個人所得税と法人所得税の一律税率制度を廃止−2013年1月から法人税率は23%に引き上げ−

(スロバキア)

ウィーン事務所

2012年12月19日

議会は12月4日、個人所得税と法人所得税で実施してきた19%の一律税率(フラットタックス)制度を廃止する税制改正案を承認した。2013年1月1日から年収3万6,000ユーロ以上の所得に対する個人所得税率が25%に引き上げられる。また、法人所得税率は23%に引き上げられる。政府は、2013年に財政赤字をGDP比3%以内に抑える目標が歳出面の緊縮政策だけでは達成できないと判断し、増税の必要性を弁明している。

<財政再建には税収増が不可欠>
個人所得税率はこれまで所得にかかわらず19%だったが、改正によって2013年1月1日から、年収3万6,000ユーロ(月額3,311ユーロ)以上の所得に適用される個人所得税率が25%に引き上げられる。法人税率は現行の19%から23%に引き上げられる。

カシミール財務相は議会で、政府の最重要課題である財政赤字削減について、2013年にGDP比3%以内に抑えるためには、歳出削減による緊縮政策では不十分で、増税を余儀なくされた、と弁明している。

リーマン・ショック以降、景気対策による歳出増と経済低迷による歳入減で、政府財政赤字はGDP比で2008年の2.1%から、2009年は8%、2010年は7.8%、2011年は4.8%、2012年は5.0%(予測値)と、2009年以降はマーストリヒト条約に基づく3%の基準値を上回って推移している。同時に、政府債務残高も2008年のGDP比27.9%から2012年には51%(予測値)に急増している。これはマーストリヒト基準の60%を下回るが、ここ数年の債務拡大のスピードが速いため、政府は対策を急いでいる。

2012年4月の政権発足当初、ロベルト・フィツォ首相は財政再建を最大の課題と宣言した。個人所得税と法人所得税の税率引き上げのほかに、政府は銀行税の増税と保険、通信、エネルギーなど事業者に対する特別税(利益の約4.4%)を導入した。特別税は2013年末までの時限立法。増税により、税収は5億ユーロ増加し、財政赤字GDP比は2013年2.9%、2014年2.4%、2015年1.9%に下がる見込み。

<投資呼び込みに貢献したフラットタックス>
2004年にフラットタックス制度を導入した時点で与党だった「自由と連帯」(SaS、現在は野党)などは、今回の廃止を激しく非難している。導入当時に財務相顧問を務めたリハルト・シュリック氏(SaS党首、元議会議長)は「フラットタックス廃止により、これまで外国投資家を呼び込み、多くの雇用を創出した成功モデルが失われる。外国投資の流入に依存する国として、これは壊滅的なシグナルだ」と述べた。

2004年1月に、中道右派のズリンダ政権が19%のフラットタックス制度を導入したことは周辺の中・東欧諸国から注目された。政府によって「簡潔、公正、中立、効果的な税制」として宣伝された同制度は、スロバキアへ外国企業を呼び込むのに大きく貢献した。当時、19%の法人所得税率は欧州域内で最低の水準にあった。

<外国投資受け入れへの影響は不明>
法人所得税率が引き上げられることにより、外国企業の対スロバキア投資にどの程度影響が出るかは現在のところ不明だ。23%に増税されても、スロバキアの法人所得税率は西欧に比べて低いことや、法人所得税率が投資先決定の唯一の要素ではないためだ。また、大手会計事務所アーンスト・ヤングのギュンター・オズワルド氏は、オーストリア日刊紙「プレッセ」などの取材に対し、スロバキアの法人所得税制では、課税標準から控除できる減価償却の対象項目が限られるほか、連結納税制度もないため、法人所得税の実効税率は場合によってはオーストリアやドイツより高いこともある、と指摘している。そもそも外国企業にとってスロバキアの法人所得税率は、19%の数値で感じられるほどの投資誘致効果はなかったという見解だ。

スロバキアでは、2008年のリーマン・ショックを受けて2009年に外国投資の流入が激減した後、2010年に回復し始め、2011年、2012年にはそれぞれ約15億ユーロの対内直接投資額を計上した。2013年の新規投資案件は少ないが、スロバキア経済を支える大手自動車メーカー3社(フォルクスワーゲン、起亜自動車、PSAプジョー・シトロエン)はそれぞれ増産に向けて追加投資を行うことを発表した。

<2013年の成長率は2%に減速との予測も>
主要輸出相手国であるEU各国の景気低迷という厳しい状況の下でも、スロバキア経済はこれまで比較的順調に成長してきた。実質GDP成長率は2010年4.4%、2011年3.2%、2012年2.6%(予測)と、EU域内でも最も高い水準の成長率を維持している。しかし、欧州債務危機が今後も継続するとみられる中、ウィーン比較経済研究所(WIIW)やOECDは最近発表した経済見通しの中で、スロバキアの2013年の実質経済成長率は2.0%に減速すると予測している。

(エッカート・デアシュミット)

(スロバキア)

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