスとアルジェは、例えればイナメナスとロンドンの距離ほど遠い感覚がある。テロは突如として発生するので、完全に防ぐことは困難だが、例えばアルジェのHSBC銀行は平時と変わらず営業している。

<初の大規模テロ事件、ビジネスチャンス見極めを>
問:事件後の治安情勢は。

メイトランド会長:今回の事件は一時的なものと考えるが、他方で、あまり楽観視し過ぎるのも問題だろう。アルジェリアは比較的安定しているが、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織が勢力を保っていることも事実。情勢を冷静に見極める必要がある。事件はアルジェリアで初めての大規模なテロ攻撃だった。今後、懸念されるのはイスラム武装勢力が事件に対する関心の高さに味をしめ、テロを繰り返すこと。イナメナス襲撃のような大規模なテロに対しては軍も監視を強化しており、次に何か起きた場合には早い段階で対処できるだろう。

問:事件発生後の英国企業の動向は。

メイトランド会長:事件が予期せぬものだっただけにショックは隠せないが、企業活動は平時と変わらない。ただし、石油やガス開発などのエネルギー企業はアルジェリア治安当局と協力して、安全管理体制のあり方を検討している。当のアルジェリア軍も監視体制の見直しを行っている。BPと合弁事業を運営する国営企業のソナトラックが引き続き安全管理を担い、事件を受けて新たな監視体制を整備する可能性もある。

アルジェリア政府も治安維持に協力はするが、安全保障は基本的に企業に任されており、政府の補助金などは期待できない。アルジェリアでは、スターリング・グループのような民間警備企業も存在する。彼らはドアからドアまで完全警護を行うが、アルジェリア国内では武器の携行が認められていないため、遠隔地では軍が同行している。他国よりも治安は良い方だが、事件直後のリスク懸念から外国労働者の報酬が上昇する恐れがある。ただし、今後の数週間で国外に脱出した外国労働者は戻ってくるだろう。

矛盾しているようだが、事件を受けてアルジェリアへの企業の関心が高まった可能性もある。北アフリカ諸国の中で政情は安定しており、政府は大規模なインフラ投資を行っている。対アルジェリア投資にポジティブな影響があることを期待したい。私自身、幾度となくアルジェリアを訪問しているが、身の危険を感じたことはない。空港へ運転手が迎えに来るが、警護が付いたことはない。国内を長距離移動する際には、在アルジェリア英国大使館が手配する警護と、時には現地の治安当局関係者が同行するが、必要と感じたことはない。

(村上久、ピーター・カワルチク)

(英国・アルジェリア)

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