保険業の外資比率を50%に引き上げ−WTO加盟での約束を履行−

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2013年01月22日

2012年12月26日から保険業全体における資本金の外資比率制限が25%から50%に引き上げられた。本改正内容は、2012年8月のロシアのWTO加盟に際しての約束事項に盛り込まれていた。保険市場は拡大しているものの、業界特有の商慣行と経営方針が合わないことを理由に撤退する外国企業もある。業界関係者は、法改正が保険分野の外国投資に及ぼす影響は差し当たり小さいとみている。

<保険業界の外資規制を緩和>
ロシアの保険業法に当たる1992年11月27日付連邦法第4015−1号「ロシア連邦における保険事業者について」(以下、保険業法)が、2012年12月25日にプーチン大統領が署名して成立した連邦法第267−FZ号「ロシア連邦諸法令の修正およびロシア連邦諸法令の条項の失効について」によって改正され、26日に施行された。

今回の改正で、これまで25%だった保険業全体における外資比率規制が50%に引き上げられた。保険業法によると、この比率を超えた場合、保険業を監督する連邦金融市場局(注)が保険業免許の新規発行を止めることができる。同局が2012年3月に発表した保険業全体に占める外資比率は、2012年1月1日現在で18.1%だった。

<保険分野への投資は当面期待薄>
2012年上半期の保険市場規模(保険料収入ベース)は前年同期比23.7%増の4,124億2,300万ルーブル(1ルーブル=約3円)だった(図参照)。このうち損害保険が全体の94.7%を占める。生命保険・損害保険ともに近年拡大基調にあるものの、ロシアの保険市場の参入は困難を伴うという指摘がある。

保険市場規模の推移(保険料収入ベース)

欧州の金融大手INGグループは2007年12月に生命保険の販売を開始したが、2009年9月に販売を停止した。ロシアでは銀行、自動車販売業者、旅行代理店など第三者を通じた保険販売が主流だが、同社は自社販売網の構築を目指した。しかし同グループの生保子会社ロシア法人であるING生命保険のイェツェ・デ・ブリス社長(当時)は、「自前の保険アドバイザーのネットワークを含め、ゼロから保険会社を立ち上げるのは長期的に多額の投資を要する。自社の販売網を構築するのは想像以上に困難だった」と撤退時に明らかにした(「エクスペルト・ウラル」誌2009年10月5日)。

ベルギーの保険大手フォルティス(現アジアス)も、2007年1月に生命保険市場に参入したが、2009年10月に撤退を発表した。当時の世界的な金融危機の影響も踏まえた事業合理化の中で、ロシア事業が妥当な期間内に投資コストを上回る利益が見込めないことを撤退理由の1つに挙げた(同社記者発表2009年10月28日)。

今回の法改正の影響について、オーストリアの金融グループ傘下のライファイゼン年金基金の会長で、在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)保険・年金委員会の委員長も務めるアレクサンダー・ロレンツ氏は、「ロシアは2012年8月にWTOに正式加盟し、保険分野でも大きな法改正が行われるが、それが直ちに外国直接投資につながる余地は小さい」と分析している(「AEBビジネス・クオータリー」2012年冬季号)。

<支店開設は2021年に解禁見込み>
これ以外のWTO加盟に伴う保険業の規制緩和の主なものとして、加盟日から9年後に外国保険会社の支店を開設可能にすることが挙げられる。2012年8月22日に加盟したことから、2021年には支店を開設できる見込みだ。

WTO加盟議定書によると、支店を開設する条件として、当該外国保険会社が、a.同社の所在国で同様の保険事業、損保で5年超、生保で8年超の経験があること、b.海外市場で5年超の支店活動経験があること、c.支店開設申請の前の暦年末時点で50億ドル超の総資産を持っていること、d.同社の所在国で登記上の住所(legal address)および会社が実際に所在する住所(actual address)であること、などが設けられている。

(注)2011年3月の行政組織の再編により、それまで存在した連邦保険監督局が連邦金融市場局に統合され、同局が保険業の所管となった。

(浅元薫哉)

(ロシア)

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