貿易金融支援を強化へ−ブリック貿易相が輸出促進策を発表−

(EU、フランス)

パリ事務所

2012年11月29日

ニコル・ブリック貿易相は11月21日、輸出支援策の概要を発表し、EUの自由貿易交渉で相互主義の適用を求めていく方針を強調した。また、欧州債務危機の影響で国内の市中銀行が資産圧縮を加速させ、輸出信用に回る資金が減少しているとして、貿易金融に関わる公的支援の強化を打ち出した。政府は2017年までにエネルギーを除く貿易収支の赤字解消を目標に掲げている。

<FTAに4つの条件>
フランスの貿易収支は2004年以降、赤字が急拡大。2011年は719億ユーロ(FOB−FOBベース)と過去最大を記録し、2012年も713億ユーロと高水準にとどまる見通しだ(政府発表)。ブリック貿易相は今回の発表で、フランス企業による輸出市場攻略に向けた政府の優先行動計画として、まず「フランスの輸出関連企業が国外市場で競合企業と対等に戦えるための環境を整える」ため、「欧州通商政策での相互主義の適用を求めていく」との方針を強調した。同相は「EUによるアンチダンピング措置など防衛手段の実施や、日本とEUとの経済連携協定(EPA)について交渉指令案採択に関わる(関係者との)協議の実施は、フランス政府のこうした姿勢を反映したものだ」と述べた。

日本とEUとのEPAの交渉開始についても、フランス政府は慎重な姿勢を崩していない。ブリック貿易相は11月29日開催のEU外相理事会(貿易担当閣僚会合)でも、EUの自由貿易協定(FTA)について「政府調達を含む国内市場への参入に関わる相互性、環境責任や社会的責任への取り組み、雇用へのプラス効果、戦略的分野で急激な不均衡が起こった場合の一時的な自由化制限の可能性」の4つを絶対条件とすることを明言(PDF)した。

<輸出企業への資金供給を活性化>
国内企業向けの輸出支援としては、輸出金融制度の改正を挙げた。「フランスの公的支援が競合国のそれと肩を並べることを目的に」、2012年11月14日に閣議決定した2012年度第3次補正予算法案(PDF)の中に輸出金融支援の強化(PDF)を盛り込んだ。「欧州債務危機の影響からフランス市中銀行は貿易金融業務を縮小しており、フランスの輸出企業は多大な打撃を受けている。輸出信用に関わる資金フローを活性化するため、国が貿易保険会社コファスを通じて100%信用保証を供与する輸出債権のリファイナンス・メカニズムを導入する」という。市中銀行による貿易金融事業の縮小に歯止めをかけることで、輸出企業への資金供給を活性化したい考えだ。

また、主要輸出品目である航空機など飛行体の輸出金融支援として、100%の信用保証供与の対象を全ての飛行体に広げた。これによりヘリコプター大手のユーロコプターや航空機ダッソーのほか、ロシア旅客機「スーパージェット」の開発プロジェクトに参画している航空エンジン大手サフラン、電子機器タレスも同措置の恩恵を受けられることになる。

2013年上半期には、公的機関が輸出企業に直接融資するメカニズムを導入する予定だ。これは「ドイツ、イタリアなど他のEU加盟国が採用している制度に類似したもので、フランスの輸出企業がこうした国の企業と競合する場合にのみ例外的に利用できる」としている。

2013年に設立する公的投資銀行が、向こう3年間に1,000社の中堅・中小企業への輸出支援サービスを供与するほか、既存の輸出金融支援策を合理化・簡素化することで、中堅・中小企業が公的輸出支援を利用しやすくする。

さらに今後、世界の需要は「(生活の)充足感」をキーワードに拡大するとして、フランスは「食品、健康、環境都市整備、デジタル化」に関わる財・サービスを輸出支援の優先戦略分野にする方針を明らかにした。

(山崎あき)

(フランス・EU)

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