約500品目の一般関税率を変更−農産物や化学品を中心に段階的に関税削減−

(メキシコ)

中南米課

2012年12月06日

政府は11月23日、59品目の一般関税率を2017年初までに段階的に撤廃し、429品目については段階的に削減、4品目については現行0%の関税率を2015年に5%に引き上げる内容の政令を公布した。カルデロン前政権下で行われてきた一般関税率の大幅な引き下げの仕上げとして導入されたもので、削減対象は農産物、化学品、プラスチック製品、ゴム製品など。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<貿易手続き簡素化と企業の競争力強化が目的>
カルデロン大統領の任期満了間際の2012年11月下旬に公示された政令は前文で、一般関税率変更の主な目的として、a.企業・家庭の購買力の強化、b.他国に比べても極端に高い一部の関税率の調整、c.貿易手続きの簡素化、などを挙げている。

a.は、メキシコで生産されていない産品や、国内需要量を考えると国内生産量が不十分な品目の関税を引き下げ、商品輸入コストを下げることで、競争力のあるより良い価格を最終消費者に提供するのが狙いだ。政府は政令前文で、「より自由な貿易を政府が今一度約束することで、家庭の購買力と企業の競争力を強化する」としている。

b.は、一部の農産品の関税率が200%を超えており、これは国際的な平均関税率と比べても高くなっているとし、メキシコと同様の所得水準を持つ国の水準まで関税率を引き下げる。一般関税率の平均と偏差を低下させることで、国際市場におけるメキシコの競争力を高めるためとしている。

c.は、メキシコが多数の自由貿易協定(FTA)を締結した結果、同一品目でも原産国が異なるとさまざまな税率が存在し、貿易手続き・管理を複雑にしている。このことに鑑み、一般関税率を引き下げて通常輸入で事足りるようにして関税体系を簡素化し、貿易業者、特に中小企業に対する利便性を向上させるのが狙いだ。

カルデロン前政権は2008年12月24日にも合計8,722品目に及ぶ一般関税率を段階的に引き下げる政令を公布しており、同政令に基づき2011年までに5割以上の工業製品が無税となっている(2009年1月15日記事参照)。前回が工業製品を対象にしていたのに対し、今回の対象は農産品と化学品などで、前回の対象外のものも多い。今回の政令はカルデロン前政権の一般関税率引き下げの集大成ともいえる。

<センシティブ品目は4年超の移行期間を設定>
今回の一般関税率引き下げ措置(注)を税率変更適用開始時期で分類すると、政令発効時点(2012年11月24日)から関税削減が開始される品目、13年から開始される品目、14年から開始される品目、15年から開始される品目、の4つに分かれる(表1参照)。

表1 2012年11月23日付官報に基づく一般関税率変更

4つを合計すると、関税が最終的に撤廃される品目は59、撤廃はされないが引き下げられる品目が429、合計488になる(このほか、2015年に関税が引き上げられる品目、関税分類が細分化された品目、関税分類が削除された品目、関税割当関連品目が合計12ある)。

関税が即時撤廃された品目は15にすぎない(表2参照)。この15品目で日本からの輸入実績があるのはノリ、メタクリル酸エステル、かみそり、安全かみそりの刃だが、日本からの輸入額はわずかなため、大きな影響はなさそうだ。

表2 2012年11月23日付官報に基づき関税が即時撤廃された品目

即時撤廃以外の関税削減品目の中には、食肉や穀物などメキシコにとってセンシティブな農産品が含まれていることもあり、関税削減は段階的に行われ、最長で2017年1月1日までの4年超の移行期間を設定されたものがある。例えば、鶏肉は政令発効前234%だった関税率が17年1月1日には75%に引き下げられる(表3参照)。

表3代表的品目の一般関税率削減スケジュール(即時撤廃品目を除く)

<関税が引き上げられる4品目は日墨EPAの活用を>
今回の政令で関税が撤廃・削減される488品目を関税分類別(表4参照)にみると、最も対象品目数が多いのは魚介類で、マグロやカツオなど一部の品目を除けば、20%だった関税率が2017年までに15%に引き下げられる。そのほか、プラスチック・同製品、穀物関連、食肉、化学品などの対象品目が多くなっている。

表4関税分類別一般関税率引き下げ

今回の対象品目の中で日本からの輸入が多いのは、プラスチック、ゴム、化学品などで、特にHS3906項のアクリル重合体、HS3907.30号のエポキシ樹脂、HS4002項の合成ゴム(一次製品)などの輸入が多い。

なお、今回の政令の中には一般関税率が引き上げられる品目が4品目だけ含まれている。これら4品目はプラスチック樹脂で、現行で0%の一般関税率が2015年1月1日に5%に引き上げられる。ポリエチレン樹脂は日本からの輸入も多いが、一般関税率が引き上げられる15年以降は、日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)の協定税率(0%)を適用することで引き上げの影響を回避できる(表5参照)。

表5一般関税引き上げ品目と対日輸入

政令前文には関税引き上げの理由についての説明は一切ないが、引き上げ対象はポリエチレン樹脂なので、ブラジルのブラスケムとメキシコのIDESAグループが合弁でベラクルス州に建設中のポリエチレン工場(2012年7月20日記事参照)が2015年に稼動を開始することが関係していると推測される。

<カルデロン前政権下で平均関税率は大幅に低下>
カルデロン前政権(2006年12月〜2012年11月)は自由競争こそが国の競争力を高めるという新自由主義的思想の下、FTA締結国以外からの輸入に適用される一般関税率の大幅な引き下げを行ってきた。2006年当時10.2%だったタリフラインベースの単純平均関税率は、12年には5.9%に下がっている。

一方、FTA税率や産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)などの優遇税率の適用と各タリフラインにおける貿易額を考慮した加重平均関税率は、2006年時点でも0.5%にすぎず、12年時点では0.1%に下がっている。メキシコでは従来から多くの輸入がFTAなど優遇税率を活用しており、現在もその状況は変わらない。一般関税率の引き下げは、原産地証明など特別な手続きを行う能力が不足する中小企業を支援するため、通常の手続き以上の要件が求められない一般輸入に適用される関税率を引き下げるという目的もあった。

しかし、2国間、他国間などの国際的な枠組みで関税を引き下げるのではなく、メキシコ政府の一方的な方針で行われた一般関税率の引き下げは、時に国内産業界の合意を得ずに進められたこともあり、鉄鋼業界など特定産業の反発を生んでいる。2012年8月1日には、鉄鋼業界の反発により既に撤廃されていたHS72類の鋼材268品目の関税率が再び3%に引き上げられている(2012年8月10日記事参照)

今回の政令に基づく農産品の一般関税率引き下げについても、養鶏業界など一部の業界の不満を招いている。また、政府内でも必ずしも意見が一致していなかったようだ。フランシスコ・マジョルガ前農牧相は、一般関税率の管轄官庁である経済省から関税率引き下げの打診があったのは政令公布のためのデッドラインの数時間前であり、農牧省内で十分な分析ができなかったことを認めている(「レフォルマ」紙11月29日)。

(注)政令の対象品目(HSコード)と関税率の引き下げ・引き上げスケジュールについては、添付資料参照。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 50bff72529bf8