外部組織の活用や台湾企業との連携が有効な手段−「中小企業の中国ビジネス展開の展望」セミナー(1)−

(中国)

中国北アジア課

2012年10月19日

ジェトロは10月2日、「中小企業の中国ビジネス展開の展望」をテーマにセミナーを開催した。2回に分けて内容を報告する。セミナー前半では水処理・環境関連のベンチャー企業ナガオカ(本社:大阪府泉大津市)の三村等社長が「中国水ビジネス参入戦略」、企業の海外展開を支援する首都圏産業活性化協会の岡崎英人事務局長が「台湾企業とのビジネス・アライアンスを通じた中国展開事例」と題してそれぞれ基調講演を行った。

<顧客目線でのスピーディーな事業展開が重要>
基調講演の概要は以下のとおり。

○ナガオカの三村社長
当社の中国関連ビジネスとしては、まず10年前に石油関連事業に参入した。水関連事業に参入したのは3年前。中国市場へは戦略を持って参入することが重要だ。

日本企業は革新的な技術、製品に強みを持っている。しかし、自社製品の優秀さを過大評価するあまり、相手のニーズを理解できていない場合がある。その結果、自社の枠を超え全体のパッケージとしての提案ができないケースが少なくない。重要なのは客先の声に対等な目線で応じ、迅速な意思決定を行うことだ。水ビジネスにおいては、相手先が最終的に欲しているのは、膜などの部品ではなく水であると認識すべきだ。

中国の水市場の規模は日本の20〜30倍はあるだろう。日本の高度な技術や高性能な製品に対するニーズも高い。日本市場だけでは今後のさらなる成長は難しいため、日本から動かないことはリスクだ。

中国市場進出に当たってはリスクもある。例えば知的財産権の侵害が挙げられる。その対応策としては特許取得など法律面での権利取得が最も望ましいが、信頼できる相手との提携や、政府レベルの機関と共同で事業を進めることも侵害を防ぐ1つの手段になる。事業の展開にリスクは付き物であり、これは中国に限ったものではない。

中国での水ビジネスの展開では、農村部での展開が有望だ。沿海部の大都市には既に欧米系の水メジャー企業が参入しており、中小企業が入り込む余地は小さい。農村部であれば、水道設備の普及が遅れているほか外資系企業の参入も進んでおらず、市場参入のチャンスは比較的多い。

当社の中国でのビジネス展開においては、産学官との連携・活用を重視している。厚生労働省を中心とするミッションや、各地で開催されるセミナー、展示会に積極的に参加することで、中国の関係政府機関、技術研究機関や水道事業体の要人との関係構築を進めている。

国際水協会(IWA)の活用も有効だ。IWAは130ヵ国・地域の水分野の関係者が会員となっている国際機関。ここで自社の最新の技術などを積極的に発表し、協会の役員とも関係を構築している。このような関係構築は日本政府が苦手とする分野でもあり、民間企業として積極的に推進してきた。日本企業がIWAを活用して海外進出ができるよう、2011年10月にIWA、日本政府、関連協会、企業が参加する意見交換会を東京で開催し、メンバー招請、会議設営などを行った。

また、当社は住宅・都市農村建設部、水利部といった中国の中央政府との関係を強化し、「『Top to Down』×2」(組織の上から攻める、組織のトップが自ら交渉する)で事業を行っている。住宅・都市農村建設部は都市部、水利部は農村部の水道を管轄しており、この2つの部門と連携することで、中国の水市場の80%をカバー範囲に含めることが可能だ。セミナーなどを通じて住宅・都市農村建設部、水利部のトップと関係を構築した上で、下部組織を紹介してもらうというかたちを取ることが有効だ。日本企業は往々にして、下部組織や担当者レベルでの打ち合わせを通じてビジネスを決定しようとするが、どちらにも決定権がないのが実情だ。中国ビジネスにおいてはトップ同士が直接話し合い、決定事項を地方や下部組織に通達してもらうという方法が効果的だ。そのためには日本側も企業のトップが自ら交渉に出向く必要がある。

住宅・都市農村建設部、水利部、関連の協会、地方政府の水道事業体などが協力してモデル事業を行い、メディアにPRすることも有効だ。政府や協会の関係者を通じ、自社の技術力の高さについて言及してもらうことで、周辺の地域からも同様の事業の引き合いが寄せられることが期待できる。また、中国の水メジャー企業との連携も有効だ。

自社の取り扱う上水分野の枠を超え、下水や汚物処理などその他の顧客のニーズにも柔軟に応えるため、環境分野で高い技術力を持ち、関西に本社を置く企業とともに水・環境関連の事業連合「関西HANDs」を結成した。水源汚染防止、再生水の回収、廃棄物のエネルギー・肥料への転換などの多様なニーズに対応している。

中国市場への参入に成功するために必要な施策をまとめると、(1)積極的にフォーラム、セミナー、展示会に参加し、政府要人などとの人脈を形成し、中国側のニーズや問題点を把握した上で、顧客に対しトータルシステムでの提案を行うこと、(2)日中企業が協力してモデル事業を構築し、中国内での水平展開を進めること、(3)「『Top to Down』×2」によりスピード感を持った対応をすること、(4)「ウィン・ウィン」の関係を構築すること、(5)中国の現地・現場の仕事は中国人に任せること、が挙げられる。

<日本企業と台湾企業それぞれの優位点を活用>
○首都圏産業活性化協会の岡崎事務局長
中国ビジネスに成功するためのポイントを成功事例から探ると、大きく3つに分けられる。まず、相手企業の信頼を得ること、次に契約内容をしっかり確認し、冷静に判断すること、最後に中国でのビジネススピードを踏まえた対応をすることだ。

しかし、日本の中小企業にとって上記のポイントを満たすことは容易ではない。不足点を補うためには、台湾企業と連携することも有効な手段となる。台湾企業との連携が有効な理由としては、以下の3点が挙げられる。

(1)台湾が中国と自由貿易協定(FTA)に相当する海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)を締結したこと。ECFA締結により中国側の関税が撤廃された品目については、台湾で製造して中国へ無関税で輸出できるメリットがある。

(2)日本企業の技術力と台湾企業の経営力・販路開拓力に補完関係が成立すること。台湾企業は中国だけでなくASEANや南米にも販路を持つなど、優れた販路開拓力を持っているところも少なくない。

(3)台湾政府が日台連携ビジネスの後押しを積極的に開始したこと。

さらに、これら3つの要因に加えて台湾には親日家が多いことも利点となり得る。

当協会は台湾と2008年から交流事業を開始し、これまで合計5回の商談会と展示会をそれぞれ実施した。2011年4月には台北市に台湾事務所を開設。特に「台湾工業技術研究院」および「金属工業発展研究センター」と覚書(MOU)を締結し積極的に協力を進めている。台湾事務所には日本企業の製品を展示するスペースを設け、台湾企業へのPRを行っており、商談を行うことも可能だ。

2011年度に開催した「対日技術・商務交流商談会ツアー」には日本企業8社、台湾企業約40社が参加し、計47件の商談が行われた。商談の場を提供するだけでなく、契約に結び付くまでの支援に力を入れている。

台湾企業とのアライアンスについては、a.台湾からの部材調達、b.テストマーケティング、c.日本から製品、技術を提供、d.日本からの技術移転、e.台湾の海外展開ネットワークの活用、f.アジアの国際分業、という6つのモデルがある。

特にc.では高付加価値化を推進している。例えば、埼玉県の機械器具製造業者は県や国の助成金を活用し、新技術による機械部品の新製品を開発した。日本では順調に売り上げを伸ばしていたが、リーマン・ショックにより国内での売り上げが減少し、2009年に海外販路開拓へ活路を求めた。そこで、工作機械を製造する台湾企業と連携し、同社の部品を台湾企業の製造する工作機械に搭載し、中国へ販売することで成功を収めている。

台湾企業からはグローバル展開について学ぶべき点が多い。中国各地には商工会議所に相当する「台商協会」という組織があり、台湾企業の中国進出の窓口となり、さまざまなサポートを行っている。台湾企業と連携することで、こうしたサポートを活用することも可能だ。以上のことから、台湾企業が前衛(販路開拓)、日本企業が後衛(技術)となり、イコールパートナーとしてウィン・ウィンとなるビジネスモデルを構築し、中国市場に展開することを積極的に推進している。

(河野円洋)

(中国)

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