欧州債務危機の長期化で本格回復は2014年以降−2013年の経済見通し−
ロンドン事務所
2013年01月08日
2012年は欧州債務危機の長期化と世界経済の減速によって景気は弱含みで推移し、2013年下半期まで景気低迷は続きそうだ。政府は2012年12月の経済財政予測で、2013年の実質GDP成長率見通しを12年3月の2.0%から1.2%に下方修正した。新興国市場にも陰りがみえ始め、低成長を脱する抜本的な解決の糸口が見つからない中で、欧州債務危機解消に向けた英国のリーダーシップ発揮が期待される。
<民間部門が牽引し、緩やかに回復>
予算責任局(OBR)が2012年12月に発表した経済財政予測によると、消費者物価指数上昇(インフレ)率は2011年9月の5.2%をピークに2012年9月には2.2%まで低下したものの、2012年9月からの大学授業料上限の引き上げ(3,375ポンド→9,000ポンド、1ポンド=約135.2円)、2012年第4四半期のエネルギー料金値上げ、米国と東欧の干ばつによる穀物需給逼迫などの影響を受けて再び上昇し、2012年平均で2.8%になる見通し。これらの影響は2013年に入ってからも続き、13年のインフレ率は平均2.5%で、政府が目標とする2.0%への収束は2015年以降となりそうだ。
また、2013年の平均賃金上昇率はインフレ率を下回る2.2%で、このため13年の実質所得は前年比0.4%増にとどまる見通し。個人消費の回復の遅れから、GDPの約6割を占める個人消費の寄与度も13年は0.5%程度と、低調に推移することが予測される。
外需と内需双方の減速、欧州債務危機と信用収縮の長期化により、企業は投資を控えており、2013年の民間投資は前年比で4.9%の増加と見込まれる。OBRは、国民統計局(ONS)のデータより企業の内部留保は少ないとみており、危機前の水準に回復するのは2014年第4四半期にずれ込むとみている。なお、オズボーン財務相が2012年12月5日の秋の定例演説で景気対策として発表した、2014年4月からの法人税率引き下げ(22%→21%)により、2017年度末までに民間設備投資が0.4%増加すると予測される。
金融危機以降の住宅ローン貸し出し条件悪化の影響などにより、2012年の住居用不動産取引は危機前の2007年の半分以下、ローン貸し出し総額は3分の1の水準にある。政府は2012年7月、住宅ローン貸し出しを増やすためにイングランド銀行(中央銀行)とともに、民間金融機関による資金調達金利を優遇する「住宅ローン貸し出しスキーム(FLS)」を始めた。2013年下期まで市況が低調に推移すると予測されるため、2013年の民間住宅投資は前年比1.1%減の見通しだが、2014年以降は10%増前後で推移すると見込まれる。
オズボーン財務相は2012年12月5日、OBRによる経済財政予測を受け、経済財政運営の総括と次年度以降の予算方針に関する秋の定例演説を議会で行った。景気対策として、2014年4月からの法人税率21%への引き下げや、インフラおよびビジネス環境整備に対して55億ポンドの投資などを挙げた。しかし、経済戦略の基本方針として、財政赤字削減、安定回帰、経済均衡、国際競争力強化の4点を掲げるなど、緊縮財政を前面に打ち出しており、OBRは2013年の政府消費支出を前年比0.7%減と試算している。IMFは2012年5月の年次協議報告書で、厳しい緊縮予算により財政の健全化が進んでいるとしながらも、景気下振れリスクの恐れから成長促進策を強く求めていた。
在庫は、2011年の積み増しの反動から12年には減少し、13年は緩やかに回復しGDPへの寄与度0.2%となり、14年以降は通常の在庫状態となるためGDPには寄与しないと見込まれる。
<ユーロ圏を中心に外需も弱含み>
外需をみると、2012年第3四半期に続き第4四半期もマイナス成長が予測されるユーロ圏が、引き続き最大のリスク要因となっている。欧州債務危機は長期化が予想され、今後、数年にわたり英国経済を減速させる恐れがある。OBRは経済財政予測に際して、貿易取引が多いドイツ、フランスが低成長入りするシナリオを採用している。また中国をはじめとする新興国市場もわずかに減速傾向を示している。
欧州に次ぐ輸出市場である米国は、最近の労働市場などで改善がみられるものの、2013年の「財政の崖」問題がリスクと見込まれる。なお、IMFは「財政の崖」の最悪のシナリオとして、米国の実質GDP成長率がマイナス4%に陥った場合、13年の英国の実質GDP成長率は0.25〜1.2ポイント低下するとみている。
欧州債務危機とともにポンド高の影響が出始めている。輸出は、2012年上半期に大きく落ち込んだ。各国通貨に対し2011年末比で平均5%切り上がったポンド高が要因とみられる。わずかに輸出先市場が拡大しているにもかかわらず英国のシェアが落ちている。OBRによると、利益を削って量を確保する輸出企業もある。
<主要機関は成長率を0.9〜1.2%と予測>
主要機関による2013年の実質GDP成長率見通しは、IMFが1.1%、欧州委員会とOECDは共に0.9%としている。OBRはこれら主要機関の経済見通しの比較分析を試みている。
IMFは、2012年の実質GDP成長率をマイナス0.4%と最も厳しく見通しており、2013年もOBRより0.1ポイント下回っている。これは予測の発表が最も早い2012年10月で、1.0%と発表された12年第3四半期GDP成長率を入手する前だったためとみられる。
OECDは、2013年の実質GDP成長率のうち、個人消費の寄与度を高めに見積もる一方で、政府消費支出を低めに、純輸出をマイナスと予測した結果、0.9%と低めの見通しとなった。2014年は、純輸出が増加に転じるものの個人消費と投資が減少するため、主要機関中最低の1.6%と予測している。
欧州委も、IMFと同様に2012年10月に予測を行っており、12年第3四半期のGDP成長率が反映されていないため、12年と13年が低めに見積もられていると考えられる。14年の予測値は2.0%で同じだが、OBRは投資が、欧州委は純輸出が成長を牽引すると見通している。
<2013年度以降も財政健全化を最優先>
2012年12月の経済財政予測とオズボーン財務相による秋の定例演説で、引き続き財政再建に取り組む政府の方針が明らかとなった。2012年の政府債務残高が対GDP比で74.7%に達する見通しで、財政再建を最優先に掲げることにより市場の信認を得て、低利で資金を調達するというものだ。2012年3月に長期国債の格付け見通しをAAA安定的からAAAネガティブに引き下げたフィッチ・レーティングスは、13年3月に公表予定の13年度予算における財政健全化の必要性を強調し、格付けの再検討を示唆した。
2010年の政権交代時から一貫して緊縮財政に取り組んでいるキャメロン政権にとって、最大の輸出市場である欧州で債務危機が拡大、長期化する中で、新たな成長策が喫緊の課題となっている。IMFは2012年5月の年次協議報告書で、景気下振れリスクの恐れからキャメロン政権に新たな成長策を求めた。
政府は、2011年3月に策定した成長戦略で、G20で最も競争力のある税制構築、欧州最高水準のビジネス環境整備、経済安定のための貿易投資促進、欧州で最も柔軟で優秀な労働力の創出を掲げた。2011年第4四半期から3期連続でマイナス成長になるなど、成果はみえない。オズボーン財務相は2012年秋の定例演説で、緊縮財政路線の継続とともに、成長策として13年1月から14年12月までの間に投資控除枠を拡大し、14年4月から法人税率を21%に引き下げる方針を表明したが、発表後のFTSE100 やFTSE250(英国の代表的な株価指数)は微増にとどまり、市場の反応は鈍かった。
<欧州債務危機解消に役割発揮を>
欧州債務危機の長期化により、以前にも増して国内ではEU離脱論が台頭している。しかし、貿易・投資の半数以上を占める欧州経済からの自立は難しいとみられる。欧州の中でも関係が深いフランス、ドイツ経済の低成長を政府自ら予測する中で、成長の取り込みを期待した中国やインドなどの新興国市場にも陰りがみえ始め、低成長を脱する抜本的な解決の糸口が見つからない。
本格的な景気回復が2014年以降と予測される中、2013年は英国の欧州経済共同体(EEC)加盟から40年の節目の年を迎える。新たな未開拓市場の取り込みに加え、厳しい緊縮財政に対する国民の理解を得ながら、自らのためにも欧州債務危機解消に向けた英国の役割発揮が期待される。
(村上久、ピーター・カワルチク)
(英国)
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