注目集めるティラワSEZプロジェクト−ティラワ現地視察・説明会(1)−

(ミャンマー)

ヤンゴン事務所・シンガポール事務所

2012年11月01日

アジアのラスト・フロンティアとして注目されるミャンマー。中でも、ヤンゴン近郊で計画が進められるティラワ経済特区(SEZ)は日本、ミャンマーが共同で進める大型インフラ案件として関心を集めている。ジェトロは、日本ミャンマー協会(渡邉秀央会長)と共催で10月21〜22日に、ミャンマー・ティラワ現地視察・説明会(団長:石毛博行ジェトロ理事長)を開催した。説明会には在ミャンマー日系企業も含め日本企業から160人のほか、報道関係者や現地政府関係者を合わせると参加者は約200人に上り、関心の高さが示された。ティラワSEZの現状と説明会で示された最新のミャンマー投資環境について、2回に分けて報告する。

<ティラワSEZの重要性を強調>
ティラワSEZは、ヤンゴン市から南東23キロにあり、ティラワ港の後背地2,400ヘクタールを開発するプロジェクト。工業団地予定地に隣接してティラワ港が既に整備されている点も魅力となっている。

ミャンマー・ティラワSEZ現地説明会で開会のあいさつをしたジェトロの石毛理事長は「ミャンマーはアジアのラスト・フロンティアと称されており、テインセイン大統領の下、民主化と経済改革が進められている。その改革のシンボルがティラワSEZだ」と紹介した。

現地説明会で講演したカンゾー国家計画・経済開発相は、「ミャンマーには3つのSEZ案件がある。1つはミャンマー南東部のダウェーで、メコン地域とのコネクティビティーの改善を通じ、ミャンマーのみならず、メコン地域の開発にも貢献する案件だ。2つ目にティラワがある。ティラワは、商業都市ヤンゴンに近く、インド洋に接しているメリットがあり、ロジスティクスのハブになっていくことが期待される。3つ目はチャオピューで、中国とのコネクティビティーが改善される」と、ミャンマーで進められる3つのSEZ開発の概要を説明した。

続いて講演したセッアウン国家計画・経済開発副大臣は「ティラワSEZは、商業都市ヤンゴンに隣接し、周辺地域に一定のインフラが整っており、ゼロからインフラを整備しなくていいメリットがある」と述べ、3つのSEZの中では、ティラワSEZが周辺インフラ整備の面で優位性があることを紹介した。

<マスタープランを策定中>
視察団はティラワSEZのプロジェクト・サイトを訪れた。ミャンマー政府担当者や関係者の説明によると、ティラワSEZのマスタープランは現在策定中で、現時点では、製造業用地域、商業用地域、居住用地域を組み合わせながら、開発する計画という。また、ティラワSEZの地質はラテライトで、工業団地に適した土地だとしている。開発面積が広いので、まず「クラスA」といわれる400〜500ヘクタールの土地を優先的に開発する方針であることが示された。

クラスA開発予定地
クラスA開発予定地と接続道路

労働力については、ミャンマー政府担当者は、周辺地域は12万人の人口を擁するとともに、「ヤンゴン市(YCDC:ヤンゴン市開発委員会の管轄エリア)の人口は2010年時点で470万人、人口増加率は2.5%、加えてヤンゴン管区の東西地域は人口密度の高い地域で、人口移動が現在も起きている」とし、ヤンゴン市周辺の人口が労働力の供給源となるとの見通しを示した。

一方、いくつかの課題もみられる。これまでの調査では、特に水について、ティラワ工業団地内の地下水には塩分が混じっているとし、どの程度、海岸から離れれば塩分の少ない水が得られるか調査中だとした。品質の良い工業用水の確保は、今後のティラワ工業団地開発のフィジビリティーを決める重要な要素となるとみられる。

また、ヤンゴン市とティラワSEZを結ぶアクセス道路についても今後、整備が必要だと指摘された。現在、ヤンゴン市とティラワSEZを結ぶ橋にはタンリン(Thanlyin)橋とダゴン(Dagon)橋の2つがあるが、タンリン橋は片側1車線で、重量は40トンに制限、ダゴン橋は片側3車線で、重量は60トンに制限されている。

<ティラワ港は2万トン級5隻の接岸が可能>
ティラワSEZの物流の要となるティラワ港は、ヤンゴン川の河口から16キロ北に位置する河川港だ。ティラワ港は全長1,000メートル(5バース)、水深は10メートルで、水深9メートル・2万トン級の船が同時に5隻接岸できる。港の後方に奥行き750メートルの後背地があり、コンテナ港として適しているとされる。

ただし、河川港であるため、定期的なしゅんせつが必要だ。現地担当者は全長1,000メートルのうち、400メートルを毎年しゅんせつしていると説明した。また、河口からティラワ港の間に水深6メートルの浅瀬があるため、ティラワ港の出入港は海の満潮時に制約されているという。

<円借款による支援の期待も>
本説明会に出席した日本政府関係者からは、ティラワSEZの開発について、複数のフィジビリティー・スタディーを実施中で、2012年末までにはマスタープランを完成させる方針が示された。

日本とミャンマーの間では、過去の円借款の延滞債務問題があり、円借款再開には延滞債務問題を解決する必要がある。2012年4月の日本・ミャンマー首脳会議では、総額約5,000億円の延滞債務のうち、約3,000億円の債務免除の方針が確認されている。加えて、2012年10月にIMF・世銀総会に併せ開催された「ミャンマーに関する東京会合」(日本政府主催)で、日本は「12年4月の首脳会談で合意された円借款の延滞債務解消のための措置を、13年1月に実施する」と表明している。また、延滞債務問題解消を前提に、日本政府は「13年のできるだけ早い時期に、円借款による本格的な支援を再開する」方針を表明しており、ティラワSEZの開発は新規案件の候補として注目されている。

(椎野幸平、水谷俊博)

(ミャンマー)

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