サービス分野の外資開放に期待−対米FTAが発効−

(パナマ)

メキシコ事務所

2012年11月09日

米国・パナマ自由貿易協定(FTA)が10月31日、発効した。パナマにとっては一般特恵関税(GSP)やカリブ海支援構想(CBI)を通じた米国の支援が一方的に打ち切られるリスクをFTAにより回避するメリットが、米国にとっては知的財産保護体制の強化、外資制限業種の撤廃など、パナマにおけるビジネス環境改善のメリットが見込まれる。

<協定締結から5年余を経て発効>
このFTAの正式名称は「米国・パナマ貿易促進協定」(2012年10月31日記事参照)で、1991年6月27日に米国とパナマが締結した貿易投資に関する協定に端を発している。

2000年から01年にかけて行われた2国間貿易投資委員会において2国間FTAへの関心が高まり、2001年6月にアルゼンチンで開催された米州自由貿易地域(FTAA)担当相会合においてFTA交渉に関する対話が開始、同年9月にニカラグアで開催されたFTAA通商交渉委員会会合において2国間FTA交渉開始に向け協議することが公式に確認された後、同年12月から2003年にかけてFTA交渉開始のための公式協議が行われた。

そして2003年11月18日に交渉開始を正式発表し、04年4月の第1回交渉以降、計10回の交渉を行い06年12月に交渉終了、07年6月に協定書に署名した。本協定は両国議会の手続きを踏み、署名から5年以上の時を経て発効することになった。

<パナマのメリット:GSPやCBIにおけるリスクを回避>
パナマにとって米国は重要な貿易相手国だ。パナマ会計検査院によると、2011年のパナマの輸出額全体に占める対米輸出額は20.8%、同様に対米輸入額は24.9%を占めている(表参照)。

パナマの対米貿易額の推移

FTA発効以前からパナマ原産品はGSPやCBIによる関税減免の恩恵を受けてきたが、本協定により関税が減免される物品の対象が拡大される。パナマ貿易産業省によると、パナマの米国向け主要輸出品である農産品の76%がGSPおよびCBIの恩恵を受けており、また農水産品の84%、工業品の99%はCBIにより無税となっている。

本協定の発効により米国はパナマ原産品に対し、タリフラインの96.9%の関税を即時撤廃、5年以内に0.2%、10年以内に0.3%、20年以内に2.6%の関税を撤廃する。パナマは米国原産品に対し、タリフラインの67.7%の関税を即時撤廃、5年以内に8.8%、10年以内に20.9%、20年以内に2.6%の関税を撤廃する。

GSPやCBIによる関税減免が従来からあるため、劇的な関税削減メリットはないが、GSPやCBIは米国がパナマに供与する一方的な恩典のため突然適用を停止されるリスクがあり、本協定によりこれらの恩典が保証されたという点でパナマにとって意義がある。

<米国のメリット:知財分野、外資参入制限の撤廃など>
パナマも米国原産品に対して関税を減免するため大規模インフラ工事により需要が活発な建設機械の対パナマ輸出などで恩恵を受けるだろう。しかし、米国にとって本協定は知的財産権保護体制の強化、金融部門の透明性の確保、外資制限業種の撤廃などにおいて意義があるといえる。

知的財産権の保護については協定発効直前の10月に入ってから2012年法律61号「1995年法律45号知的財産法を改正する法律」、同63号「1997年法律23号植物品種の保護に関する規則を改正する法律」、同64号「著作権および著作隣接権に関する法律」が発効、知的財産権保護に係る制度が強化された。金融部門の透明性確保については、2010年11月30日に両国が租税情報交換協定を締結、既に発効している。そして米国にとって有意義なのは、法律62号「米国との貿易促進協定の発効に必要な事項の導入に関する法律」により可能性が開かれた大規模小売店の参入だ。

パナマは憲法293条で小売業への外国資本の参入を禁じている。正確にはパナマ国籍を有する者のみが小売業に従事できるとされており、パナマで展開するスーパーマーケットチェーンは全てパナマブランドだ。ただし、会員制の卸売業ウェアハウス・クラブでは米プライス・スマートが既に事業を展開している。

法律62号は2007年法律5号に定められた卸売業の定義を、「米国との貿易促進協定に定義された複合サービスの提供」と改め、その条件として投資額300万ドル以上、同一施設で物品の販売とサービスの提供を行うこととしている。本来であればウォルマートは小売業と位置付けられるが、憲法改正が困難なための苦肉の策として卸売業に定義したものとみられる。

中米諸国においてウォルマートは事業を積極的に拡大しており、2012年10月現在、ウォルマート・メキシコ・セントロアメリカは、パナマ、ベリーズを除く中米諸国に633店を展開しており、パナマへ進出することは十分考えられる。なお、これらの恩恵は米国企業に限定されるものではない。

また、パナマは本協定発効の約束に基づいてWTOの情報技術協定(ITA)を批准、さらに2012年5月25日付で官報公示された閣議令「ITAに基づく関税の修正」により情報通信関連機器の関税が撤廃された。しかし、2012年法律52号「税法およびその他税制を改正する法律」により情報通信関連機器は内国税である奢侈(しゃし)税の課税対象とされたため、ITA、FTAによる関税撤廃は骨抜きにされている。ただし、情報通信関連機器の平均関税率は引き下げ前で6.8%(「パナマ・アメリカ」紙電子版8月24日)に対して奢侈税は5.0%のため、輸入時に課税される税率は関税撤廃前に比べてわずかに下がる。

(西澤裕介)

(パナマ)

ビジネス短信 509b61afc1d90