移転価格の下方修正により、関税の還付も−「移転価格税制と関税」セミナー−

(米国)

ロサンゼルス事務所

2012年12月03日

ジェトロは10月30日、プライスウォーターハウスクーパースの竹内千尋マネジャーを講師に、「移転価格税制と関税」をテーマとしたセミナーをロサンゼルスで開催した。移転価格税制と関税の考え方の違いや米国移転価格税制の最新動向についての竹内氏の講演内容を紹介する。5月末に税関当局が出した通知により、移転価格調整後に下方修正された場合、関税が還付される機会が設けられることになった。

<結果的に海外に所得が移転している場合が問題に>
移転価格税制は、グループ企業間での取引価格(移転価格)の操作を通じて課税所得が国外へ移転するのを防ぐことを目的としている。結果として海外に所得が移転しているケースが問題となる。納税者に租税回避の意図があったかどうかは問われない。

また、移転価格は独立企業間で取引される金額(独立企業間価格)でなければならないとされているものの、移転価格と独立企業間価格が乖離した場合でも、納税者の申告価格が減少する場合のみが問題視される。

移転価格税制の当局調査では、取引規模が大きいものの利益率が低い取引、取引相手国が低税率国である場合(取引相手国で利益申告するインセンティブが働く)などが着目されている。

<5月の税関当局の通知、米国への輸出企業には朗報>
移転価格税制と関税についての関係だが、移転価格税制は税務当局の内国歳入庁(IRS)が、関税は税関当局の税関国境保護局(CBP)が監督している。

移転価格は、一般的に企業が海外で行う製造、販売、研究開発などの事業活動の機能に基づいて分析を行うもので、その機能、リスク、無形資産の状況により移転価格算定方法を選定し計算する。そして日本からの仕入れを反映する売上原価が高くなる場合は、米国での利益を圧迫し、税収が減少すると考えられるため注視される。

一方、関税率は、輸入製品の種類により異なる。輸入価格が低くなる場合は、関税率を掛けた関税額が減少するため注視される。

売上原価が高い(輸入価格が高い)場合は税務当局が、売上原価が低い(輸入価格が低い)場合は税関当局が問題視することとなり、税務当局と税関当局のスタンスは相反する。

このような状況の対応に苦慮する企業の負担を軽減する通知が、税関当局から2012年5月30日に発表された。それまでは、価格調整の可能性がある移転価格は確定した価格として認められず、関税の評価額として認められなかった。また移転価格が確定し、その価格が前に提示した額を下回った場合は関税還付の対象とならなかった。それが本通知により、調整の可能性がある移転価格も確定した価格として認められ、移転価格調整後の価格の下方修正において関税の還付を受ける機会が設けられることとなった。

これに伴い、相反する税務当局と税関当局のスタンスの違いに困惑する米国への輸出企業の負担が軽減される。

<税務当局が移転価格税制の専門家を増やす>
その他、最近の移転価格税制に関する動向としては、税務当局が移転価格専門家を増員していること、移転価格の調査内容に、本社機能、ローン保証、駐在員の派遣によるノウハウの移転、無形資産としてのネットワーク、役務提供と無形資産取引の関連などを加え、調査対象を拡大していることなどが挙げられる。

また、移転価格分析で比較される米国企業の業績が回復している場合、その業績に合わせて移転価格の是非が調査されるため、米国企業と同様に業績回復していない日本企業にとって税務当局による移転価格調査は厳しいものとなろう。多くの日本企業は東日本大震災、タイの洪水、円高の影響を被っているものの、それらの影響を税務当局の調査で認めてもらうためには、十分な説明資料を準備する必要がある。ただし最終的に税務当局に認められるかは明らかではない。

さらに、昨今では日米取引だけではなく、新興国に設立されたグループ企業との間で取引が開始されているケースもあるので、相手国での移転価格税制の取扱いを理解して、取引を進める必要がある。

(中川健太郎)

(米国)

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