経済低迷下、デザインの本場で順調に販路拡大−MUJIイタリア社長に戦略を聞く−

(イタリア)

ミラノ事務所

2012年11月14日

デザイン性の高い生活雑貨、家具、衣料品などを「MUJI」ブランドで展開する良品計画。同社は世界21ヵ国に180店を展開し(2012年8月現在)、イタリア国内にも2004年の進出から約8年で既に8店を展開。イタリア経済の低迷が続く中、最近も大手百貨店に新規出店を果たすなど、順調に販路を拡大している。デザイン商品の本場での戦略などについて10月10日、MUJI ITALIAの高木美穂社長に聞いた。

<哲学とデザイン性でイタリア進出>
良品計画のイタリア進出は、2004年12月にミラノに1号店を出店したことから始まった。出店のきっかけは、毎年春に開催されるミラノサローネ国際家具見本市に出展し、内外から大きな反響を得たことだった。

反響を得た要因は、素材の選択、包装の簡略化など、徹底して無駄を省き合理化することでモノ本来の魅力を輝かせるという同社の哲学が、イタリア社会に受け入れられたことが大きい。また同社の製品(以下、MUJI)はシンプルでデザイン性が高く、どこに置いてもなじむという点で、イタリアではクールだと評価されている。1号店開店初日の売上高は、同社の海外店の初日売上高の最高額(当時)を記録、イタリア進出は順調な滑り出しとなった。

同社は黒字化の見通しが立たなければ新規出店しないという方針を掲げているが、イタリアでは2006年以降、ほぼ毎年1店のペースで出店している。現在ではイタリア全土に8店を展開し、年間売上高約10億円を誇る規模にまで成長した。現在、同社の欧州における売り上げの約40%は英国の12店によるもので、次いでフランス(10店)が約30%、残りの約30%をイタリアとドイツ(6店)が占めている。

<不況下にデザイン商品競争の渦中へ>
しかし、イタリア経済の不況は同社イタリア事業にも確実に影響している。高木氏によると、進出当初から2010年までは売上高の伸びが続いたが、11年以降は横ばいの状態が続き、特に12年1〜8月は厳しい状態が続いたとしている。イタリアにおけるMUJIの購入層はイタリア人がほとんどを占め、年齢層は35歳から60歳代ぐらいで、比較的所得の高い層が中心だが、今回の不況はそうした層にも大きく影響しているといえる。

このような不況下にもかかわらず、同社は2012年9月、イタリア大手百貨店ラ・リナシェンテのミラノ店に新規出店を果たした。MUJIのイタリア市場での普及もあってラ・リナシェンテ側からの要請で出店が実現した。同社が出店した場所は、デザイン・スーパーマーケットと呼ばれる世界中のデザイン性の高い商品を取り扱うコーナーの一角で、デザイン商品の競争の渦中に乗り込むかたちとなった。また今回の出店場所は、通常の路面店よりも販売スペースが狭いため、「MUJI to GO」という形態で生活雑貨中心の限られた商品展開となる。商品点数が少ないため、頻繁に顧客ニーズに合った商品に入れ替えていく必要がある。

高木氏は、2012年9月以降の売り上げは、前年比で回復傾向がみられるとしており、今回の新規出店を回復への足掛かりにしたい考えだ。

新店舗の様子(筆者撮影)

<ポイントはショーウインドー作り>
イタリア市場では、他の欧州諸国に比較して、雑貨などの細かい商品が売れている。生活雑貨では、イタリア人の旅行好きを反映し、シャンプーなどの液体を小分けにする容器や、スリッパなどの旅行用品が人気だ。家具や衣料品の分野はイタリアが本場であるため難しい面も多いが、プラスチック製の収納ケースや、マフラー、ストールなどの服飾雑貨のように細かい商品で一定の売り上げを確保している。

高木氏は、イタリア市場で販売する商品に必要な要素について、「ユニークな素材、機能、デザイン」だと指摘している。デザイン商品の本場であるイタリアでも、良い品質で、機能に特徴があり、生活のどのような場面にも合うデザインという付加価値があれば売れる可能性があることを示している。

また価格については、質の高さ、通関・輸送にかかる費用などによってイタリアでの販売価格が高くなってしまうことが日本企業にとっての課題となっている。MUJIも同様に、イタリア人には比較的高いというイメージで捉えられているが、同社の客単価は1人当たり約30ユーロ程度で、消費者が絶対に買えない価格ではない。さらに、同社が発信し続けている企業哲学がイタリア人に共感を与えるものであることが、比較的高くても市場に受け入れられている理由となっている。

他にも高木氏は、イタリア人は見栄えや格好の良さなどにこだわり、好き嫌いがはっきりしているため、商品の、特にデザインに対する正しい評価ができる国民性である点を市場の特徴として挙げる。そのため、店舗のショーウインドーのデザインやディスプレーは、消費者との窓口として非常に重要となり、ショーウインドーは必ず設置すべきだと指摘する。同社では、市場ごとに異なった商品開発は行っておらず、限られた商品の中から市場ニーズに合うものを取り入れて各店で商品展開している。高木氏は「日々、トライ・アンド・エラーの繰り返しだが、進出当初に比較して市場ニーズを取り入れた分、売り場作りが大きく変わった」と話す。

イタリア市場は既に成熟しており、日本製で質が良いというだけでは難しい市場だ。そのため、商品に対する哲学やポリシーのアピール、消費者が受け入れ可能な価格設定、ニーズを踏まえた機能とデザインを持つ商品展開、ショーウインドーを活用したアピールが、イタリア市場開拓の重要な要素となるといえる。

<従業員に根付くカスタマーサービス精神>
高木氏は今後のイタリア市場について、経済状況が回復することはあまり考えられず、節約型の消費が続くとみている。また、進出当初に比較してMUJIに対する目新しさが徐々に薄れてきていることもあり、今後はさらに市場で厳しい競争に直面することも予想している。

そのため、良品計画は他社との差別化の1つとして、カスタマーサービスの質の向上を重要な戦略として捉え、来店者へのあいさつ、気配り、商品説明などを、常に従業員に意識させることを徹底している。イタリア経済の低迷は目に見えて顕在化し、従業員の危機感も高まっており、経済危機下でどうすれば客単価を向上させることができるかを、従業員も自発的に考えるようになってきている。一連の取り組みの結果、来店者数は減少しているものの、客単価は上昇傾向にあり、今後カスタマーサービス精神を従業員に定着させることがさらに重要となっている。

また依然として、MUJIを中国企業だと認識しているイタリア人も多く、同社はさらにMUJIの認知度を上げていくことも今後の課題としている。

同社は今まで巨額の広告宣伝費用を投入することなく知名度を向上させてきており、今後もショーウインドーなどを活用し、哲学、デザイン、日本ブランドであることなどをアピールすることによって、「MUJIだから買いたい」という人を増やしていきたいとしている。まだ出店していない都市に住む複数のイタリア人から早期出店の要望を受けることもあり、黒字化の見通しが立てば、1都市1店舗程度の割合で出店を考えている。

良品計画がイタリア進出を果たして約8年が経つ。高木氏は「日々多くの課題が舞い込むが、その都度解決していくしか方法はなく、特にイタリアでは答えが出るまでしつこく続けざるを得ない」と話す。

イタリア市場の開拓には、商品哲学などのアピール、適切な価格設定、ニーズを踏まえ機能とデザイン、効果的なショーウインドーの活用、そして時間と忍耐が必要だ。

(三宅悠有)

(イタリア)

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