製造拠点として一定の評価得る−投資環境調査ミッションを実施−
ブカレスト事務所
2012年10月19日
「ルーマニア投資環境調査ミッション」が10月11〜12日、ルーマニア南東部を訪れた。参加者からは製造拠点としてのルーマニアに一定の評価をする声があった。当地に進出している日系製造業も製造拠点としてのルーマニアを総合的に肯定評価しメリットがあるとしているものの、不安定な政治状況については問題視している。
<自動車や物流など18社が参加>
オランダ三菱東京UFJ銀行とジェトロ・ブカレスト事務所は10月11〜12日、「ルーマニア投資環境調査ミッション」を派遣した。西欧、中・東欧、日本などから自動車や物流関連を中心に18社22人が参加した。
ミッション1日目は、ルーマニア貿易投資センター(CRPCIS)から投資環境の説明を受け、プロイエシュティ(首都ブカレストから北へ車で約1時間)にある日系製造業の工場訪問と工業団地の視察をした。2日目は黒海に面するコンスタンツァ港(ブカレストから東へ車で約3時間)訪問と在ルーマニア日本商工会会員企業との懇談などを行った。
参加者からは、「ルーマニアに対する先入観が変わった」「(ミッション参加が)ルーマニアに対するイメージの修正に役立った」「ルーマニアは製造拠点として適している」とコメントが寄せられるなど、全体的に肯定評価の声が多かった。ただし「ブカレストからコンスタンツァまでの移動時間が長く感じた」との意見もあった。
<物流インフラ面はようやく改善>
プロイエシュティ〜ブカレスト間とチェルナボダ(ブカレストから東へ車で約2時間)〜コンスタンツァ間の高速道路が2012年8月に新たに開通し、プロイエシュティからブカレスト経由でコンスタンツァまでの高速道路がつながった(ただし、チェルナボダ〜コンスタンツァ間は現在一部区間で片側通行)。西部地域が高速道路網が充実してハンガリー経由で西欧へのアクセスが容易だったのに比べ、ブカレストを中心とする南東部は両区間の高速道路の整備で、ようやく物流インフラ面での改善がみられたという状態だ。
ブカレスト周辺のワーカークラスの賃金レベルは月額419〜565ドル(グロス)と、EU加盟国の首都の中ではブルガリアのソフィア(470ドル)に次いで低い(ジェトロ「2012年度投資関連コスト比較調査」)。ジェトロが当地進出の日系製造業数社にヒアリングしたところによると、賃金水準自体は中国などのアジアに比べて高いものの、賃金上昇率は比較的落ち着いているという。ちなみに、国立統計局によると2011年の賃金上昇率(年平均)は4.1%だ。また、ルーマニアの労働者は真面目に働く人が多く、手先も器用で、離職率は地域差はあるものの比較的低く、ストライキによって操業停止に追い込まれることもないという。
<日系製造業が3万2,000人を雇用>
ルーマニアの物流インフラ面や雇用面などで、「これだけは確実にどの国にも負けない」という絶対的なメリットを感じている日系製造業はなかったが、上述のような複数の要素を考慮した総合評価で、ルーマニアは製造拠点として各社の中で一定の評価を得ているようだ。欧州債務危機により、雇用数を激減させた進出日系製造業は1社もなく、むしろ全般的に増加傾向にある。なお、進出日系製造業による雇用総数は約3万2,000人(ジェトロ・ブカレスト調べ、2012年10月時点)。
2012年5月のポンタ政権の誕生以降、左派のポンタ首相と右派のバセスク大統領との確執による不安定な政治状況が続いている。特にバセスク大統領罷免のための国民投票の実施が決まった6月以降、政治の不安定さを為替市場が嫌気し、対ユーロでの通貨レイ安が進行した時期があった。レイ安により国外からの資材の輸入価格が上がり、生産コスト面で影響を受けているという日系製造業は多い。
(古川祐)
(ルーマニア)
ビジネス短信 507f67b628c58