2012年上半期の対内・対外投資、リーマン・ショック以来の冷え込み−主要企業の国外売上高比率は6割台に−

(スペイン)

マドリード事務所

2012年12月27日

経済・競争力省発表の外国直接投資統計によると、2012年上半期の対内直接投資は53億2,100万ユーロと前年同期比65.4%減、また対外直接投資は11億6,600万ユーロの引き揚げ超過と、いずれもリーマン・ショック直後の水準近くに落ち込んだ。欧州債務危機や内需低迷の影響でスペイン国債や国内市場がリスク視された一方、インフラ・再生可能エネルギー(RE)分野におけるスペイン企業の国際入札受注は好調で、マドリード証券取引所主要指標(IBEX35指数)の銘柄企業35社の国外売上高比率は6割を超えた。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<対内投資:約3分の1はファンドの不良債権バルク買い>
経済・競争力省の発表(2012年9月20日)によると、2012年上半期の対内直接投資(届け出ベース、ネット、フロー)は53億2,100万ユーロと前年同期比65.4%減となった(表1、2参照)。

大型案件が少なかったことに加え、欧州債務危機下でスペイン金融システムに対する不安が膨らみ、緊縮財政と高失業率の逆風で景気が二番底に陥る中、リーマン・ショック直後並みの低水準となった。

業種別では金融・銀行・保険が全体の3分の1近くを占め、最大となっている。これはサンタンデール銀行などの大手銀が住宅・消費者ローン関連の不良債権を、米国系を中心とする投資ファンドにバルク売りを行ったためだ。政府は2012年2月、5月の2度にわたり不良債権の引き当て強化を各行に義務付け、銀行はこれを回避すべく不良債権や資産売却を加速させている。

<低調ながら戦略的買収案件も>
その他で規模が比較的大きな対内投資案件としては、韓国GS建設による建設大手OHLの水・環境事業部門イニマの買収(2億3,100万ユーロ)がある。2011年11月に買収を発表していたが、2012年5月に買収が完了した。同買収には韓国年金基金も加わった(出資率20%)。韓国のゼネコンが独自技術を持つ欧州企業を買収するのは本件が初めて。イニマは水処理(海水淡水化)分野では世界第10位のシェアを占め、中南米や北米、北アフリカなどで広く受注実績がある。

再生可能エネルギー(RE)分野でも、2012年1月に新エネ大手アベンゴア傘下の集光太陽熱発電用反射鏡メーカーのリオグラスに、ドイツ系投資ファンドのフェンティツなどが出資を行った。国外での太陽熱発電プロジェクトの増加による部材需要拡大を見込む。

国内市場は低調だが、国外での収益力や国際入札における競争力・ノウハウを持つスペイン企業を対象とした買収は今後も続くだろう。

他方、今後拡大が見込まれる新ビジネスでの新規・再投資もみられた。電子商取引の分野では、アマゾンが2012年5月にスペインで初めての物流拠点を開設した。楽天は6月に動画配信サービス事業者ウアキ・ティーヴィーを買収・子会社化し、デジタルコンテンツ事業に参入、欧州またはその他地域をも視野に入れた国際展開の足掛かりとする(2012年6月29日記事参照)

省エネ分野では、日産自動車が2012年5月に100%電気商用車「e−NV200」をバルセロナ工場で生産すると発表したほか、オランダの電機・家電大手フィリップス・エレクトロニクスは6月、屋外用照明で欧州第4位、特にLED照明製造を専門とするインダルを買収した。

<対外投資:海外資産圧縮で引き揚げ超過>
2012年上半期の対外直接投資(届け出ベース、ネット、フロー)は、11億6,600万ユーロの引き揚げ超過となった(表1、2参照)。

これは2012年6月のサンタンデール銀行によるコロンビアの子会社、ブラジル子会社の株式一部売却、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)によるプエルトリコの子会社の売却、といった大手銀行による資本増強によるところが大きい。一方で、サンタンデール銀行は、2月にはベルギー金融大手KBCのポーランド事業部門の統合に合意し、完全子会社化を視野に入れるほか、6月には韓国の現代自動車の英国信販会社の50.1%買収を発表するなど、戦略的市場に重点を置いた事業選別を進めた。

また、2012年上半期には、通信や電力などでも資本増強のための資産売却が相次いだ。通信サービス最大手テレフォニカは、6月に提携先の中国聯通の持ち株の半分近くを売却することで合意したほか、10月に傘下の携帯通信サービス大手O2のドイツ子会社の上場を開始、その一方で3月に米モバイル決済サービス、ボク(Boku)への戦略的出資を行った。電力大手イベルドローラは10月、2012〜14年にドイツの陸上風力発電施設や国内ガス輸送網など20億ユーロ規模の資産を売却し、財務力を強化すると発表している。スペイン国債の利回り高騰を背景に、スペイン国外での債務圧縮・資金調達目的の資産売却や上場は年後半も加速する傾向にある。

新興市場での買収を通じた収益強化も依然活発だ。防犯・警備最大手プロセグールは2012年4月にブラジルでノルデステ・セグランサなど同業2社を買収し同国でのシェアを強化。ゼネコンのサシルは4月にチリの高速道路運営ラ・セレナ・バリェナル・ハイウエー・プロを買収。ビール製造大手マオウ・サンミゲルも4月、インド資本と現地でアーリアン・ブリュワリーを合弁で立ち上げ、初めての国外生産拠点とする。

他方、中国をはじめとする新興市場やネット販売の好調で、売上高が急速に伸びている衣料最大手インディテックスは(2012年9月27日記事参照)、欧州債務危機を逆手にとり、2012年1月にポルトガルとベルギーの店舗物件を、また6月には英国で商業不動産を買収するなど、地元欧州での不動産取得を加速させた。

表1業種別対内・対外直接投資(届け出ベース、ネット、フロー)
表2国・地域別対内・対外直接投資(届け出ベース、ネット、フロー)

<スペイン企業の国外売上高比率が61.4%に>
投資は低調とはいえ、国外売上高が全体の売上高を牽引する傾向は、2008年のバブル崩壊以降、顕著となっている。IBEX35のうち、スペインを拠点として国外に進出している32社の2012年上半期の総売上高(添付資料参照)をみると、国外売上高は合計1,356億ユーロと前年同期から2割増加した。また売上高全体に占める国外比率は前年同期比4.4ポイント増の61.4%とついに6割の大台に乗った。なお、2007年の同比率は48.1%だった。

また、国外売上高に占めるEU域外比率も、前年同期比2.7ポイント増の76.0%と増加傾向にある。過去1年間で特にEU域外比率を増やしたのは、ACS、FCC、サシルといったインフラ建設大手やガメサ、アクシオナといった新エネ企業だ(アクシオナはインフラ建設部門も含む)。欧州内での公共投資やREプロジェクトが勢いを失いつつある中、北米その他の域外国に活路を求めた結果だ。またテクニカス・レウニーダス(エンジニアリング)やインドラ(IT・システム)は中東、中南米、アジアなどで広く市場を拡大している。格安スーパーのディア(フランス系資本だがスペイン中心に展開)も国内消費の冷え込みに伴い、中国やトルコ進出を活発化させた。

2012年上半期のRE・インフラ受注も堅調だ。主な受注案件としては、アベンゴアが1月にトルコ東部自治体の上水道開発のほか、6月に米国カリフォルニア州で出力200メガワット(MW)の超大型太陽光発電プラントの建設を受注した。アクシオナは5月に南アフリカ共和国政府の独立系発電事業者(IPP)調達プログラムの第2回入札で、風力発電施設(135MW)と太陽光発電プラント(74MW)の2案件を現地パートナーと共同受注した。風力タービン製造大手ガメサは5月、ウルグアイで初めて風力タービン(合計50MW)を受注した。

また、イベルドローラのエンジニアリング部門は2月、ポーランド国営エネルギータウロンより複合サイクル発電設備を3億4,600万ユーロで受注した。

大手だけでなく、中堅企業の受注例もある。コムサ・エンテ(インフラ建設・新エネ)が2月にトルコでアンカラ地下鉄の拡張プロジェクトを、またアンペル(情報通信機器・システム)は6月、ベトナムの民営有料テレビ放送オーディオビジュアル・グループ(AVG)から家庭用マルチメディア通信機器を現地企業と共同受注した。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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