通商閣僚対話でFTA交渉開始に言及せず

(米国、EU)

ニューヨーク事務所

2013年02月12日

EUとの自由貿易協定(FTA)交渉は以前より現実味を増しているようだ。一方、FTA交渉の開始に関する発言の可能性から注目を集めた、2月6日のカーク米国通商代表部(USTR)代表と欧州委員会のドゥ・グヒュト委員(通商担当)との会談では、特に言及されなかったようだ。実際には衛生検疫規制の緩和要求に対してEUが対応に苦慮していることに加え、米国側も国内財政問題への対処に追われるといったハードルが残る。まずは2月12日の一般教書演説でのオバマ大統領のFTAに関するコメントが今後の方向性を示しそうだ。

<無関心な議会に変化の兆し>
米国とEUの間のFTA交渉のキックオフが以前より現実味を増しているようだ。これまで米国・EU間の「雇用と成長に関する高級作業部会(High−level Official Working Group on Jobs and Growth:HLWG)」による、FTA交渉の勧告を含めた報告書の作成を目指すなど、事務レベルではEUとの経済関係強化を模索してきたオバマ政権だが、閣僚レベルではFTA推進に関する言及はほとんどなかった。しかし、2月1〜5日の日程でドイツ、フランス、英国を訪問したバイデン副大統領は、米国とEUが通商政策や各種規制への考え方の相違を「克服し、(FTA交渉を)開始することは可能と信じる。(そうなれば)成功報酬は限りなく大きいからだ」とFTA交渉開始への関心をドイツでの会談で示した。2012年11月29日のクリントン前国務長官による、「環大西洋両国・地域間の貿易を増加させ、成長を促進する包括的な協定のための交渉の議論をしている」とのブルッキングス研究所での発言に続くものだ。

EUとのFTAには伝統的に無関心な議会にも変化がみられる(注1)。デビン・ヌネス下院議員(共和党)が2012年9月に経済自由同盟法案(Economic Freedom Alliance Act of 2012:H.R.6538)を提案したが、それにはオバマ政権へのEUとの通商交渉開始のための権限付与を含めた(注2)。ヌネス議員は2013年1月15日に下院貿易小委員長に就任しており、本会期にあらためて同じ内容の法案を推進していく可能性がある。上院では、2013年1月に入りチャック・グラスリー議員、マイケル・エンジ議員、パット・ロバーツ議員、ジョン・スーン議員の共和党議員4人が、通商法案のカギを握るマックス・ボーカス財政委員長(民主党)宛てにEUとのFTAに関する公聴会を開くべきとの内容のレターを送った。

深刻な経済不況が続くEU各国の首脳や欧州委は米国とのFTAの締結に積極的であり、米国から要求されている牛肉輸入規制の一部是正に取り組むといった姿勢をみせている(2013年2月6日記事参照)。世界の成長センターのアジア太平洋諸国との経済関係強化を最優先する米国政府だが、こうしたEU、そして米国産業界からの「ラブコール」を受けて、少しずつだが前向きの姿勢を見せ始めたようだ。

<貿易相レベルでの対話では決着つかず>
こうした中、2月6日のカークUSTR代表と欧州委のドゥ・グヒュト委員のワシントンでの会談に注目が集まった。EUや米国産業界の間では、会談に向けて両国・地域がHLWG報告書を完成させ、その推奨に基づき両閣僚がFTA交渉開始の可能性に言及するとの憶測が広がったからだ。しかし、結局、会談後にUSTRや欧州委がウェブサイトなどでFTAに関する言及の有無を明らかにせず、通商専門誌「インサイドUSトレード」(2月10日)は、HLWG報告書を「完成することができなかった」と報じている。

FTA交渉の開始になかなかこぎ着けることができない背景には、EUによる農産品輸入の各種規制に対する米国側の懐疑的な見方がある。USTRのシディキ農業担当主席交渉官が「農業とEUの非関税障壁が議論の最重要事項だ」(2月4日)と指摘するとおり、米国の農業や食品メーカー関係者はEUの遺伝子組み換え作物(GMO)やホルモン剤使用牛肉に対する厳しい衛生検疫規制を問題視している。この問題は2国間・地域間協議のみならず、WTO紛争解決機関でもたびたび争ってきた歴史があり、そのたびに農業関係者のEUへの懐疑的見方を熟成してきた。2月4日にEUは牛肉および米国産の生きた豚の輸入規制を一部緩和する旨発表したが、他方で米国の農業団体が懸念する、獣脂を使用したバイオ燃料の輸入許可に関するEUの新提案については手付かずのままであり、HLWG報告書を完成させるには材料が不十分だったようだ。

<一般教書演説でのFTA言及に注目>
今後の動向について、「2013年後半までの交渉開始は可能」(ワシントンの通商専門家)との声が聞かれる。しかし多くのハードルが残ることも確かだ。農業では上記のGMOやホルモンに関する規制問題、バイオ燃料に関する規制導入への懸念のほか、EU側に求められているワインやチーズなどの「地理的表示(Geographic Indications:GI)」を交渉に含めることへの米国農業団体の反対が強い。農業以外でも知的財産権制度の考え方などで米国とEUには多くの相違がみられる。

オバマ政権や議会は債務上限や歳出予算法の議論といった国内問題への対処に忙殺されており、さらには多くの新閣僚や次席ポストの任命を残している中、通商政策に関して議会との間で協議を詰めていく推進力に欠ける点も高いハードルといえる。USTRの場合でいえば、カーク代表は2月末頃までの引退を表明しており、次のUSTR代表の指名までには数週間あるいは数ヵ月間かかるともいわれる。

上述の通商専門家が議会調査サービス(CRS)の担当スタッフにEUとのFTAについて聴取したところ、どの程度EUが米国側の要求に応えていくかについて「まだ不明確」とする見方がオバマ政権に根強いとのことだ。CRSスタッフは、2月12日の一般教書演説の中でオバマ大統領自身が今後の方向性を示すかもしれない、と語っている。

(注1)例えば2005年4月にドライアー下院議員(共和党)がEUとのFTAに関する決議案(H.Con.Res.131)を提出したが、1人しか支持を得られなかった。同年7月にはサウダー下院議員(共和党)が英国とのFTAを求める決議案(H.Con.Res.217)を提出したが、支持者は3人にとどまった。
(注2)H.R.6538はEUとのFTAのほか、ブラジルとの間で貿易障壁の除去を目的とした合同商業貿易委員会(The United States-Brazil Joint Commission on Commerce and Trade)の創設を含む。

(水野亮、イアン・ワット)

(米国・EU)

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