財政緊縮と成長政策の難しいかじ取り−2013年の経済見通し−

(オランダ)

アムステルダム事務所

2013年01月09日

貿易立国オランダの経済は世界経済に左右される。経済政策分析局(CPB)は、2013年の実質GDP成長率は世界貿易の回復に伴いマイナスからプラスに転じるものの、0.8%にとどまると予測。また,ドイツなど近隣諸国と比べGDP成長率が鈍い点を指摘し、その原因として年金、財政改革、住宅価格の下落の3点を列挙。政府には財政再建と経済運営の難しいかじ取りが求められている。

<輸出が回復、プラス成長を見込む>
政府が毎年9月に発表する翌年度予算案に合わせ、経済政策分析局(CPB)は経済予測を発表する。CPBが2012年9月に発表した2013年経済予測の冒頭で、世界経済は欧州地域の輸入が大きく減少するため減速すると予測。新興国でも輸出の減少や国内消費の減速で景気は後退するとしている。ユーロ圏は南欧だけでなく経済の牽引役だったドイツなどでも景気が減速し、再びリセッション(景気後退)に入った。ユーロ圏の2012年の実質GDP成長率は、その影響でマイナス0.25%になると予測。2013年は世界貿易の回復に伴いプラスに転じるものの、0.5%にとどまると予測している。とはいえ、欧州債務危機に関しては、EUおよび加盟各国の政策当局関係者が積極的に対応しており、銀行同盟などこれまでにない構想が具体的に検討され始めている。こうしたことから、これ以上の悪化は生じないとの見方だ。

オランダ経済は輸出が主な牽引役だ。2012年の実質GDP成長率は世界貿易の低迷などで輸出が減速し、マイナス0.5%となる見込み。2013年には輸出が回復、GDP成長率は0.8%のプラスに転じるとしている。他方、個人消費や政府消費支出の寄与率は低い。個人消費は伸び率も低く、住宅価格の下落などの影響で財布のひもは固く、2013年の個人消費は0%と予測している。

2012年の経済が減速する影響で、2013年の失業者数は増加の見込み。雇用数は民間部門および公的部門の双方で減少が続いており、今後しばらく減少し続けるとみられる。景気の悪化で企業の倒産も増加し、その影響で失業者は増加する。2013年の失業率は5.8%と予測している。

財政赤字は、政府の赤字削減策の効果により改善が見込まれる。2012年9月に発表された予算案では、2013年の財政赤字はGDP比2.7%と、EU基準の3%以内に収まるとしている(2012年9月10日記事参照)。政府債務残高は、地方政府の財政改革やリーマン・ショックの際にING銀行に投じた公的資金の返済が見込めるにもかかわらず、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)や欧州安定メカニズム(ESM)への拠出のため、全体では増加する。具体的には、2011年のGDP比65.5%から2013年には71.8%に増加するとしている。

<消費の冷え込みに3つの要因>
2012年のCPBの経済予測では、オランダ経済はドイツなど近隣諸国と比べ成長の速度が鈍いと指摘。隣国ドイツと比較してオランダ経済が抱えている問題として、年金、政府による財政赤字の削減、住宅価格の下落の3つのポイントを挙げている。これら3つの複合要因によって、消費は2008年以降冷え込んでいると分析。年金は市場の冷え込みで運用が難しく、その影響で年金掛け率が上昇。それに加えて年金支給開始年齢が引き上げられるなどした結果、消費に回る資金が減少している。また、政府の財政赤字削減策は、政府財政の改善にわずかな貢献を果たすものの、一方でGDPの成長にブレーキをかけ失業者を生み出し、失業手当の支出増へとつながるなどマイナスの側面もあると指摘している。さらに失業者の増加は、住宅価格に悪影響を及ぼすという負のサイクルを描くとしている。

オランダ経済は貿易に依存していることから、世界経済の行方を慎重に見極める必要がある。また、国内経済は財政再建と景気のコントロールをいかにバランスさせるか、政府は難しいかじ取りを求められる。

主要経済指標

(川西智康)

(オランダ)

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