少ない労働力人口と若年・高齢者などの雇用改善が課題−欧州各国の雇用政策の最新動向(13)−

(ハンガリー)

ブダペスト事務所

2012年12月06日

2010年5月に発足したオルバーン政権は、「10年間に100万人分の雇用創出」をスローガンとし、2011年には40万人分の雇用創出シナリオを含むハンガリー雇用計画を発表した。社会保障制度改革、労働法改革、経済成長などによる雇用創出シナリオが発表されてから現在までに、雇用者数は約13万人増えている。

<他国と比べて少ない労働力人口>
2011年5月に政府が発表したハンガリー雇用計画では、失業者、働いていない年金などの社会保険の受給者、労働形態に柔軟性がないことで職を見つけられない労働者などの多さが構造的な問題として挙げられている。そして、それぞれの問題に対する対策が述べられている。

政府は国の労働力人口の割合が他国に比べ低いことを大きな問題と考えている(図参照)。2011年のハンガリーの労働力人口の全人口に占める割合は62.7%で、EU27ヵ国平均の71.2%に比べて低い。この比率を引き下げている大きな要因が障害者年金受給者の多さだ。中でも、法定退職年齢に達する以前に障害者年金を受け取っている人数が非常に多く、2011年1月時点で34万人と、ハンガリーの人口の約3%に相当する。ここには労働可能な障害でありながら障害者年金を受け取るなどの不正受給者が含まれている。2012年1月、政府はそういった人を労働市場に戻すために障害者年金を廃止し、新たに障害者給付を設け、その受給審査基準を厳格化した。この結果、障害者年金受給者だったが、受給資格を失い労働市場に戻ることになった人も多い。しかし現在のハンガリーの障害者雇用率はEU平均に比べ非常に低いため、障害者雇用にインセンティブを与えるため、「リハビリテーションカード」が支給されることになった。このカードの保有者を雇用した場合、その給与に対して雇用者が負担しなければならない社会貢献税上限が、最低賃金に対する社会貢献税額の2倍までで済む(2012年の最低賃金は9万3,000フォリント、1フォリント=約0.4円)。

2011年労働力人口の全人口に占める割合

<雇用率が低い層への税控除を実施>
ハンガリー雇用計画では、労働者をいくつかのグループに分け、それぞれの雇用率を分析している。それによると、若年労働者、高齢労働者、「高等教育を受けていない労働者」の雇用率がEU27ヵ国の平均に比べ非常に低い(表1参照)。女性労働者の雇用率は56.9%でEU平均の63.7%に近いが、「6歳以下の子どもがいる女性」の雇用率は34%と、EU平均の58.9%に比べ25ポイントも低い。また、1年以上職を探している人の割合もEU平均より5ポイント高い。政府はこれらのグループに属する人の雇用を促進するため、雇用保護行動計画を議会に提出、同計画は2012年10月1日に可決された。同計画では、社会保険税の雇用主負担分について、実質賃金額が月10万フォリントの場合の税額(2万8,500フォリント)を上限に、雇用期間に応じて税を控除する(表2参照)。

表1労働者の雇用率(2011年)
表2社会保険税の控除割合

<新労働法施行で労働力の流動化図る>
2012年7月に施行された新労働法では、昨今の労働市場の多様化に対応するためテレワークやワークシェアリングなど新しい雇用形態について明記されている。労働者の求めに応じて柔軟な労働環境を与えることが求められており、例えば3歳以下の子どもがいる女性が職場に戻ってきた場合、8時間のフルタイムで働くことが難しいときは、労働者の希望に応じて労働時間が短縮されたパートタイム労働への移行を検討する必要などがある。また、病欠をしている労働者の解雇に関する規制なども緩められ、労働力の流動化が図られている。妊娠や育児休暇中の労働者に対する保護は以前と変わらず固く守られている。

「社会保障ではなく労働での収入」で生活の自立を促している政府は、失業手当の受給期間の短縮や、警察官など一部の職業で認められていた早期退職制度の原則廃止を行った。その代わりに、2012年から公的機関で最低20万人の短期雇用が用意されるスタートワークプログラムを行っている。このプログラムでは経済回復による民間での雇用回復があるまで、公的機関で農業、公共事業分野で短期雇用を行う。この雇用で得られる賃金は失業手当よりも多いという利点はあるが、法定最低賃金よりは額が少ない。現在までに実現した13万人の雇用のほとんどはこのプログラムでの雇用だ。

2011年に発表された40万人の雇用創出計画は、年率7%台の経済成長を前提としたもので、2015年まで経済成長が3%台だった場合でも29万人の雇用が創出されるという予定だった。しかし、2012年の実質経済成長率はマイナス1.2%で、13年、14年の予測値もそれぞれ0.9%、2.0%と3%に遠く及ばない。このため、目標値は達成困難なものとなっている。

(バラジ・ラウラ、三代憲)

(ハンガリー)

ビジネス短信 50ac9dfd83d60