緊縮財政と雇用創出策の両立が課題−欧州各国の雇用政策の最新動向(7)−

(ベルギー)

ブリュッセル事務所

2012年11月28日

ベルギーでは、EU域外の高度な資格を有する労働者の確保・受け入れ促進を目指す「EUブルーカード」指令がようやく国内法制化され、9月10日発効した。煩雑な事務処理などの改善に資すると期待する声も聞かれる一方、足元の労働市場では、7%を超えて推移する失業率に改善の兆しはみられていない。こうした中、米国自動車大手フォードは10月、ゲンク工場の閉鎖を発表し、雇用環境に大きな波紋が広がっている。連邦政府は、緊縮財政と雇用創出の両立を迫られている。

<求められる雇用創出策の継続>
国立雇用局(NEO)が発表した2012年9月の完全失業率は7.4%だった。ユーロ圏やEUの平均と比べると相対的に低いともいえるが、7%を超える水準に改善の兆しはみられない(図参照)。

ベルギーの月別失業率の推移

EU経済・財務相(ECOFIN)理事会は7月10日、2012年のベルギー国家改革計画に関する理事会勧告(PDF)を採択した。勧告では、2012〜13年にベルギーが取るべき行動の1つとして、雇用創出と競争力強化を加速させるため、賃金交渉の仕組みや物価上昇に応じて賃金をスライドさせる「インデクセーション」制度の改革に踏み込むよう勧告し、勤労意欲をそぐようなシステム(失業手当と最低賃金のバランス)の改善や、移民労働者など社会的弱者の就業支援を継続していくよう求めている。

一方、連邦政府は10月23日、2012年の財政赤字をGDP比2.8%とする目標を達成させるため、2012年予算でさらに8億1,100万ユーロ削減することを閣議決定するなど、欧州債務危機の長期化と税収減に苦しむ中、EUとの約束を守るべく、緊縮財政を堅持する構えだ。緊縮政策を進める中、どこまで新たな雇用創出・競争力強化策を進めていくことができるか、1年半にわたった政治空白(2011年12月6日記事参照)の解消から1年が経とうとしている連邦政府の前に課題は山積している。

<高資格労働者の受け入れを促進>
景気浮揚のための構造改革の一環として、労働者の受け入れ促進がある。ベルギーでは、高度な資格を有するEU域外労働者に対して発給する滞在・労働許可証「EUブルーカード」制度が、9月10日にようやく発効した。

EUブルーカードの国内法制化は、EU閣僚理事会が2009年5月25日、EU域外からの高技能労働者の受け入れを促進するために採択し、同年6月19日に発効した、いわゆるEUブルーカード指令(2009/50/EC(PDF))に基づくもの(2009年6月1日記事参照)。欧州委員会は、米国、オーストラリア、カナダなど英語圏に流れやすい高資格者の移転に歯止めをかけ、EUの競争力強化につなげたい考えだ。

EU加盟国は、同指令の発効からちょうど2年目となる2011年6月19日までに国内法制化することになっていたが、ベルギーでは政治空白などを背景に作業が遅れ、2012年8月31日にようやく官報に掲載、9月10日に発効した。

<2回目の更新は3年有効に>
EUブルーカードの発給を受けるには、(1)最低1年以上の現地雇用契約、(2)年間グロス給与額が4万9,995ユーロ以上(2012年の場合)、(3)高等教育の修了証明(最低でも学士)を有していることが条件となる。雇用者(あるいはその代理人)はこれらの書類を添え、勤務地を管轄する地域当局に対して、「暫定就労認可」(Autorisation provisoire d’occupation)を申請することになる。

暫定就労認可の申請を受けた地域当局は、必要書類が全てそろっていた場合は90日以内に、認可・不認可の決定を行う。認可が下りた場合、被雇用者は同コピーを添えて、長期滞在ビザ(Dビザ)の発給申請を、居住地のベルギー大使館/領事館に対して行う。

続いて、被雇用者はベルギー入国後、滞在許可証(電子ID)を取得するため、居住地を管轄するコミューンに申請を行う。こうして高資格者からの申請が受理されると、滞在・労働許可証「Hカード」が発給される。このHカードこそが、初回発行時13ヵ月有効のEUブルーカードとなる。

Hカードは、再度、暫定就労認可を添えて申請することで13ヵ月の更新が可能だが、2回目の更新時には3年有効となる。さらに、この2回の更新を経た者は、「旧ブルーカード保持者」として、労働許可の取得が不要な無期限滞在許可「Dカード」の申請ができるようになる。

なお、実際にEUブルーカードの恩恵を受けるのは、ベルギー人との婚姻などを理由に祖国をたっていたり、当初から長期就労を目的にベルギー入りしたりする現地雇用(local hire)の高資格労働者に限られるとみられる。現地雇用といえない駐在員は本制度の対象にならないようだが、従来の労働許可証、滞在許可証制度も存続するため、企業は必要に応じて使い分けていくことになる。

制度の詳細は、連邦内務省のウェブサイトで確認できる。

<フォード工場閉鎖で1万人に影響か>
EU域外からの高資格労働者受け入れを進めるベルギーだが、国内の雇用環境には暗雲が垂れ込めている。フォードが10月24日、ゲンク工場の閉鎖を発表したためだ。

発表によると、フォードは欧州事業再建のため、フランダース地域(オランダ語圏)にあるゲンク工場を2014年末までに閉鎖し、自動車生産を中止する計画について労使協議を開始した。これまでゲンク工場で生産されていた中型車「モンデオ」やミニバンの「S-MAX」「ギャラクシー」といった次期モデルは、賃金がより安価なスペインのバレンシア工場に移管する方針だ。

フォード・ヨーロッパのステファン・オデル最高経営責任者(CEO)は「ゲンク工場の従業員やその家族、サプライヤーやコミュニティーに与えるインパクトは理解するが、生産拠点の再編は、欧州事業強化の根幹となる部分だ」と強調し、リストラの断行について理解を求めている。しかし、約4,300人の従業員のみならず、間接雇用5,000人を含めた約1万人の雇用を揺るがす大きな問題となっている。

ベルギーでは、米国ゼネラルモーターズ子会社のドイツ自動車大手オペルが2010年、アントワープ工場を閉鎖している(2010年1月22日記事参照)。多言語能力や物流拠点としての利点から、多くの自動車メーカーや関連会社がベルギー(特に北部フランダース地域)に拠点を設置しており、今回のフォードの発表は、フランダース地域のみならず、ベルギー全体に大きな波紋を広げている。

(和泉浩之)

(ベルギー)

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