現地フランス企業の対アフリカ戦略には変化なし−アルジェリア人質事件後の企業動向−

(フランス、アルジェリア)

パリ事務所

2013年02月12日

アルジェリア・イナメナスで起こったイスラム過激派グループによる襲撃・人質事件で、フランスは1人の被害者を出した。アルジェリアには約500社のフランス企業が進出している。同事件後のフランス企業の対応および企業のアフリカ戦略への影響に関して、アフリカ投資企業フランス協議会(CIAN)の代表は、警備態勢など安全対策強化の重要性を強調したが、企業戦略への影響はないとみる。

<警備態勢の強化で対応>
アルジェリアのイナメナスで1月16日に人質事件が発生した後、フランスの企業の動向に関して最初にメディアで発言したのは、フランス企業運動(MEDEF:日本の経団連に相当)のロランス・パリゾ代表だった。事件発生から3日目の1月18日、フランス国営テレビ「フランス2」のインタビューに答え、「アルジェリアには500社以上のフランス企業が進出しており、その多くがエネルギー・鉱山関連で、24時間前から従業員およびプラントの警備態勢を最高レベルに高めた。しかし、それらの企業はアルジェリアから撤退することは考えていない」と述べた。

また、1月25日には、アルジェリアで石油・ガス開発を行っているエネルギー大手トタルのクリストフ・ド・マルジェリ代表取締役が、ダボス世界経済フォーラムの会場でフランス国際テレビ局「フランス24」のインタビューに答え、「イナメナスでの人質事件とフランス軍のマリ介入を受けて、アルジェリアやマリへの軍事介入を支持しているナイジェリアおよびセネガルでの安全対策の強化を行った」と発表。また、「アルジェリアでは、砂漠地域に勤務する社員の首都アルジェへの一時的な退避や、一部社員の本国への帰国を行った。しかし、これらの措置はトタルグループ全体の石油生産に影響を与えるものではない。アルジェリアでの事件とマリの情勢が、直接石油価格に影響を与えることはない」と述べた。

トタルは、今回事件が起きたイナメナスから西に260キロ離れたティンフイェ・タバンコールにあるガス・石油コンビナートの所有権を、35.0%保有している。このほか、同地からさらに1,300キロ西方にあって現在開発中のティミムーン(2016年に生産開始予定)およびアハネット(開発計画の許可申請中)のガス開発プロジェクトでは、前者で37.75%、後者では47.0%の所有権を保有している。2011年のトタルのアルジェリアにおけるガス・石油生産量は、日産3万3,000石油換算バレルとなっている。サハラ地域の治安悪化で、アルジェリアでの2つの開発プロジェクトに今後どのような影響があるかが注目されるが、特に関連する発言はなかった。

<中小企業含め安全対策の徹底が課題>
アフリカ諸国に投資するフランス企業の企業連合である「アフリカ投資企業フランス協議会(CIAN)」(注1)のアントニー・ブトリエ代表取締役副会長とステファン・ドゥカン事務総長に対して、1月30日にインタビューを行ったところ、アルジェリア人質事件後のフランス企業の対応・戦略への影響に関し、次のように述べた。

アルジェリアは国土の広い国で(アフリカ最大、世界で10番目の面積)、一口にアルジェリアといってもアルジェやオランなど大都市のある北部と、南部の砂漠地域は何千キロも離れている。アルジェリア全体で500社以上のフランス企業が進出しているが、その大半が北部に集中している。南部は石油・ガス開発会社とそれに伴うエンジニアリング企業が進出しているが、資源開発に携わるそれらの企業が今回の事件を機に撤退することは考えられない。また、南部の砂漠地域で起こった今回の事件が、北部の海岸沿いに集中するフランス企業に直接影響することは考えられない。ちなみに、アルジェリアは治安の面では近年、改善がみられていた。

フランス企業は歴史的、文化的背景から、長年イスラム過激派の標的となってきた。アルジェリア問題はマリの情勢と切り離しては語れない。最近のマリの情勢や、現在もイスラム過激派によるフランス人の人質が8人いるといった状況から、「いつかは事件が起こる」という危機感は常に持っている。そのため、今回のテロ事件に驚きを覚えた企業は少ない。われわれのようなアフリカに投資する企業に対して、安全対策の専門家は既に1年半前から、特にマリとは限らず、サハラ地域内でテロ行為の準備が行われている、と警告していた。

マリでの情勢不安とリスクに関して、企業は既に投資を控える傾向を示していた。同会が毎年行っている企業アンケート(注2)によると、2011年にマリで投資を増加するとした企業が76%だった。しかし、2012年および2013年についてはそれぞれ28%、24%と急激に減少しており、2013年については62%が投資を中断すると答えている。この結果からも、企業は不安定な状態を予想していたことが分かる。一方、アルジェリアに関しては逆の傾向がみられており、投資を増加すると答えた企業が2011年には33%だったが、2013年は78%と著しく増えている。この傾向への事件の影響の有無を語るには時期尚早だが、事件後のメンバー企業の反応をみても影響は少ないと思われる。

実質GDP成長率が年間平均5%以上を記録するアフリカへの積極的な投資は今後も進めるべきで、アフリカ戦略を変える必要はない。フランス企業はアフリカ全体で45ヵ国に進出している。アルジェリアのみが危険なわけではなく、成長の著しい他の国々でも治安問題は存在する。リスクを恐れていては、ビジネスは成り立たない。一方、安全に関する対策は徹底する必要がある。特にフランスは大企業だから狙われるわけではなく、フランス企業だから狙われる。ニジェールで2011年9月に誘拐された4人はアレバ(原子力発電)の従業員で、2012年末にナイジェリア北部で人質に取られたフランス人は中小企業のベルニエ(環境関連)の従業員だ。アフリカに投資する中小企業への安全対策と教育の徹底を促すことが重要だ。

(注1)アフリカ投資家フランス協議会(Conseil francais des investisseurs en Afrique:CIAN)は130企業・団体メンバーが所属し、メンバー企業のアフリカでの売上高合計はアフリカ進出フランス企業の売り上げ全体の75%に当たる年間400億ユーロとなっている。
(注2)CIANは毎年、アフリカ諸国に進出するフランス企業に対して売り上げ状況、投資動向などに関するアンケートを実施。年次報告書の中でその結果を国別にまとめている。本文にあるアンケート結果は、2013年版の年次報告書に掲載されている。

(渡辺智子)

(フランス・アルジェリア)

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