きめ細かく手厚いカンボジアの投資優遇策−ホーチミンとカンボジアのビジネス環境(3)−
ホーチミン事務所
2013年02月19日
カンボジアでは法人税の免税条件がそろえば、最大で9年間(軽工業は8年間)の優遇を受けられる。また、輸出加工企業の場合は原材料、建設資材、生産設備の輸入関税が免税。経済特区(SEZ)の入居企業は輸入時に付加価値税(10%)が免税となる。一方、ベトナムでは、2012年2月に輸出加工区進出企業などへの優遇措置はなくなっており、カンボジアのような輸入関税の免税措置は、輸出加工区・輸出加工企業の原材料を除いてはない。
<カンボジア:法人税の20%免税を最大9年間>
カンボジアの最も重要な投資優遇制度は、適格投資案件(QIP:Qualified Investment Project)の制度だ。対象は表1のとおりで投資額などの条件が定められている。条件がそろえば、法人税(20%)の免税を最大9年間(軽工業は8年)受けられる(中小企業の場合、大体6年)。対象から外れるのは、小売り、輸出入、卸、免税店、運輸、レストラン、観光、カジノ、金融、報道、不動産開発などだ。
また、輸出加工の場合には原材料、建設資材、生産設備の輸入関税が免税となる。さらに付加価値税(10%)については、SEZの入居企業は輸入時に免税される。SEZ外は輸出時に還付と税法上には規定されているが、実質的には難しい。労働集約型産業、輸出加工型産業、農業・農産物加工、鉱物資源エネルギー、人材育成は政府が奨励する案件とされている。
QIPの概要は以下のとおり。
[法人税(20%)の免税または特別償却]
○期間:始動期間+3年間+優先期間=最大9年間
・始動期間は、最終登録証明書発行日から最初に利益を計上するまでの期間、または最初に売り上げを計上してから3年間のどちらか短い期間。
・優先期間は、予算法規定の投資額と業種により最大3年間。軽工業2年間、重工業3年間まで。
[輸入関税(0%、7%、15%、35%)の免税]
○輸出加工QIP:原材料、建設資材、資産設備
○国内市場QIP:建設資材、生産設備
・ASEAN自由貿易協定(AFTA)などFTA・経済連携協定(EPA)による優遇税率も適用。
[付加価値税(10%)]
○SEZ外企業:輸入時に10%支払い、輸出時に還付
○SEZ内企業:輸入時に免税(QIP類型にもよる)
<ベトナム:輸入関税の免税は輸出加工区の原材料のみ>
一方、ベトナムでは表2のとおり、法人税の基本税率25%に対して段階的な優遇税制が適用される。WTO加盟から5年後(2012年2月)に輸出加工区進出企業などへの優遇措置はなくなっており、カンボジアのような輸入関税の免税措置は、輸出加工区進出企業や輸出加工企業が輸入する原材料のみだ。
結論として、税率、期間、対象分野のいずれも、カンボジアの優遇措置の方が手厚いのは間違いない。ベトナムが裾野産業育成に躍起になっているのに対して、カンボジアでは現地調達率が2.2%と低く、裾野産業以前の問題として、原材料、部品を現地調達できないという課題を補うべく、強力な投資優遇策が実施されているのは、政府の意図として当然ともいえる(表3参照)。いずれにせよ、進出する際には、強み、弱みを全て含めて総合的に判断することが必要だ。
<環境の整ったプノンペンSEZ>
なお、カンボジアでは、外資100%企業は土地保有が認められておらず、50年の使用権を買い取ることになる(2011年以前は99年)。ベトナムでも土地の保有は認められていない。また、50年後の手続きが手数料を払って更新となるのか、その時点の地価であらためて使用権を購入することになるかも、現時点では不明だ。
また、既に稼働している経済特区(SEZ)を比較すると、唯一問題が少ないプノンペンSEZ(PPSEZ)は事務局がしっかりしており、電力公社の最優先供給を確約している上に、SEZ内の全ての電力供給が可能なバックアップ電源の設置、水処理などインフラが整備されている。さらに人材確保のためのPPSEZで働く場合の人生設計を紹介するテレビCMや遠方の農村とのネットワークづくり、SEZ近隣の地主に働き掛けての寮建設促進など、きめ細かな対応をしている。こうした「価格は高いが安心感のあるサポート」は、ベトナムの質の高い工業団地並みだ。
しかし、ベトナム国境付近およびシアヌークビル付近は、人材確保の明確な戦略がないまま拡張路線を進めている。シアヌークビル付近は現在、電力供給に不安を抱えつつも石炭火力発電所、プノンペンとの間の鉄道敷設などインフラ面で改善の見通しがあり、日本企業の設計・施工で付加価値の高さを目指している。ただし、小規模なシアヌークビル港への近さ以外にPPSEZをしのぐ優位性は見いだしにくい。また、ベトナム国境付近は電力供給に改善の兆しが全くみえないままだ。
(安栖宏隆)
(ベトナム・カンボジア)
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